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面倒事をBJに押し付けた俺は、艦隊戦に向けた調整を続ける。パラス・アテナというベースがあるので、それを、基にシュネーヴィントを仕上げていく。
パラス・アテナを重量級ながらパワフルな馬力で走破するGT-Rとするならば、シュネーヴィントは中級の軽さがありながらも力強く大地を蹴ることのできるインプレッサという感じか。
ちなみにハミングバードは軽自動車ながらスポーツタイプであるビートあたりかねぇ。
ラリーカーの様に悪路でも時に滑り、時に力強く加速できるシュネーヴィントは、ハミングバードとは違った楽しさがあった。
まあ実車でスポーツカーの運転なんかはした事もないゲームでの感触の話だがな。実車の経験はせいぜいテンロクの車を高速で150km/h出してみたり、首都高で渋滞を抜けた直後に、一気に加速させたりした程度。基本はペーパードライバーだ。
それでもクラッチを繋いで加速をしていく感触の経験は、STGでスイングバイなどのブースト効かせながら加速する感触をよりリアルにしてくれている。
とりあえず満足に操縦できるだけのチューニングを行い金曜日は終了した。
土曜日は朝から玉藻御前に行って情報収集。
珍しく太夫はいなかったので、今回の艦隊戦の各連合の配置を担当者から聞いていく。
変なちゃちゃを入れられないのでスムーズに確認する事ができた。
中央には当然のようにフレイアちゃん率いるヴァルハラ連合が座り、その両翼を日本の主要連合が固めている。
最も戦果を上げられそうだが、最も被害を受けるだろう立ち位置だ。
それに対して右翼には北米の連合、左翼には韓国の連合が配されていた。
欧州は時間的に合わないので参加人数が少ないようで、好きな場所に散っている。
それら主軍とは別に遊撃隊も編成されていた。序盤は動かず、戦局にできた穴や外から襲撃してくる海賊に備える部隊だ。
連合に所属しないプレイヤーや小規模な連合はこちらで動く事が多い。そうしたプレイヤーは基本的に自由人で束縛されたくないからな。
「となれば、俺の参加は当然のように遊軍……と、思うだろうから、中央軍で参戦する事にした」
「無意味な天の邪鬼!?」
「いや、意味ならあるぞ。今回のレイドで活躍したらドラマへの参加権を貰えてしまうが、俺は出る気はない。貰えたのに断っても角が立つとなれば、戦功をあげにくい、中央の目立たないポジションがいいと言うわけだ」
フレイアちゃんというか、フレイくんとは知らない仲でもないから、ヴァルハラ連合に混ぜてもらう事もできるだろう。
「それなら玉藻御前に協力して、戦功は連合に入れて貰えばいいじゃないですか」
「俺は回避型だからな。守る戦いには向いてないんだよ」
玉藻御前に教えた戦法は拠点を守る能力が必要だ。護衛部隊として経験を積んできた玉藻御前のチームやポチョと違って、俺は相手の攻撃を避けなければならない。そうすると流れ弾が護衛対象に当たる事となる。
「という事でヴァルハラに行ってみるよ。情報ありがとう」
「今回のレイドで稼げなかったら、費用を追加請求しますからね!」
怒った仕草をするレイド担当官を置いて俺はヴァルハラ連合へと顔を出すことにした。
「マスターが中央に行く理由ってアレですよね。海賊に狙われたくないっていう」
道すがらシーナに指摘される。
「大手連合に好き好んで襲撃をかける海賊はいないからな。その上で中央、周囲は敵だらけで突っ込んでくる猛者だとしても、肉壁が多ければ逃げる時間が稼げるだろ」
「何気にひどい事考えてますね」
「今回はBJにも目的を与えたし、絡まれないと思うんだが念の為だ。ちゃんと中央軍が活躍できるように縁の下を支えるさ」
俺が希望するのは後方の救護・補給班だ。傷ついた仲間を助け、前線の弾薬を補う大事な役割ではあるものの、花形ではないし功績も稼げない。
でも生産メインでやっている俺としては最適の場所なのだ。大部隊を抱えるヴァルハラであれば、更にその重要度は増す。一人くらい入れる余地はあるだろう。
「せっかく活躍できる戦法を用意してるのにですか?」
「あれは今回じゃなくても使いどころあるだろ。それに、終盤になって戦況が安定しだしたら狩りに出ることもできるだろうしな」
シーナとしては戦える様になって初めてのレイドといった感覚なのだろう。元々好戦的な部分はあったが、よりやる気を見せている。
俺を引っ張り出す為の演技かもしれんがな。
とりま、方針としてはまずは援護から、余力が出れば戦闘参加とする予定だ。
「霧島さん、いらっしゃい」
満面の笑みで迎えてくれたのはフレイくんだ。中性的な顔立ちで、頬を染めながら微笑まれるといけない扉が開きそうだ。
「わ、わざわざフレイくんが出迎えてくれなくても。忙しいだろ」
看板として花形の活躍をするのはフレイアちゃんだが、連合をまとめているのはフレイくんのはず。レイドに向けて最後の詰めをやっていたんじゃないだろうか。
「霧島さんが参戦してくれるというのに、他人任せになんてできません」
「参戦と言ってもメールしたように、前面で戦う気はないぞ」
「わかってますよ。霧島さんの本分は後方支援、チューンナップを受けた人はみんな理解してますよ」
そんなフレイくんはチューンナップ後、一気に操縦性が上がり、メキメキとスコアを伸ばしているらしい。アクティブシールドでありながら、体当たりで敵を屠れるアタックシールドという新しい役割名を付けられていた。
「ちょっと活躍しすぎてフレイアが拗ねちゃったのは誤算でしたけど」
てへっと舌を出して笑みを浮かべる姿はあざと可愛い。
「フレイアも霧島さんのチューンが欲しいみたいですけど……彼女はそもそも操縦しませんからねぇ」
「そうだな……自動操縦に任せるスタイルだと扱いやすくしたところで変えられないな」
そもそもミサイル機は鈍重で、派手に動ける機体でもない。彼女の動体視力でもって敵を倒すスタイルとは縁がなかったので、パッと思いつくアイデアはなかった。
「気にしなくてもいいですよ。それより今回のレイドについてですよね」
用件は予め伝えてあったので、作戦ボードの方へと案内された。艦隊戦の配置がシミュレートされたそれには有力連合の名前が並んでいる。
中央にあるのはヴァルハラ連合の旗艦スキーズブラズニル。帆船を模したマストが特徴的な大型航行船だ。主要な武装はミサイルで、フレイアちゃんが操ればその破壊力は凄まじい。
ただ航行船なので機動力は皆無。戦場にたどり着く前に戦闘が終わることの方が多いので、そこまでの戦果はあげられていない。
「大型ブースターを付けて、直進性能だけはあげたりしたんですが、それでも重いのは仕方ないですね」
今回の艦隊戦でも航行船に求められるのは遠距離からの要塞砲による砲撃。ミサイルが活躍できる距離には近づけないだろう。
どちらかといえば、相手の艦載機がやってきた時の対空能力としてのミサイルとなるだろう。ただそれだと小回りの効くミサイル機の方が扱いやすい。
旗艦としながら戦力としては厳しいというのがフレイくんの評価だ。俺も建造には関わったので、長所よりは短所が目立つ設計になったのは否めない。
ただ内部に生産工場を抱え、ミサイル機への補給に特化したドックを備えており、フレイアちゃんのミサイル機へのサポート力は高かった。
「ま、その辺はウチで何とか考えてますのでご安心を。霧島さんに担当して頂くのはこの部隊です」
艦隊の後方に控える支援艦隊だ。負傷した戦闘機の修理や弾薬の補給に特化した航行船を集め、被害の大きな所へと派遣、戦力の回復を行う為の部隊だ。
「中型の航行船が多いな」
「はい、小回りが効いたほうがよいと判断しました」
「そうだな、良い判断だ」
「へへへ」
フレイくんは照れた様に笑う。可愛い。だが男だ。
「こ、これなら、シュネーヴィントも馴染めそうだ」
30m級の航行船が多いので、目立たないはずだ。
「こちらの部隊をまとめているのが、深町さんです」
「深町です、よろしく」
いつの間にか近くに立っていたヴァルハラの制服を着た男が、俺に握手を求めてきた。補給部隊という他人の為に働く部隊を率いるだけあって、人当たりは良さそうだ。
「こちらこそ飛び入りで参加して申し訳ない。こき使ってやってください」
「それは頼もしい」
「細かい部分は深町さんと詰めてください。そろそろ僕も戻らないと怒られそうなので……」
「ああ、ありがとう」
フレイくんと別れ、深町と一緒に部隊のメンバーと顔合わせをする事となった。