166
アストナージはヴァルハラ連合でも上位の整備技師で、基本的に他の救援隊から一目置かれている。そんなアストナージを苦戦している現場へと、資材と共に届けるのが俺の役割だ。
実作業を手伝った方が良いかとも思ったのだが、足としてシュネーヴィントを動かせる方が重宝された。
そのためアストナージが現場に行っている間は少し余裕ができたので、戦場の状況を確認している。
正面で叩きあっていた日本陣営と敵艦隊主力。その側面へと回り込んだ海外陣が攻勢を仕掛けて戦線は大きく動いた。
艦隊として弱点となる側面への攻撃ではあるが、対応は考えていたらしく、すぐに反撃に転じている。
敵艦隊の側面には大型の航行船が並び、それらが攻撃部隊と正対する事で主砲の撃ち合い。そのまま流れ込むように戦闘機同士のドッグファイトが始まっている。
「海外勢は恐れを知らないのかね」
「やられる前にやれって感じですね」
被害をものともせずに特攻をかけて、傷口を広げようという思い切りは日本陣営とは違った雰囲気だ。
倒される前提で、それまでにいかにポイントを稼いでおくかという勝負をしているように見える。
「短期に勝負を決する必要があるのか……?」
「新たな艦影を確認、レッドネーム、海賊です!」
「なるほど、日本の海賊達より海外の海賊は仕掛けが早いのか」
『船内に戻りました、次へお願いします』
「了解した」
海賊の襲来は気になるが今の仕事は輸送だ。そっちを優先させないといけない。
「ひとまず航行不能艦の修理は完了しました」
最後に修理した航行船が戦場に戻るのを見送ると一息つけた。
「後は弾薬の素になる素材の輸送ですが、これは流石にウチのクルーでやります」
「いや、修理作業用の航行船で前線への補給は無理だろ。各個撃破されるのがオチだ。それもウチのシュネーに任せとけ」
「……すいません」
アストナージとすれば部外者の俺に頼るのは心苦しいのかもしれないが、適材適所を考えれば鈍足の修理作業艇を最前線に運ぶより、シュネーヴィントで配った方が安全で確実で迅速だ。
「ちゃっちゃと済ませてしまうぞ」
弾薬自体は航行船に積んだ工作機械で作れるが、その素材は大量に積んでおくと戦闘機を載せられない。戦闘機を追い出し、弾薬が不足しそうなタイミングで後方から補給する作戦だった。
それぞれ修理用航行船に積載して前線への片道切符とするつもりだったらしいが、俺ならもっとスピーディーに補給して回ることができる。
汎用素材を積載し、前線へと発進した。
そうやっていくつかの船に補給を行っていくと、徐々に前線が近くなっていく。補給が必要なのは実体弾を使用するミサイル機やレールガン機の母艦。
基本的には前線の後方にいるが、それでも流れ弾は飛んでくる。
シールドに何発か被弾することもあったが、撃墜されるような事もなく補給を済ませていく。
『この艦で最後です』
「わかった。一旦、後方へ退避する」
『あ、ちょっと待ってください、物資を止めてた鎖が流れて……』
「待て、戦闘機が近づいてきてるっ」
アストナージが流れた鎖を捕まえようと球体の作業艇で甲板へと飛び出していた。そこへ戦闘機が特攻を仕掛けてくる。シュネーヴィントであれば避ける事もできたが、そうするとアストナージは置き去りになってしまう。
俺は中口径バルカンで撃墜を狙うが、左右に揺れながら近づいてくる戦闘機に有効打が与えられない。
やがてシュネーヴィントのエネルギーシールド内へと突入した戦闘機が粒子砲を発射。航行船の装甲を撃ち抜くには足りない火力だったが、甲板へ出ていた作業艇には致命傷だった。
粒子砲の一発を受けた作業艇にはシールドなどもなく、そのまま直撃。甲板上で爆発してしまった。
「アストナージィィィ」
『すいません、死に戻りました』
スキーズブラズニルへと死に戻ったらしいアストナージから即座に通信が入った。何というか、色々と台無しである。
『ひとまず補給任務も終わってましたし、今からこっちを拾ってもらうのも悪いんで、霧島さんは自由に行動してください』
「あ、ああ、分かった」
アストナージを撃った戦闘機は既に他の艦によって撃墜されていた。
戦況としては日本陣営は敵艦隊と戦闘機同士で叩きあう交戦距離に入っている。米国勢は乱入してきた海賊に足止めされて、敵艦隊も含め三つ巴の戦い。
左翼の韓国勢は敵艦隊に取り付いて戦闘機による浸透攻撃に入っていた。
「状況的にみると敵艦隊への攻撃が停滞している右翼が不利だな」
日本陣営の遊撃隊もそちらへと援護に入っているようだ。玉藻御前もそっちに行っているみたい。ならば右翼へ参戦するのが良さそうだが。
「あえて左翼へ向かうぜ」
「その心は?」
「まだBJもルークも来てないからな……変な引力を発揮して、近くにいる人を巻き込みたくない」
「自意識が過剰じゃないですか?」
「まあ玉藻御前と同じ戦場では、手柄の横取りになるかもしれないからな」
俺がシーナとやる予定の攻撃と、玉藻御前に授けた策は基本思想としては同じ物。こちらは身軽に動けるが、玉藻御前は手数を増やせる。競い合ったら互いの手柄を奪い合う可能性があった。
「活躍する自信ありありですね」
「まがりなりにも航行船の開発者。その弱点は分かっているからな」
強固なエネルギーシールドと、分厚い装甲に守られた航行船は、生半可な攻撃は通用しない。
まずはエネルギーシールドの内側に入り、集中的に攻撃して、装甲に穴を開けなければならないのだ。
そんな会話をしながらも韓国連合の攻めている辺りに近づいてきた。航行船が遅いので、戦場自体はさほど広くないのは助かる。
韓国の連合は敵艦隊へと接近、戦闘機同士の交戦距離に突入し、次々に戦闘機での浸透攻撃を行っていた。
四機編成で戦艦の間へと入り込み、エネルギーシールドの内側まで接近し、攻撃を加えていく。
1編成で撃破できなければ、2陣、3陣が続けて攻撃を加えている。
「徴兵制がある国は連携が違うか?」
四機編成での動きとそれに続く編隊による攻撃は、しっかりと軸があり打撃力となって敵艦にダメージを与えていた。
まさか軍隊でSTGを利用して修練しているという事はないと思うが、ちゃんと部隊として連動し、組織として攻撃を行っている。
日本の連合では見られない精度があった。
数を力と変えている戦い方だが、それだけに損耗もありそうだ。敵艦隊の戦闘機部隊とも交戦していて、艦隊への攻撃部隊を守るためにやや不利な戦いを強いられている。
そのために敵艦の撃沈速度は上がっていないようだった。
「いっちょ、風穴開けてやりますか」
「はい、マスター」
交戦宙域から少し離れた所にシュネーヴィントを停泊させ、戦場全体の情報収集にあたらせる。そして俺とシーナはハイドロジェンとバリスタコンドルで発進、戦場へと向かった。
「ひとまず交戦宙域からは少し離れた所へ向かうぞ」
戦闘機による攻撃は行われているが、航行船からの艦砲射撃は続いている。部外者である俺が入っていくと誤射される危険があった。
なのでバチバチにやりあっている宙域を避けて、外れた場所から艦隊を目指す。
敵艦隊も警戒を怠る様な事はなく、こちらが接近するとすぐに気づいて要塞砲による射撃が開始された。
ただ艦数は少なめなのでそこまで驚異ではない。要塞砲は小回りが効かず、エネルギーのチャージ具合である程度発射間隔が分かるので、回避にはそれなりに余裕がある。
俺との模擬戦で回避の修練を積んだシーナも危なげなく回避していく。
「さてパーティーを始めますか」
「花火大会ですねー」