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艦隊戦の事はさておき、時間は昼近く。今から星系に行くと海賊に狙われる危険がある。腕に自信があるなら囮として動く事もできるんだろうが、前回の戦闘でもBJがいなければ撃墜を奪えたかどうか。
Foods連合が到着してからの乱戦でも戦果はあげられていない。慢心する要素はなにもなかった。こそこそと逃げるのが性に合っているという事だろう。
「となるとやれる事は限られるな」
兵器開発はゴブリンの装備サンプルを増やさないと進まないので、パラス・アテナの機動性向上のためのバランス調整を行う。
艦隊戦に向けて武装を強化する事も考えたが、どんなに頑張っても射撃が下手な俺が活躍できるイメージはわかない。
「やっぱり航行船は補給基地として使用して、自分は戦闘機に乗るのがいいだろうな」
「私も行きますよーっ」
単機操縦で精度を高めたシーナであれば、随伴機としても働けるかもしれない。そうなるとファルコンよりももっと性能の良い機体にした方が、戦えるだろうか。
中型のホーク型や大型の汎用機であるコンドル型などだ。ドローン型拡散攻撃を使用するなら、大口径を連射できるだけのキャパシティは強力。大型戦闘機用のコアを拡張してやれば、かなりの出力を出せる様になるだろう。
「ただ火力だけを上げたら、砲身が耐えられない可能性もあるけどな」
「複数の砲門を並べて、順番に使っていく形ですね。ドローンの方も連続使用はできないでしょうから、複数搭載して入れ替えながらの使用になるでしょうか」
シーナも自分が操るとなると積極的に意見を出してくる。
「しかし拡散弾が乱れ飛ぶと、ハミングバードが流れ弾を食らいそうだな」
「そこはマスターが華麗に避けてください」
「よし、拡散砲はなしだ」
「ええーっ」
「その代わりスナイパーを目指してもらおう」
「マスターの腕を学習させられている私に射撃の腕を求めても無理ですょぅ」
唇を尖らせながら文句をいうシーナだが、もちろん射撃精度を上げる方法は考えてある。
「拡散砲を拡散させずに使えばいい。それもドローンよりちゃんと制御できる的を使ってな」
「んんん?」
シーナは首を傾げて疑問を浮かべていたが、俺には1つ戦い方が見えていた。
艦隊を相手にするとなると粒子砲では要塞砲クラスでも厳しいかもしれない。ステーションに比べると10分の1ほどであっても戦艦だ。ステーションが拠点として使用しているエネルギーを戦闘に特化させて使用していれば、シールドも分厚く張れるだろう。
となれば求められるのはレールガン系の実弾兵器だ。戦艦は機動力が乏しいので、狙いさえしっかりとつけられれば、ちゃんと当たるはず。
航行船で撃ち出す銛をより使いやすく実装したい。やはり銛サイズだと大きすぎて、初速が低く、消費するエネルギーも莫大になってくる。
速さのための軽さと貫通力を上げる鋭さ。そのための材料は揃っていた。軽さを上げる為にカニ装甲を使い、切っ先の鋭さは次元断層剣がある。
ある程度の大きさが確保できるので、拡張コアを仕込んで剣を起動させる動力とした。それは打ち出された後の加速にも使用できる。
「これに貫けない戦艦はないだろう」
銛と言うには一回り小さい弾にはなる。そうなれば、やはり名前は……。
「杭……」
「バンカーですかー」
「ドライバーじゃないかね」
「プロレス技じゃないですか」
「バンカーは腕に装着して密着して使う感じだろ」
「杭打ち機もボーリングするような感じで地面に杭を打ち込む装置ですよ」
「むむむ……」
名前は一旦保留となった。
方針が固まれば大型戦闘機の購入に、大型レールガンの改造だ。さらに大型貨物船を購入してコアを抜き、戦闘機のコアを拡張。一気に出力を引き上げる。
リニアカタパルトを改造した銛の射出装置を新たな杭射出用に小型化。連射も考えて複数のレールを配備。一応、通常の戦闘も考えて粒子砲も装備しておく。
この辺は拡張コアの恩恵が大きいな。多少重量が増えても推力を補えば、機動力が確保できる。
「後は操縦感覚だけど」
「ふっ、私にかかればどの様な戦闘機であろうと思いのままですよ」
人間だと癖やら好みやらでチューニングする必要はあるが、シーナの場合は機体の特性を把握して操作できるだろう。
ただそのシーナには学習能力も備わっている。それは今まで俺の射撃を学習するというマイナス面ばかり強調されてきたが、もちろん学習しているのは射撃だけではないはずだ。
「つまり俺の操縦でチューニングを施せば、俺の経験を活かした操縦ができるはず!」
「マスターが遊びたいだけじゃないですか?」
「そうともゆー」
ハイドロジェンは、小型機のハミングバードと中型機のハンマーヘッドの合体機ではあるが、共にそれぞれのクラスでも最小サイズ。
大型戦闘機のコンドル型に比べると、合体状態であっても半分もない。コンドル型は翼を広げた猛禽類を思わせるシルエットで、前後よりも左右に広い印象だ。
その翼の先端部分に推進装置が仕込まれており、本体部分を支点にテコの原理で力強く回れる為に、旋回性能が思ったよりも高い。
直進性はそこまで高くないが、旋回を駆使すると機動力が跳ね上がるという、ハミングバードとは違った操作感覚で動かせる機体だった。
「これはこれで面白い……コントロールに慣れるには時間がいりそうだが……小回りが利くっ」
あえて小惑星帯へと突っ込み、小刻みに旋回しながらすり抜けを試みる。機体が大きいのと、あくまでも旋回性能が高いだけで、ハミングバードの様な水平移動ができないので、結構小惑星にこすってしまった。
それでも乗り続けていれば感覚が掴めてくる。左右の翼の先端にある推進機の出力を上げ下げしながら、コンパスの針とペン先を交互に軸にして進むように移動。ヒラヒラと動く軌道は、思ったより狙いにくい動きになるはずだ。
視界が左右にブレてしまうので、空間的な位置を把握するのが難しいが、それは360°、全天を同時に知覚できるシーナには関係ないだろう。
そして旋回性能が高いというのは、砲身の向きを合わせるのも早いという事で、狙撃に掛かる時間も短縮できる。
思った以上に今回の役割にフィットする機体だった。
やがて小惑星帯の中を最高速で駆け抜けられる様になり、必要なデータが揃えば、シーナにも同じことをさせてみる。
「ほっ、やっ、とーっ」
気の抜ける掛け声を上げながらも機体の操作に狂いはない。俺の動きをトレースして問題なく扱えている。そこに粒子砲を撃ち込んで邪魔してみるが、問題なく回避しながら、小惑星にも当たらない操縦をしてみせた。
「まあ、マスターの射撃じゃ命中弾が少ないから大きく避ける必要がなかっただけですが」
「うるしゃいっ」
もちろん大型戦闘機であるコンドル型にはそれなりのエネルギーシールドもついているので、ハミングバードの粒子砲程度じゃ直撃しても何発も耐えられてしまうわけだが。
「ふっふっふ、今の私ならマスターにも勝てますよ」
「こっちには高速振動剣があるんだがね」
「なんの、避ければどうということもないっ」
などと模擬戦をやってみた訳だが、いくら機動力が高いとはいえ大型機。ハミングバードの小回りとは比較にならず、近づいてしまえば高速振動剣を避ける加速力もない。
幅寄せしてコツコツと機体の表面を小突いてやって、実力差を思い知らせてやった。
「むう、マスターのハミングバードは色々とずっこいですよ」
「まあ、細かいところまで手を入れてるからな」
ただでさえ軽いハミングバードをカニ装甲で軽量化。拡張コアで増した出力をチューニングした推進機で機動性に特化した機体だ。逃げ場がないような飽和攻撃に晒されたら一溜りもないが、一対一の接近戦なら逃さず仕留めるだけの自信はある。
「俺の機動力とコンドルの狙撃力が合わされば、落とせない戦艦などないよ」
「そうなるといいですねー」
ワクチンの2度目の摂取、副反応で38.6℃の発熱があってのたうち回る週末でした。
それでもひとまずの安心感はありますけどね。
自分が重症化しないのもありますが、キャリアになりにくくなり、職場を崩壊させる危険も減るので……。