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「知名度を上げる好機でありんす」
「うう〜ん、STGの世界観的に太夫の出番はあるのか?」
「多様性の時代、逆に海外にはゲイシャガールはキャッチーなんどすえ」
玉藻太夫に呼び出されナインテイルを訪れてみると、興奮気味の太夫に迎えられた。
どうやら艦隊戦で活躍し、ドラマの出演権を獲得したいらしい。太夫の戦闘力って知らないんだけどな。
「しかしウチは情報連合。ナインテイルを守る程度の戦力はあれど、数多の連合を押しのけて活躍するのは難しい。そこで成金王の力を借りたいんどすえ。ウチの傭兵として連合の貢献ポイントを稼いでおくれやす」
「他力本願だった!?」
「もちろん阿弥陀様の本願をいただくために、努力は惜しみまへんえ。ただ人には向き、不向きがあるというだけ」
「いや、俺も戦闘は専門外だぞ」
「あんだけ動画で拡散されとって何を言うてますのん。BJ相手にタイマン張れるプレイヤーなぞ数えるほどもおらへん」
コーラルボール内でBJとやりあった動画もそれなりにアクセスを稼いでいるらしい。あの動画、誰が撮ってたのかと思うと、運営の公式サイトで貼られていたんだよな。
「俺、射撃は全くダメだから、ああいう限られた状況以外は、素人レベルなんだよ」
「でも艦隊戦でやろうとしとった事があるんやろ?」
「まあな……あれも射撃の下手さを補う為の苦肉の策なんだが」
自分でも使ってない物を他人に渡すつもりはない。となると玉藻御前として戦える様にするのが俺の信条だな。
「俺が手伝えるとしたら、玉藻御前の戦闘力を引き上げる事くらいだ」
ナインテイルの護衛部隊は海賊達と対等に戦える戦闘力を持っていた。ならば攻撃する手段を与えれば、俺が参戦する以上の戦果を上げる事ができるだろう。
俺の様に奇をてらう必要はない。純粋な戦力の引き上げで対応できるはずだ。
ナインテイルの護衛部隊は大型戦闘機で構成された守備がメインの機体。これを無理矢理攻撃偏重にすると無理が出る。来週には艦隊戦なのだ。
護衛部隊はさらなる盾へと進化させ、主要な攻撃力はナインテイルに持たせる。
「まず艦隊戦のセオリーの復習だ」
海外で行われた艦隊戦の動画はかなり見てきた。その戦闘風景というのはイメージできている。
艦隊戦はその名の通り、戦艦同士の叩き合いから始まる。遠距離から要塞砲クラスの粒子砲で撃ち合い、シールドの耐久を削って過負荷に追い込み撃破していく。
レールガンなどの物理攻撃はこの粒子砲の斉射によって迎撃されるので敵艦にたどり着く事ができない。
これは銛の様な大型レールガンでも同様で、たどり着く前に核ミサイルなどで迎撃されていた。
「更に言うなら、相手は曲がりなりにも正規軍で、プレイヤーサイドは連合ごとの船を持ちよった寄せ集めの軍という差もある」
敵艦隊は前面にシールドの厚い艦を並べ、後方の船から射撃を行っていた。艦により役割分担をできる分、戦闘力は敵艦隊の方が強くなる。
「なのでプレイヤーが勝つには、戦艦のシールド内部へと入り込み、直接打撃を与えるしかない」
STGのシールドは物理的な攻撃は遮断できない。それは戦闘機であればシールドの内側へと入れる事を意味する。
艦隊同士の撃ち合いの合間を縫って、敵艦へと肉薄。撃墜していくのが艦隊戦の醍醐味となっている。もちろん、敵艦隊も艦載機を出してくるのでドッグファイトも行われるのだ。戦闘のあらゆる面が凝縮された艦隊戦はやりごたえのあるコンテンツ。
「だから艦の砲身を伸ばして敵艦のシールドの内側から要塞砲を撃ち込めば、シールドに妨害される事なく直撃できる」
「ナインテイルで特攻をかけろというのかえ!?」
「いや、伸ばすのは砲身だけだ」
「???」
俺は作戦の詳細を太夫に語った。
「マスター、良かったんですか。手の内を晒してしまって」
「あの方法は人数がいないとできないからな。防衛力が高い玉藻御前に適した形なんだよ。それに玉藻御前ならポチョも協力してくれるだろうしな」
艦隊戦に向けて思案するうちに思いついた策の1つを玉藻御前に提供した。守ることを主体としながら、必殺の一撃を放つ戦い方は、玉藻御前向きだろう。
何だかんだでいいお客となっているらしいポチョも、ディフェンスに特化したプレイヤー。守備隊との連携は先の海賊戦以降も話し合っていたらしい。
「どのみち俺は、原状回復に努めないと時間がないからな」
作戦実行には機体のカスタマイズも必要だったが、それも玉藻御前の整備士なら問題ないだろう。俺は案を出すだけでフリーになれるので、一番収まりが良いと判断した。
「どうせなら俺の艦も改装したいしな」
来週には艦隊戦。失った物をよりよく再建する必要があった。
先日から研究をはじめたコアのリサイズ、細分化は、半分成功して半分失敗という結果。
航行船用のコアを分割して、極小コアにすることはできたが、戦闘機サイズのものにはできなかった。
なのでハイドロジェンやシーナのコンドル用の拡張コアには新たな戦闘機を買う必要があったのだ。
「金が掛かるなぁ……」
「貢ぎたくなる罪作りな女という事ですね」
極小コアの入手にゴブリンを狩らなくても良くなったので、艦隊戦に向けたバリスタの準備は順調だ。
部位破壊を意識できるようになったおかげでカニ装甲やハサミは第3惑星の輪に行けば集めるのにさほど時間はかからなくなっていた。
ハミングバードV2で狩りをしつつ、シーナもファルコンで経験値を貯めていく。そうやって狩りをしながら脳裏では新戦艦の設計図を描いていった。
ハイドロジェンやコンドルの修復を行いながら、新設計図を構築していく。コア部分は今までと変わらず中型の航行船をベースに拡張コアを積む事でサイズアップを行っていく。
シーナが小隊運用から単機運用に切り替わった事で、航行船の格納庫は小さく縮小。前回は50m級だったが、今回は30m級での建造を考えている。
甲板に戦闘機を固定して砲台とするのは、破壊された時のコストが高くつくことも分かったので、今度はちゃんと武装した戦闘もこなせる航行船を目指す。
前回より小さくしたことで重量は減り、機動力を確保したまま戦闘力を持たせる事ができる。
「粒子砲とレールガンは迷いどころだが、ここは粒子砲を主砲に据える。あとバルカンも対空兵器として一定数配備だな」
撃破を狙うと言うよりは弾幕を張るために、小口径のバルカンを多数配備する事にした。
要塞砲は3門、旋回式の砲台に取り付け1門ずつでも3門同時でも攻撃できる様にする。
後は魚雷発射管の様なミサイル射出口も船体前面に配備。機動性重視で攻撃は前方に集中させる駆逐艦タイプを目指す。
「このところ短期間で船を失ってるから、縁起のいい名前にしたいところだな」
「恵比寿とか大黒ですか」
「宝船かよ……ここはシュネーヴィントとしておこう」
「ドイツ語ですか、中2患者御用達ですね」
「和名でもいいんだけど、ちょっとは格好つけたいかなと」
タブレットで翻訳しながら艦名を設定。建造を進めていく。格納庫のサイズを減らし、艦載量も減るのでカタパルトは2基に絞り、ハイドロジェンとコンドルそれぞれに用意。大型戦闘機であるコンドル型を船の上部、小中型の合体機であるハイドロジェンを下部から射出する事にした。
「採掘用の装備も整えたいが、それは別途建造する方向で、まずは艦隊戦に向けた戦闘艦にするぞ」
「はい、マスター」
こちらが戦闘に前向きな姿勢を見せると喜んだ雰囲気を出すシーナ。でもまだ笑顔機能はバグったままだった……。