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『Fantastic! All light, I will deal with you』
そんな声が聞こえて重力場の発生が収まった。
「どういう意味だ?」
「素晴らしい、私が直接相手をしてやろうって感じですね」
「うへぇ、BJ臭がする」
「ですね……高速で接近する機体あり、レッドネームです」
「やっぱりかっ」
「ルーク・SWとありますね」
「暗黒面に落ちた親父の方じゃないのかよ」
「でも帝国って権力側なので、息子のほうが海賊っぽいかもしれませんね」
「確かに……というか敵の機体は?」
「中型戦闘機でしょうか。かなりカスタムしてますが、ベースはイーグルですかね」
中型汎用機で攻撃にやや重きを置いてるタイプだな。
「とりあえずシーナは、甲板にカクタスとコンドルを出して固定砲台にしてくれ。レールガンは拡散弾をセット、牽制で時間を稼ぐ」
「逃げるんですか?」
「そりゃ相手は重力場なんて操る奴で、ここは相手のテリトリーなんだろ。まともに戦える訳がない」
「まあ、マスターは土俵がどっちだろうが逃げるんでしょうけど」
「分かってるじゃないか」
新たな重力場が生み出される前に、俺は退避行動に出る。相手から離れるように加速を開始した。パラス・アテナが最高速を出せば、まともな戦闘機では追いつけないはず。
はずなんだが、相手はまともじゃなさそうだ。
「こっちの加速より速いのかよっ」
「重力場でスイングバイしながら加速してますね」
「反則じゃないか。そんなホイホイ重力場を生み出して、エネルギーはどうなってるんだ」
重力場を生み出す方法なんて考えてなかったが、グラガンの他次元生物を解析すれば何か掴めていたかもしれない。それにしたって莫大なエネルギーが必要そうだが。
「何にせよ、このままじゃ追いつかれる。レールガンの弾をばら撒いておこう」
撒菱の様にレールガンの弾を放出しておく。相手が高速で突っ込んできたらただじゃ済まないはず。
しかし相手は関係なくこちらとの距離を詰めてくる。レールガンの弾はどこいった?
「重力場でまとめてポイされてますね」
「やっぱ反則じゃねーかっ」
攻撃に使えて、防御にも使え、更には移動にも使えてしまう重力場生成。何からの制限はあるのだろう、初期の頃のように行く先々に重力場を作られる事はなくなり、攻撃には使われていない。何らかの観測なり、仕込みなりが必要なのだろう。
「レールガン攻撃来ます」
「うりゃっと……ぬおっ!?」
相手との射線を外し回避したはずのレールガンが、途中で軌道を変えて当たってきた。パラス・アテナの装甲は大型戦闘機並に落としているものの、船体が大きいので一撃で致命傷とはならなかった。しかし、何発も食らうとヤバい。
「重力場でレールガンの軌道を変えれるのかっ」
互いに移動しあっている戦闘中、緻密な計算などできないが、弾数があれば中には当たるのも出てくる。こちらは大きめの回避行動を強いられて、彼我の距離は縮まっていく。
「逃げ切れないな。シーナ、攻撃は?」
「重力場で防がれます」
カクタスのミサイルもコンドルのレールガンも、重力場で集められたり、軌道を変えられたりで命中弾はないようだ。
「粒子砲ならそこまでの影響はないはずだから、バルカン攻撃に移行。こっちからも仕掛けるしかないな」
このまま逃げるだけじゃ、次元航行用のチャージが終わるまでもたない。追われているままだと相対速度は稼げず、回避の範囲にも制限がある。
ここは正面からぶつかって回避した方が相手の狙いをはずしやすいはず。
パラス・アテナを回頭させて、こちらからルークへと距離を詰める事にした。
「まあ、無理なんだけどな」
「悔しいです」
相手に近づくということは、重力場を生成できる範囲に飛び込むという事。武器として重力場を使える状況に、長時間耐えるなんて事はできなかった。
こちらもバルカンで攻撃していたが、そもそもが俺やシーナの射撃精度。撃ちながら狙いをつけられるという有利な点を利用しても、命中させ続ける事はできず、撃破できないままにこちらが沈められてしまった。
Foxtrotの第2惑星へと戻された俺は被害の大きさに頭を抱える。パラス・アテナはもちろん、コンドルやカクタス、マンタにハイドロジェンと現有戦力のほとんどが全損状態になった。
修理だけなら工作機械でできるがノーマル状態に戻る。カスタムパーツは作り直さなければならない。
幸いにして素材の大半は第2惑星の基地へと移していたので、時間さえあれば回復は可能だ。
調整中だったハミングバードVer2と、シーナのファルコンも基地に残していた。足りない分を集めるくらいはできるだろう。
「明日は丸々復旧作業で潰れるな……重力場の秘密を暴いておきたいが、時間はなさそうだ」
「やっぱり深夜の時間帯は鬼門ですね」
「うむ……」
今回は眠気をおして無理をした訳じゃないが、ルークの巣へと飛び込んでしまった。海賊の活動時間ならホームにはいなかった可能性もあるが、それが終わった時間帯で、帰ってきていた可能性もある。
まあ、それにぶち当たるというのは不運としか言いようがないが。
「とりあえず寝るわ」
「おやすみなさいませ、マスター」
日曜日の朝、家事を片付けてログインするとビッグニュースが待っていた。
「フレイアちゃんのドラマ制作?」
フルCGアニメというかSTGのモデルを使って、本人が演じながらのSTGを舞台とした販促CGアニメドラマを制作するらしい。
なぜにこのタイミングでと思ったら……。
「艦隊戦の成績上位者は、ドラマに出演することができると……」
先の艦隊戦でお詫びとして中型航行船を格安で提供し、それに使用するコアを配った。新星系探索の報酬を配るための艦隊戦で、多くのプレイヤーが報酬を獲得できないままに終戦してしまい、新星系探索へと乗り出せなかった事への補填だ。
しかし、均等に全てのプレイヤーが外宇宙へと旅立てるようになるのと同時に、余剰となったコアは市場に流れ、ゲーム内の経済が混乱している。
その上で新たな艦隊戦の為に有用なアイテムを配ってしまうと、経済の混乱は更に広がり、海外のプレイヤーに不満が出てしまうだろう。
そこで運営の出した答えは、名誉報酬とでも言える『ドラマへの参加権』という訳だ。フレイアちゃんを中心としたヴァルハラ連合は日本はもちろん、海外でも最大規模の連合となっている。
この報酬を設定することで、ヴァルハラ連合のプレイヤーの大半は参戦を決めるだろう。
そうなると日本の他のプレイヤーとしても勝ち目が見えて、あわよくばSTGアイドルのフレイアちゃんとお近づきになるチャンスを貰える。
ミーハー気質のある日本人には格好の餌となりうるだろう。
「プレイヤー本人はもちろん、連合としての名前も出るらしいし、映像として残るというのは一般人は縁遠いだけに興味はでるかもな」
かつて小惑星に向かった探査機に、寄付をしてくれた人の名前を刻んだプレートを持っていったという。
近所の神社を見てもそこには名前の刻まれた柱が並んでいたりする。
意外と日本人は名前を残すという事を望みやすい人種なのかもしれない。
「運営としては懐も傷まず、販促にもなって一石二鳥か三鳥くらいになりそうだな」
過分な報酬を渡すとそれをベースに考えるようになって、インフレが進む。そうなるとバランスは崩れて、客離れに繋がってしまう。
ゲーム内で有利になるのではない報酬というのは盲点だった。
「でもそうなってくると目立てないな……」
「マスターの実力を世に知らしめるチャンスですよ!」
「俺は細々と自分なりに楽しみたいんだよ」
そういうプレイヤーは他にもいるだろう。
もちろん、権利を貰えるだけなので、参加しなくてもいいんだろうけど。しかし、権利を貰えたのに参加しないとは何事かと、それはそれで反感を買いそうだしな。
「まあ、何にせよ、今回の発表で参加者が増えそうなのは間違いない。海外勢はどうなるかわからんが、戦力としてはしっかりと艦隊戦になりそうだな」
裏で手を打ってた玉藻御前としては思惑が外れたかもしれないが、目指す所は過疎化の阻止だろうから問題はないか。
そう思っていたら玉藻太夫から連絡が入ってきた。