157
その後も何度か模擬戦を繰り返し、シーナの動きをチェック、洗練させていく。やはり大型戦闘機の火力は馬鹿にできない。デフォルトで2門装備されている大型粒子砲と小型ミサイルポッドは、ファルコンの戦闘力をそのまま強化した形で、粒子砲自体の口径が大きくなるよりも、継続時間が延びている為に、多少は撃ちながら振り回せる。紙一重での回避をしていると直撃を受けるだろう。小型ミサイルポッドもファルコンよりも同時発射数が多いので、弾幕として使われるとまさに壁の様に感じられる。
更に厄介なのが中型粒子砲のバルカンタイプだ。これは線状に発射される粒子砲を、小さな弾として細切れに撃つタイプで、発射インターバルが短く設定されている。大口径をかいくぐって接近しようとすると、牽制射撃で狙われるし、接近できたとしても常に回避を強いられて、攻撃に転じにくい。
小型機にすれば動く要塞のように感じられた。
「そんな事言いながらきっちり詰めて来るじゃないですか」
「まあそこはハミングバードのおかげだな」
戦闘機の性質上、前方へと火力を集中させているので、ある程度回りこめば死角はできる。ハミングバードならそこまで回り込めるのだが、普通の戦闘機なら被弾を覚悟せねばならないだろう。
あとはまあ、射撃精度もアレだけどな。あまり深くは突っ込めない。
「そろそろレールガンもできた頃だし戻るか」
「はい、マスター」
Foxtrotの第2惑星に作った基地は今のところ誰かに発見されることもなく、平常稼働できている。ステーションと違って他のプレイヤーはまず来ないので、秘密基地感があった。
その基地へと戻り、開発機の状況を確認。レールガンができていたので、大口径粒子砲の代わりに取り付ける。さっき戦ってみて分かったが、中口径バルカンだけで基本的な防衛はできる。
大口径は遠距離用の牽制や回避の遅い敵への攻撃用だ。そこはレールガンでカバーできる。
新型レールガンは、銛に比べてかなり小さな杭を撃ち出すタイプ。加速を加える時間で初速や威力が変わるため、コンドルの腹の下に据えている。
これは機体に固定して、機体の旋回によって狙いを定める運用とした。コンドルは大型機の中でも旋回性能は高いからだ。翼の先端にある推進機でクルクル回れるのが特徴。そこにシーナの空間把握能力が合わされば、狙った場所へと弾を撃ち出す事ができる。
「レールガンの名前はバリスタで」
「エスプレッソ煎れますね」
「そのバリスタじゃないけどな」
撃ち出す杭は先端に次元断層剣の仕組みを取り付け、推進装置で撃った後も加速できる。消耗品だが一発あたりのコストが馬鹿にならん価格になっていた。
「そこで本日の研究です」
部位破壊の概念を理解したことで、カニのハサミは効率良く集められる様になった。推進機も汎用素材で作れるので問題はない。
一番値段に関わってくるのは、拡張コアの部分だ。
ゴブリンを乱獲する事でドロップする極小コアだが、ゴブリン王国で戦っても30分に1〜2個程度しか手に入らない。それを拡張するために2つ使わないと、次元断層を駆使するには耐えられない。
来週まで狩り続けても、何発分の弾が用意できるのか。
「なので作ってしまおうと思います」
「コアをですか?」
「そのための研究は拡張コアの頃から積み上げてました」
拡張コアの概念は、多次元構造体であるコアを複数接続する事で出力を上げようとした結果、多次元的に繋げる事で出力を上げられる事が分かった。
じゃあ出力を下げるにはどうしたら良いかを考えれば、答えは出てくるだろう。
「多次元構造体は、3次元より高次の次元にエネルギーを蓄えているから質量に対する保持エネルギー量が多くなる。そしてコアの大きさによって出力が変わる」
極小コアと航行船用のコアを比べていけば、その差異は見えてくる。この辺りは雁やクジラで高次空間の探査精度が上がったのも影響があるだろう。
「つまりコアを砕いて極小コアにするには高次空間から砕く必要がある」
そこで用意するのは高次に干渉できるカニのハサミだ。これは空間を裂く様な攻撃に見えるが、実際は高次にダメージを与える事で、3次元に亀裂を生じさせるという恐ろしい武器。これだと高次への積み重ねの大きいコアを切断する様な事はできないが、大きめのコアの末端部分を削り取るくらいはできるのではないかという予測だ。
「この辺はもう解析にかけるよりも実際に試した方が早いだろう」
全員に配られ過剰供給だった中型航行船用のコアを格安で手に入れていたので、それをカニのハサミで切ろうとする。
「まあ、実際はカニのハサミに切断能力なんて無いから、コアを挟んで砕くって感じなんだろうけど」
基地内部ならコアからのエネルギーが豊富なので、次元断層も平気で使える。怖いのはコアが崩壊する時に、内包するエネルギーが爆発しないかってところだな。
基地の主要部分は地下に設置した事で、地上の方はハリボテだ。爆発した時の事を考えれば、地下で逃げ場がないよりも地上の方が被害を抑えられるか。
という事で研究施設の一部を地上に作る。
基本的にはステーションを作成するコンテナ状のパーツを地上に設置し、必要な物をセッティングするだけの代物だ。
それでも多少は時間が掛かる。
「一度、夕食に落ちるか」
「はい、マスター。いってらっしゃいませ」
夕食の間に掲示板を確認。話題の中心は艦隊戦についてだが、基本的に文句しか言わないネット民は、今頃の開催に批難しかない。
今回のイベントはボイコットと書き込む声が多数を占めている様だ。
主要連合のイベント管理用のページにアクセスしてみると、そちらの方がより深刻な様相を呈していた。
前回の艦隊戦以後、ログインペースが落ちている者もあり、十分な戦力を召集できないといった声が出ている。
現状ではメリットも明確には示されておらず、モチベーションが上がらないといった意見が多かった。
「艦隊戦をやれるってだけでもゲームとしてはメリットだと思うんだけどねぇ」
海外の艦隊戦動画はワクワク感が詰まっていた。巨体に挑む戦闘機。荒れ狂う対空砲火に戦闘機同士のドッグファイト。他次元生物相手ではない、戦術や戦略も絡んでくる戦場。
イベントとして大規模に行うからこそ味わえるものがあるだろう。
どこか『イベント慣れ』してしまったプレイヤーにとっては、プレイする楽しさよりも得られる物の良し悪しで判断する癖が出てしまう。
報酬はあくまでおまけで、ゲームを楽しむ部分こそがまさに運営が提供してくれるご褒美のはずなんだが。
しかし人が集まらないとまずいのも確かなのだろう。ステーションの自治権を狙っての侵攻だったはずなので、敗北すると機能の制限が考えられる。
それはそれで新たな局面が出て、面白くなる可能性はあるが、自由度が減るというのはデメリットが大きいだろう。
実際に海外で敗北した国はなかったので、ペナルティは不明なのだが、日本だけがその状況に置かれるというのは癪だしな。
更に問題なのはやはり海外の海賊勢だ。
海外での開催時もやはり、一般プレイヤーと海賊プレイヤーとで戦闘が行われていた。イベント側の艦隊と合わせて三つ巴の戦闘は、それはそれで楽しそうではあったが。
他の国ではやってないタイミングでのイベント開催、海賊が集まってくる危険はある。もちろん国内の海賊達も黙っていないだろう。
海賊同士が縄張り争いしてくれたらこっちの被害は抑えられるかもしれないが、楽観論は危険だろう。
今回の艦隊戦で更にマイナスイメージが上乗せされてしまったら、いよいよプレイヤー離れが加速、深刻化するかもしれない。
シーナ達サポートシステムがリアルタイム翻訳してくれるが、やはり海外のプレイヤーと日本のプレイヤーでは考え方から取り組む姿勢まで違っているだろう。
海外勢が入り混じってくると、それを厭うプレイヤーも出てくるはすだ。そうなると日本での運営自体がなくなる可能性もあるだろう。
「まあ、プレイヤーの立場ではゲームを心底楽しむのが使命だけどな」