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残る座標の1つ目は、星系に出てすぐに伝達マークがついた。既知の座標だったようだ。それでも次元航行するためのチャージに時間がかかるのでざっくりと探索を行う。
他次元生物は蜘蛛型で、初期星系と強さは変わらない感触。採れる鉱石も初期星系と変わらなかった。
ランダム生成される星系には、ハズレと思われる星系もできてしまうのだ。それは先週に何かあると思って念入りに探索した際に勉強した。
「しかし、チャージ時間が面倒だな。次元航行エンジンを2基搭載したら連続跳躍できないかな」
「次元航行エンジンは、近距離にあると相互干渉して空間が捻れますよ」
「何それ、怖い……じゃあ、チャージ分のバッテリーを積んだらどうだろうか」
「コアから直接エネルギーを抽出していますので、それに匹敵するバッテリーを作ろうとすると重量がとんでもない事になりますよ」
そもそも多次元構造体のコアのおかげで宇宙進出が叶った世界。そのコアが一時的とはいえ枯渇するほどのエネルギーを消費するという事は、膨大なエネルギーが必要なのだろう。
「ならコアを2つ使えばいいじゃない」
「莫大なエネルギーを消費する機構が、連続稼働に耐えられるといいですね〜」
「ぐぬぬ……」
開発する前にこれだけ否定してくるって事は、次元航行を連続使用はシステムとして許容できないってことなんだろう。
穴を探すよりは、チャージ時間を有効利用する方法を考えたほうが建設的か。
「30分くらいはあるんだよな〜」
速度の上がったハイドロジェンなら10分ほどで星系内の大まかな探査は行えて、出てくる他次元生物や採れる鉱石などはある程度把握できる。
それではわからないのは、近づかないと出てこない敵やレア鉱石を彫り出そうとした時に出てくる敵なんかだ。
鉱石についてはガス惑星の中心にあるような物は駄目で、他にもレア鉱石なんかは詳細に探査しないと見つからないものもある。含有量が少ないと言うことだろう。
本格的に採掘を考えるなら詳細な探査、小惑星に接近しての調査を行うが、初期星系と同じ様な物しか取れないようだと、そこに時間を掛けるのは馬鹿らしい。
安全が確保できていれば、ログアウトするのも手ではある。
他には撃破任務なんかをプレイする事も可能なので、普通のプレイヤーは待たされるという感覚はないかもしれない。
俺はどうしようかと考えて、パラス・アテナの習熟運転をする事にした。大型戦闘機並みの機動力をつけたとはいえ、ハミングバードに比べると十倍ほどの船体。それに見合う重量にもなっているので、無理にブン回せば随所にダメージが出てしまう。
「やっぱり重量が上がってると、グリップ走行の方が速そうだ」
横Gを受けながら旋回するよりも、きっちりと減速してから向きを変えて、加速体勢へと入る方が結果的に速くなると感じた。
もちろん、戦闘中に減速して向きを変えてとやっていたら的になるだけなので、戦闘中はあまり減速せずに円弧を描きながらカーブする方が、倒されにくい。
まあ、ハミングバードくらいON/OFFができればまた違ってくるが。
「星系探索では変わってくるかもな」
惑星軌道上をなぞるように円で回っていたが、恒星を中心に五角形、六角形で回った方が早くなるかもしれない。この辺は、正面方向への加減速を重視したセッティングの結果だ。
やはりパラス・アテナを名乗るなら銀河最速を目指したかったしな。
それに加えて惑星の重力を利用したスイングバイを行えば、船体性能以上の速度を出せるかもしれない。
「探索できる星系のフォーマットがほぼ同じならここで編み出した飛行プランは、他の星系でも使えるはずだしな。という事で、惑星の配置図とスイングバイポイントを割り出しつつ、汎用性のあるフォーマット作りだ」
「はい、マスター」
惑星の重力により曲げられる力を利用して、加速を行うスイングバイは、質量が大きいほど受ける力も強くなる。
侵入角度を誤ると惑星に引っ張りこまれて墜落もあるし、浅すぎると得られるゲインが減ってしまう。
加速を得られる絶妙なラインは、多くの天文学者によって計算されているので、それを航路へと転用する。この辺の計算はシーナがやってくれるので、俺はラインをなぞるように操船するだけだ。その中で最適な速度、加減速のタイミングを掴んでいく。
「惑星の位置で調整は必要だが、予めパターンを用意しておけば、計算は早くなるだろ。この調子で回れば2分は短縮できるな」
「早く探索が終わると、チャージ完了までの空き時間も増えちゃいますけどね」
「……そうだった」
30分のチャージ時間で10分で回っていた所を、8分ですむとなれば、22分の空き時間ができてしまう。今回の空き時間を有効利用するつもりが、次の探索の空き時間を増やすことになるとはっ。
「次は次の問題を考えるとしよう」
「航行プランがあっても、途中に他次元生物が待ってる可能性もありますしね」
「そりゃそうだな……あまり加速しすぎるのも危ういか……」
試行錯誤でウンウン唸っていると、チャージが完了した。
次のチャージ時間を待つうちに寝落ちしそうだったので、大人しく就寝。午前中ならまだ探索できるかと淡い期待を描きながら眠る。
「……すると、たっぷり寝すぎたと」
「お疲れなんですねぇ〜」
などというシーナは呆れ顔ではあるが。でもゲーム以外にもやる事はあるしな、洗濯とか掃除とか食事とか。でもSTGをはじめてから外出する時間は極端に減っている。そろそろ色々と買い出しもしないとなぁ。
「もう海外勢も活発な時間かね?」
「対海賊部隊は数回の出撃があったようです」
「むむむ。戦果は?」
「今の所は撃退に成功って感じですね。先週の様に複数の航行船で襲ってくるというのはまだないようです」
「あれも援軍を呼ばれた感じだったしな。早いうちに撃退できたら相手も無理しなくなっているか」
日本サーバーもやればできるというところが見せられれば、襲撃のペースは落ちると思いたい。
何にせよ、迎撃体勢が整った事で俺がやれる事はなくなったか。
「そういえば、マスター。公式サイトで次のイベント告知がありましたよ」
「このタイミングでか〜」
海外海賊がやってきている中でイベントというのはハードルがあがりそうだ。イベントは休日の昼間が多いしな。
そう思いながらシーナの差し出したタブレットを見ると、艦隊の再襲来とあった。
「しかも艦隊戦か……まあ、日本だけ失敗というかイベントとして失敗してたから、消化しないといけないタスクなんだろうな」
海外では概ね高評価で終わったイベントだが、日本だけ結果だけ見れば、味方の被害は皆無で秒で撃退という大成功で終わったものの、プレイヤー的には不満の残る結果。即座に再開催が告知されていた。
これを消化しておかないと、海外と足並みを揃えたイベントが行いにくいということか。
「しかし、報酬とかどうなるんかねぇ」
中型コアは配布済み、中型航行船も格安提供されたので、相手の戦艦を拿捕して乗船とするうま味は減っている。
プレイヤーが集まらずに本当の意味での失敗となれば、更に傷口を広げる事になるだろう。となれば、それなりの報酬を用意しないとダメな気がする。
「かといってプレイヤーは、新星系の探索で楽しめている最中。何を貰えたら時間を作ってイベントに参加となるのか」
まだ報酬はふせられたまま。開催は来週の土曜日15時となっていた。
海外の海賊が来る危険もあり、国内の海賊もこれを逃すと活躍の場がない。逆にプレイヤー側としては明確なうま味が見当たらない。
「地獄の予感……」