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日曜日は航行船の建造と各戦闘機の復旧に費やす事になった。何だかんだで部品数が多いので、パーツ用工作機械をフル稼働する必要があったのだ。
更には修理用工作機械で戦闘機に取り付けていき、ステーション用工作機械で航行船を建造していく。
航行船はパーツができた後、組み立てていく必要もあるのでまた時間を取られる。まあ、何度も繰り返して来ているので、慣れてきているのは確かだが。
それでも一日で組み上げることはできなかった。
「今週組み上げて、週末には艦隊戦だな」
「がんばりましょう」
やる気を見せるシーナに残りのパーツ作製を任せて、俺はログアウトした。
「おお、ドラマの放送始まってるのか」
平日の昼休み、公式サイトを見るとフレイアちゃんのドラマが掲載されていた。社内Wifiに繋いだスマホなので容量を気にせずに見れるのはありがたい。
ドラマは15分番組でゲーム内のCGレベルでゲーム内の機能を使って撮影されているらしい。これなら低コスト・短時間でも撮影ができるのだろう。
艦隊戦まで一週間、毎日更新されるようだ。
フレイアの視点を通して、艦隊戦が発生するまでの経緯を説明していくらしい。これはなかなかモチベーションが上がる仕掛けだろう。
宇宙開拓が始まり、宇宙へと魅せられた少女フレイアは幼馴染のフレイを巻き込んで、宇宙開拓技術を学ぶ学校へと入学する。
そこで基礎的な操縦技術や戦闘技術を学んでいき、非凡な才能を発揮したフレイアは成績優秀で学校を卒業。宇宙の開拓ステーションへとやってくる。
新たな出会いや現れるライバル。海賊などとのバトルを経て、クジラ戦をこなし、ゲートを潜って新星系。コーラルボールでの戦闘では、さすがにリーンフォースは出てこなかったが、BJ役っぽい海賊と戦ってコアを撃破。
BJはピエロの扮装をした美男子になってたけどな。流石に神歌万唱を匂わせる雰囲気はなかった。
そしてさらなる開拓の道が開かれる事となる。
そこで割り込んでくる地球の有力者達。利益が出るとなれば自分達で独占するとステーションへと圧力をかけて自由を奪おうと艦隊を差し向ける。
ステーションを拠点とするフレイアちゃん達は、力を結集して侵略艦隊と相対するのであった。
5日間に渡って掲載された動画は、これまでのストーリーを要約、ちょっと改変しつつ、艦隊戦へと繋がっていく。
参加してきたプレイヤーにとっては懐かしさを感じさせる作りになっていた。
この後の艦隊戦でも撮影が行われ、成績上位者はキャストとしての出演。上位の連合は協賛として、テロップに名前が入るらしい。
最初は動画の参加権なんてしょぼい報酬と言っていた掲示板の住人も、動画の配信が進むにつれて艦隊戦に向けて盛り上がりを見せていた。
基本的に祭り好きなんだよな、掲示板に入り浸ってる連中は。そこをついてきたのは運営の読み通りだろう。
それにドラマの質だ。STGの画面をそのまま使う事で、逆にここまでの表現ができるのかと興味を持つ人が増えているらしい。
新規ユーザーが増えてくれば、また違った展開も期待できるので、大いに歓迎する事態だ。
そんな日本の動きに、海外も反応。俺達もドラマに割り込むと勢い込んで参戦表明する連合も出てきているようだ。
想定以上に人が集まりそうな気配を見せている。
「これ、逆に集まりすぎてダメになるパターンじゃないだろうな……」
今までは参加者がわからずに戦力が読めなかったが、今度は人が集まりすぎて戦力が読めなくなってきた。
それよりサーバーの負荷とかが気になるな。VR機は処理落ちが厳禁。人が集まりすぎてカクカクなんて事になったら、強制切断とかが起こる可能性がありそうだ。
「その辺は分散処理システムが機能しますので、実際に画面に映る人数は制限されますよ」
「でも見えない敵にやられるとか嫌だぞ」
「大丈夫だと思いますよ、知らんけど」
「知らんのかーい」
思わずツッコんでしまうと、シーナはプルプルと震えはじめた。
「マスター、ナイスツッコミです!」
感極まった様子で抱きついてくるが、その感触はない。STGの触覚は手のひらにしかないからだ。そしてその手を背中なりに回そうものなら、電流によるお仕置きが待っている。
臭覚もないからいい匂いがしそうなシーナが側にいても何も感じない。
「だから離れろーい」
「おわーっ」
肩に手をかけ投げ飛ばすと、綺麗に吹き飛ばされるシーナ。第2惑星は地球より重力が少ないので、派手に飛んだ。
「とりま、組み上がったシュネーヴィントの習熟航行に出ないとな」
金曜日の夜、艦隊戦に何とか間に合わせたシュネーヴィントの試運転を行う。戦艦で戦う気はないが、戦艦自体は戦場に持っていっておかないと補給ができない。
ナインテイルあたりに協力を要請すれば応えてくれそうだが、高くつきそうなのでやめておく。
戦場に持っていくなら撃沈されない為に戦闘力を上げておく必要がある。
「やっぱ、サイズが変わると動きが軽くなるな」
本来なら大型の航行船でも動かせる拡張コアを1/3以下の船に載せているので、エネルギーは豊富。武装にエネルギーを回してもかなりの機動力を確保できている。
パラス・アテナの時は装甲を薄くして軽量化していたが、シュネーヴィントにはしっかりとステーション用の装甲を付けてあった。
シールドも戦闘機とは比較にならない厚さがあるので、多数の敵に囲まれない限りは撃沈される事はないだろう。
「問題は対戦艦と……重力攻撃か」
小型で機動力がある分、戦艦相手に逃げ回る事は可能だろうが、ルークの様な重力攻撃をしてくる奴から逃げられるかどうか。
重力攻撃は質量が大きいほど影響は大きくなるはずだ。いくら小型化軽量化したとしても航行船では分が悪い。戦うとすればハミングバードが理想だ。
「ま、あんなのがホイホイ出てきて遭遇するとは思わないけどな」
「マスター、それフラグって言うんですよ」
「ぐふっ」
ありえそうで怖い。世界規模の艦隊戦、海賊が参戦するのは予測の範囲だが、その中でルークみたいなのと遭遇する確率は低いはず……なのに、狙われそうな被害妄想が脳裏にこびりつく。
「マスターが面白い戦い方するから、それがクセになる海賊が多いんですよ。自業自得です。まっとうに戦ってください」
「それじゃあ全く戦えないからだよ」
今更射撃の腕を鍛えたところで中の下になれるかどうか。曲がりなりにも局所的にはトッププレイヤーと戦える状況を手放す勇気はない。
「なら諦めて戦いましょう!」
「いや、逃げる!」
「逃してくれますかね?」
「囮を用意すればいいんだろ」
目には目を、海賊には海賊をだな。
『君の方から連絡をくれるなんて、そろそろ寂しくなったかな?』
「海外の……多分、アメリカのルーク・SWって知ってるか?」
『ああ、ディザスターだね』
「ディザスター、災厄か。物騒な名前だな」
『敵味方関係なく……いや、奴に味方はいないから手当たり次第に破壊をばら撒くからディザスターと呼ばれてるんだよ』
「ああ、プレイヤーからも海賊からも嫌われる類友なんだな」
『失礼な、私は相手を選ぶよ。奴は強者も弱者も関係なく、目に付いた物を破壊する。ある意味平等主義者だな。それで……む、そういう事か。私の物に手を出すとは身の程を思い知らせてやる』
「別にお前の物でもないがな。やる気になってくれたんなら存分にやってくれ」