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護衛艦隊の荒方を片付けたところで旗艦へと向き合う。犬が伏せたような体勢の旗艦は、前腕の先端が開き、さらなる迎撃機を吐き出してきた。
先程までの戦闘機より一回り大きく、動きも鋭い。スカイブルーの機体は漆黒の宇宙では目立つがその分、性能の良い動きがはっきりとわかる。
「さっきまでの雑魚とは違いそうだ。シーナはきっちり援護してくれよ」
『了解です、マスター。バンバン倒しますよ!』
こっちの意図を理解しているのかわからない返しだが、まあ問題はないだろう。多分、きっと。
4機で編隊を組んで近づいてくる。先頭を飛ぶ機体を中心に、右に1機、左に2機、少し後方に控える形で飛んでいた。
射程距離へと入るかどうかという所で、敵が一斉射。一糸乱れぬ攻撃は練度の高さを伺わせる。
「まあCPUだから当たり前っちゃあ当たり前だけど」
もちろん、その攻撃自体はあっさりと避けられる。下へと潜り込むようにしながら距離を詰めていく。すると敵機は時間差での射撃を行ってくる。これもリズム良く目標位置をずらしながらの攻撃で、パターンがあるので避けやすい。
そのまま距離が詰まり機体が交錯する。
「シーナ、攻撃」
『任せてください、うりゃりゃりゃりゃーっ』
中口径バルカンがハミングバードのマーカーに向けて発射され、そのまま交差する敵機へと命中。しかし、大型機のシールドはその程度では撃ち抜けなかった。
「ダメージ感ないな」
『シールドは削れてますよ』
「でも次の攻撃までに回復するだろうし、ダメージ量で機体を入れ替えてくるだろ」
『むむーっ』
ほぼ最高速で交差した敵機は、弧を描きながらこちらへと機首を巡らせる。ハミングバードは急制動をかけてその場で反転。こちらから迎えに行く形で接近していく。
『マスター、敵艦から攻撃が来ます』
「おおぅ、そうか」
伏せ犬型戦艦の顔にあたる部分に搭載された要塞砲が、こちらの鼻先に向かって放たれた。目から怪光線的な見た目だが、要塞砲なので侮れない。
ハミングバードを急停止させて、攻撃が終わるのを待つと、スカイブルーの4機は準備万端で向かってきていた。
「連携してくるとか、なかなかやるな」
『マスター、こっちの連携も見せつけましょう』
「いや、バルカン効かないし、シーナは後方待機で、防御優先で」
『えーっ』
バリスタが当たれば戦えるんだろうが、通常のレールガンよりも弾速が遅いバリスタの矢を戦闘機に当てるのは至難の技だ。
おとなしく周囲の警戒を任しておくしかない。
「戦艦を倒すのにお前が必要だからな、ここで失う訳にはいかない」
『わかりました。しっかり応援します!』
とはいえ相手は4機、連携しながら攻撃してくるので隙も少ない。ならば隙を作って攻撃していく事にした。
「闘牛士の如く」
蜃気楼システムを使用して、宇宙空間に赤い布を展開する。ゆらゆらと揺らめくそれで、相手の視界を奪いつつ立ち回る。
『オーレッ』
布をはためかせ、敵機の連携を崩しつつ、交差する際に、高速振動剣でダメージを与える。大型戦闘機で前よりも的が大きいのと、マーキングのためにギリギリまで接近を繰り返したおかげで、近接戦闘が前よりも楽にできていた。
「とはいえ、やっぱ強敵か」
高速振動剣でも簡単に切り裂けるような装甲はしていなかった。耐火性能が高いのだろうか。焼き切るのに時間が掛かり、その間に剣を振り切って逃げられてしまう。
高速振動剣のスラスターではその加速にはついていけず、与えるダメージはそこまで大きくはできなかった。
「とはいえ、次元断層剣を使ったら、エネルギーが尽きるからなぁ」
敵機の視界を奪って、互いにぶつけようと誘導してみたが、そこはちゃんとレーダーで避けられてしまう。
そして相手の武器は大口径粒子砲。ハミングバードでは一撃で致命傷になりかねない。
「ただパターンは掴めてきたなっと」
敵に付かず離れずで接近戦を繰り返すうちに攻撃してくるタイミングや、回避する軌道が見えてくる。この辺、プレイヤー相手だとフェイクを混ぜてくるから対応が難しいが、CPU相手なら見切れそうだ。
布に向かってきた機体を避けながら背後へと回る。それに気づいた敵は左へと逃げようとするが、次の瞬間には右へと大きく舵をとる。
それを追いかけて加速するところで一旦スピードを緩めると、目の前に粒子砲が通り過ぎた。他の機体からの援護で、追跡を振り切る動きだが、予め読めていたので、粒子砲をくぐり抜ける様にして加速。
一気に距離を詰めた所で、高速振動剣を打ち込む。刺さった剣を抜こうと加速する敵機に対して、こちらもワイヤーを巻取りながら加速して、追いついた所で体当たりするように追随。剣を奥へと押し込んでいく。
暴れる敵機に合わせて軌道を修正しつつ、剣が溶断する時間を稼げば、切っ先がコアへと到達。致命傷を与えた感触を得て離れる。
止めに粒子砲を何発か撃ちこんで終了っと。
「まずは1機だな」
『マスター!』
「おわっとーっ」
仲間をやられた事で他の3機からの攻撃が激しくなった。三角形編隊で連続的に砲撃しながら近づいてくる。直線的な動きだが、攻撃の密度が濃いので一旦離脱。距離を詰める算段を立てないといけない。
しかし、敵機と距離ができたら、伏せ犬戦艦からの砲撃がやってきた。精度は高くないが幅広の粒子砲が、宇宙空間をなぐように通り過ぎるのは肝が冷える。
「この状況を変えるにはっ」
「シーナ、シールドドローン展開」
『了解です、マスター』
シーナと合流しつつ、ドローンを展開。防御シールドを張れるドローンで相手の攻撃を抑制する。ただドローンの出力では無効化はできないので、直撃弾の軌道をずらす程度だ。それでも距離を稼げる。
連続した砲撃の中、シールドドローンを消費しながら距離を詰め、正面から交差する。高速振動剣では致命傷を与えるまでに時間が掛かりすぎるので、次元断層剣で一気に撃破を狙う。
「こなくそっ」
最後のシールドドローンが破壊され、最後は根性で回避しながら通り過ぎざまに剣を振るう。至近の1機を撃破、その左隣の機体にもダメージを与える。
「シーナ、止め」
『任されました、マスター』
主翼にダメージを受けて、機動力を削がれた機体をシーナのバルカンが追撃ちする。下手な鉄砲でも数撃ちゃ何とかなる。
撃ちながら軌道修正して徐々に直撃が増えていき、やがて撃破へと至った。
「残り1機だが……エネルギーがない」
次元断層剣を使用したのでクールタイム中、高速振動剣も使えない。何とか時間を稼がないと……と思っていると、最後の1機は伏せ犬戦艦へと戻っていった。
「何にせよ助かった。クールタイムが終わるまで時間稼ぎながら近づくぞ」
『了解です、マスター』
コンドル型とドッキングして、エネルギーを分けてもらいつつ、敵艦を目指す。もちろん、敵艦も黙ってはいない。要塞砲で迎撃を試みてくるが、元々要塞砲は艦隊同士や、大群を薙ぎ払う様な兵器。単機の戦闘機を狙うには向いていない。
極太の粒子砲は見た目に派手で怖いが、前兆から発射までの時間で砲身の向きを確認すれば、どの辺りを狙っているかが分かるので、避けるのは難しくなかった。
しかし、一定距離まで近づくと、対空用パルスレーザーが撃たれ始める。シーナのバルカン同様、狙いは雑でも弾数が多ければ避けようがない。
まだ距離があるうちは間隔があるが、近づけば近づくほど、弾の密度は上がっていく。
「でもこんなのは、アンコウで経験済みだな。相手の回頭速度よりも早く横に動けばいいだけだ」
まあ距離があるうちは上回れないが、近づいて行けばそのうち追いつけなくなる。
あとはシーナのバリスタで仕留めるために、マーキングできる距離まで近づくだけだ。
「単機撃破してやるぜ」
『マスター、私のバリスタがあるから倒せるので、単機ではないですよ』