153
海賊達の戦いぶりは、シーナが集めていた情報と共に提供、迎撃部隊の間で共有されることとなった。
BJの鳥型大型戦闘機が要塞砲で海賊の航行船を撃墜するあたりはあまり見るべき所はない。新兵器であろうリング状ビームを撃ち出す攻撃もさほど興味を引くレベルではなかった。
やはり海賊の力を分析する上で参考になったのは、最後の大乱戦の映像だ。シーナは結構狙われていたので相手の攻撃パターンがしっかりと残されていた。
乱戦の中で獲物を定めたチームは、牽制するような射撃で相手をコントロールしていき、逃げ場を失わせるように、複数の機体で囲い込んでいく。
シーナの回避は射撃の脅威度を計り、安全な方へと逃げるCOM思考がベース。周囲を粒子砲が通り過ぎようとすれば、少しでも安全な宙域へと機体を動かす。
その動きは読みやすい。
ただカスタムしたファルコンは、機動力も高く、シールドも厚いため、何とか生き残れた感じだ。
それにシーナは人間がどうしても正面を軸に考えてしまうところを、全方位を見ながら素早く脅威を確認できる。背後や側面からの攻撃にも即座に対応できた。
それも撃墜には至らなかった理由だろう。
その中で最も危険なシーンでは、上方から周囲の海賊へと多数の命中弾を叩き込んだフウカに助けられている。
「攻撃の瞬間が一番狙いやすいとはいえ、しっかり当ててくのはさすがだな」
「あの女、私を囮に使いやがったですよ!」
「それで処理が早く済むなら全体の被害を抑えられていいじゃないか」
「むむむ〜」
「とりあえず、攻撃パターンはこの映像でかなり分かりますし、何かあれば共有していくって事で」
「ああ、助かったよ」
個室を出て格納庫へと向かう道すがら、エースチームの1人に呼び止められた。
「何か用事が?」
「お姉様は元気かとフウカが聞けってさ」
柱の影からこちらを伺う姿が見える。あえて全身を隠そうとしていないあたりがあざといと言うか、わざとらしい。そこまでするなら直接聞きに来いよと思う。
まあその意固地さでBJとも連絡を取ってないという事だろう。
「しばらくは忙しそうだったが、最近はまた遊べてるみたいだな。新しい妹もできたし」
フウカに聞こえるように言ってやると、分かりやすく仰け反るようなリアクションを取っていた。
ふるふると首を振り、こちらを睨むようにしながらも近寄ってくる様子はない。
「妹って?」
「シーナ、画像あったっけ?」
「リンダの写真ですか。こちらに」
「おお、かわいい。誰これ」
「アンドロイドアバターの1つなんだけどね」
「見たことがないモデルだな」
「新星系の惑星で拾ったらしい」
「……それはロマンが広がるなぁ」
「アンドロイドアバターだからっていかがわしいことはできないからな」
「わ、わかってるさ。でも近くに居てくれるとテンションあがるっしょ」
シーナを見ながら言ってくる。まあ確かにむさいおっさんよりは、美少女が近くに居てくれる方が嬉しいか。
「そういえば、この星系もまだ探索してなかったな。早く行こうか」
「ああ、この星系は霧島さんが見つけた星系でしたっけ」
「そゆこと。まあ、共有しちゃったし、助けてもらった訳だから探索してくれてもいいけど」
「ま、そこは特務曹長次第かな」
「まだ幾つか座標持ってるから、早いところ確認しとかないと、休日終わっちまう」
「お気をつけて」
それっぽい敬礼に見送られながら、俺はFoodsの航行船を後にする。ちなみに詳細を聞きたそうにしつつ、俺には近づけずに、葛藤で動けないフウカは放置したままだった。
海賊の襲来で先延ばしにしていた星系の探索を再開する。パラス・アテナは機動力に特化した航行船、本気を出せば合体後のBJの鳥にも負けない。
星系の探索はスムーズに進んでいく。
「この星系は、他次元生物もいないのか?」
「次元震の反応はありません。浅層の探知にも掛かっていませんね」
初期星系と似た恒星1つと惑星4つ。ハビタブルゾーンに1つ惑星があるが、生物反応はない。探査ポッドを衛星軌道上に配置、周回させて詳細を探査させてみたが、異世界文明などは確認できなかった。
「リンダみたいな例はやはりレアなのかね」
「どうでしょう?」
シーナの首の傾げ方を見ると、攻略情報に触れるという事か。それは率が低いということに掛かっているのか、リンダの他には見つけられないと言うことなのか。
「まあ、アンドロイドアバターの値段も下がっているし、わざわざ探すってほどで……」
「そうですよ、必要ありません」
食い気味に否定してきたシーナの様子に、もしかして自分の立場が危うくなるとか考えているのだろうかと思い至る。嫉妬……というよりは、生存本能か。
BJのサポートシステムは、リンダに吸収されてしまったとの事だが、人格ができるほど育っていなかったとも聞いた。
シーナが生体アンドロイドに吸収された場合にシーナが残るのか、リンダの様にアバター側に乗っ取られるのか。
それを試す勇気は俺にはなさそうだ。
「シーナを失う危険は冒せないな」
もし生体アンドロイドを見つけても自分では使わず売ってしまった方が良さそうだ。
小一時間かけて星系を探索し、目新しい物は確認できなかった。鉱石も初期星系に近く、上位素材は見つからない。
「ここも外れだったかなぁ」
既に海賊やBJ、Foodsが知った事で伝達マークがついてしまっているので、あまり商品価値もなさそうだ。
しかし、新星系でわざわざ初期星系と同価値の星系を置くか。他次元生物がいないというのも気になる。
もしかすると通り一遍の探索では見つからない秘密があったりするんだろうか。そう思うとまだ探索しきっていない気もしてくる。
小惑星帯は少なめで採掘ポイントは少ない。惑星は岩石惑星なので、ガス惑星タイムアタックなどの要素もない。
恒星もそこまで特徴があるわけでもない。
何もかも普通。
それがかえって怪しいと言えた。
「次元探査を少し深めにやってみるか」
この星系にハイドロジェンを残したまま、パラス・アテナを次元空間に戻し、双方から干渉、観測する事で、何か見えるものがあるかもしれない。
「思いついたら試すしかないな」
シーナにパラス・アテナを操作してもらい、通信リンクを切らない様にしながら、次元空間へと渡ってもらう。
ハイドロジェンでその様子を確認すると、次元震を起こしながらこの空間から離脱していく様子が見える。
池に石を投げ込んだ様に次元震の波は同心円に広がっていく。それに反応する影がないかをレーダーで確認。他次元生物をあぶり出す事ができないか確かめる。
「何も起きないな」
「何もいませんね」
「スカなのか」
「サススカですかね」
「時間を無駄にしたーっ」
この星系は単なる初期星系に近い他次元生物がいない星系だった。
それを確認できたからいい……と言うには、貴重な休日を浪費した感が強い。
結局、今週末の探索はここまで。胆石の座標は4つも残ってしまった。