167
しかし、そうは問屋が卸さない。
敵艦隊に近づけば、戦艦から戦闘機が出撃してくる。海上の戦艦と違って、航行船をベースにした戦艦は、艦載機を積んでいるのがデフォルトだ。
中型の戦艦から8機の戦闘機が向かってくる。
「俺が中へ入って撹乱するから、援護を頼む」
「了解です、マスター」
敵の戦闘機と乱戦になれば、艦隊からの砲撃は少なくなる。なので目の前の戦闘機に集中する事ができた。
敵戦闘機へと肉薄し、攻撃する事なく通りすぎる。するとそこへとシーナからの援護射撃が飛来して、撃墜していく。
これはシーナの射撃レベルが上がったのではなく、拡散粒子砲ドローンの応用だ。ハイドロジェンの船体の下方にマーカーを置き、それを目掛けてシーナに射撃をしてもらう。
するとマーカーに誘導されて、外すことなく狙いのポイントが撃ち抜ける仕掛けだ。
相手にかなり近づかないといけないので、汎用性は乏しいが、前衛は回避に専念しつつ、後衛はタイミングを測って攻撃するだけなので、役割分担がしっかりとできて、戦闘効率が上がっている。
「百発百中ですよ!」
「俺のおかげだけどなっと、そろそろ戦艦に向かうぞ」
同じ原理で戦艦への攻撃も可能だ。俺が敵のウィークポイント、艦橋やエンジン付近へと接近し、マーキングした所へ、シーナが小型化した杭、バリスタを撃ち込んでいく。
実体弾はエネルギーシールドでは防げない。
そのまま弱点を撃ち抜かれて、戦艦は撃沈していく。
「いけそうだな」
「私の腕にかかれば、艦隊なんてチョロいもんです」
「はいはい」
戦闘に関してはすぐに調子に乗るシーナだが、それも納得の戦果を上げていく。主戦場から少し離れた場所にいた5隻の中型戦艦を沈めて、弾薬補給のためにシュネーヴィントへと引き上げた。
シュネーヴィントには戦場全体の情報を集めてもらっていたが、右翼でも動きが見られる。玉藻御前も上々の戦果を挙げていたようだ。
玉藻御前に提供した策も、先程俺達が使っていた方法とそこまで大きな差はない。
シールド型戦闘機にマーカーを持たせ、4機程でエネルギーシールドの境界へと向かう。そこに盾を組み合わせて作った銃口へと、ナインテイルからの要塞砲を誘導する仕組みだ。
エネルギーシールドの内側へと銃口を突っ込んで要塞砲を撃ち込めば、戦闘機の比ではないダメージが叩き込める。
問題となるのは、銃口となるシールド機をいかに守るかだ。そこはポチョを中心とした護衛部隊がカバーする事になる。
拠点防衛は慣れたもののはずだから、そこは危惧していない。
あとは銃口を担当する部隊を複数用意していけば、ナインテイルから続けざまに砲撃を行い、艦隊に大打撃を与える事も可能だろう。
実際、右翼の停滞していた戦線も徐々に押し始めていた。
「次はハミングバードで出るから、途中までの運搬は頼んだ」
「道がコンドルかもしれませんが、ご了承ください」
「まあ中型艦を相手にしてたら弾が足らんからな。大型を狙いに行くぞ」
「コンドルで運んどる……」
「はいはい」
シュネーヴィントを発艦して再度敵艦隊へと向かう。先程の戦闘で思ったよりもスムーズに事が進んだので、敵艦隊の奥にいる大型艦を狙う事にした。
もちろん護衛艦隊や戦闘機もウヨウヨいるはずなので、ハイドロジェンではなくより小回りの効くハミングバードでの出撃だ。
最高速に制限のあるハミングバードを、シーナの操るコンドルにドッキングさせて運んでもらう。速度が上がっていくと、残骸に引っ掛けただけで装甲に穴が開くからな。大型戦闘機の装甲に守ってもらう形だ。
シーナの操るコンドルもチューニング済みで並の戦闘機よりも疾い。最高速は抑え気味ではあるが、瞬間加速を上げているので、小型機に負けない機動を確保している。
敵艦隊に近づくと、迎撃のために艦載機が発艦してくるが、交戦距離に近づく前にさっさと通り過ぎていく。
追いかけてきて包囲されると危険だが、艦載機にはテリトリーがあって艦から一定距離はなれると帰っていくようだ。
しばらく進むと敵艦隊も予め艦載機を発艦させて待っている事もあったが、そこは大型機の戦闘力を活かして、中型粒子砲のバルカン弾をばらまき、進路上の敵を除いていく。
「どけどけーっ」
戦闘機に乗ると性格が攻撃的になるシーナは、気持ち良さそうにバルカンを乱射している。こいつはハンドルを握らせちゃダメなタイプだな。自動運転が実用化されてもAIに性格があったりすると、事故は減らないかもしれない……。
などと他愛もない思考を遊ばせているうちに、目標となる大型艦が見えてくる。左翼の一部を率いているであろうその船は、犬が伏せたようなシルエットの艦だ。
前後の脚がカタパルトになっており、艦載機がワラワラと上がってくる。
「それじゃ本番といきますか」
「了解です、マスター」
コンドルからハミングバードを分離して、艦載機の群れへと突っ込んでいく。船体を回転させると、ハミングバードから一定距離に設定しているマーカーが螺旋を描く。
そこへとコンドルからバルカン弾が飛来、ハミングバードへと寄ってくる戦闘機にダメージを与えていった。
「中型機が多いか。バルカンでも撃破までに少し時間がかかるな」
先程までの艦載機よりも一回り大きい。その分、エネルギーシールドも厚いらしく、バルカンの直撃を受けてもしばらくは耐えてしまう。
すると至近距離から攻撃を食らう羽目になるのだが、そこはハミングバード。易々と被弾するようなヘマはしない。
「これだけ近ければ、俺でもはずさねーし」
中口径粒子砲をカウンター気味に放てば、バルカンのダメージと併せて撃破もできる。
「ただやっぱり数が多いな……」
「そりゃ二人で攻めれるバランスじゃないですし」
「そこを突破するのがゲーマー魂ってやつだな」
「仕方ありませんねぇ」
ハミングバードだけなら隙間をくぐりながら敵艦に近づけるかもしれない。しかし艦載機に囲まれた状態でシーナを放置するのはまだ怖い。
ある程度数を間引かないといけないな。
コンドルの武装は、中口径バルカンと小型杭のみ。範囲殲滅するような兵器はなかった。といってハミングバードも二本の剣と中口径粒子砲のみで、やはり大量の敵を相手にする武器はなかった。
「となれば火力は現地調達だな」
俺は艦載機を引き連れて、大型艦の周囲に展開する護衛艦へと近づいていった。
「弾幕薄いよ、何やってんのってね」
護衛艦へと近づけば、対空火器による攻撃が始まる。しかし軍艦の火器は基本的に命中させるよりも数をばら撒いて近づかせない目的で使われる。
そこへ艦載機の群れを引き連れて突っ込めばどうなるか。
俺は誤射が怖くて攻撃を控えるタイプだが、護衛艦の艦長はそうではなかったらしい。艦載機を撃墜するのも厭わずに火力を吐き出してくれる。
まあ侵入者を放置すれば、さらなる損害が予想できるんだから、フレンドリーファイアで手控えするのは愚策なのだろう。
「しかし、その射撃精度では当たらんよっ」
BJの基地でミサイルを引き連れて飛び回ったのと同じ要領で、護衛部隊を弾幕に晒す。さすがにミサイルほど簡単に撃墜される事はなかったが、それでも被弾が増えていけば、撃破されるものも出てくる。
数が減ってダメージが蓄積してきたところで、シーナの元へと連れていき、確実に仕留めていった。
「邪魔者はあらかた片付いたから、本丸を攻めるぞ」
「オーキードーキー、目指せ撃墜王〜」