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現出してきた航行船は2隻、共に中型だが8機積めるタイプだ。現出するなり要塞砲を牽制射してくる。状況については先の海賊と共有してるって事か。
『さすがに分が悪いな、逃げるか。リンダ』
『はい、お姉様。向かいます』
愛らしい声が聞こえると、ジャミングが解除された。その後、高速で飛来する機体が3つ。そのままBJの鳥へとドッキングする。
「リンダの遠隔制御ユニットをジャマーとして使っていたのか」
ドローンではバッテリーの消費が激しすぎて長時間のジャミングはできないが、戦闘機のコアで戦闘に参加させずにジャミングに徹すれば、それなりの時間が確保できるだろう。
しかもリンダの操る戦闘機はそれに特化して、推進機とジャマーしかないようだ。
『ぼーっとしていると置いていくからね』
鳥型戦闘機はドッキングした3機のユニットで、一気に推力を増して、グングンと加速していく。
一方でジャミングが晴れたために、海賊達の射撃精度があがっている。俺も早く逃げないとな。
「シーナもパラス・アテナに向かえ、俺もハンマーヘッド拾って向かう」
「マスター、更に次元震が起こってます」
「何だぁ、仲間がやられた腹いせに集団で来るのかっ」
『霧島さん、生きてるか!?』
そう思っていたら飛び込んで来たのは、Foods連合からの通信だった。
Foods連合は大型航行船で乗り付けてきた。100m級の30機以上搭載可能な船で、要塞砲も多数積んでいる。
それが海賊2隻の背後に出現した形だ。
『全砲門開け、霧島さんには当てるなよ!』
その声に俺も慌てて射線から外れる様に移動する。
航行船は機動力が乏しい。まさに大戦中の艦隊戦の様に背後を取られると、下手に転進して側面を向ける方が表面積が増える分危険。それを分かっているらしい海賊はそのまま射程外へ逃げるように加速。中型船は大型船よりは加速がいいので、それも可能だろう。
そこからは空中戦になってくる。Foods連合の航行船から艦載機が発進。機動力を活かして追いすがる。
大型航行船に狙われて反撃できない海賊船へと、射程圏外に逃げられる前に追いつきたい。しかし当然ながら海賊船にも戦闘機は載っている。
そのまま航行船間でのドッグファイトが始まった。
「こうなると俺も手伝わないとな。シーナもジャマーがなくなれば牽制くらいはできるだろ。参戦するぞ」
「了解です、マスター」
最初に戦っていた海賊の生き残り4機も引き返してきての大乱戦へと突入した。
敵味方の戦闘機が入り交じると航行船の援護射撃も難しくなる。となれば戦闘機同士の戦力の差が勝負になっていく。
海賊は新たに現れた船に乗っていた16機と残存の4機で20機。Foods連合の方は急遽の召集だったにも関わらず25機が集まってくれていた。
『元々海賊が来るって話で会合してたところだからね。それなりに集まっていたんだ』
これからの方針を決めている最中、俺からの救援要請が入ったという事らしい。おかげでキーマさんまで来てくれている。
「うひっ、すげーな。航行船から撃ってるんだよな?」
「そうですねー」
乱戦の中、ピンポイントで敵機を狙っていく腕はさすがだ。撃破任務でも前衛に誘導させて、狙っていく戦法を磨いてきたFoodsならではの戦い方なのだろう。
しかし、海外海賊も一筋縄ではいかない連中。意識外からの狙撃で失った機数は数機に留まり、航行船から狙われない位置取りで戦い始めた。
「こいつらの連携、上手すぎっ」
「マスター、ヘルプミ〜」
4機で連携しながら、相手の動きを狭めて集中的に攻撃してくる。回避力を上げたシーナも何発か被弾していた。拡張コアでシールドを底上げしていなければ、撃墜されていたかもしれない。
「もっと拡散弾で目を奪え」
「やってます〜」
最初こそ拡散弾で意表をつけたが、それがドローンによるものと分かると、ドローンを狙って攻撃してくる様になった。
蜃気楼を混ぜる事で損害は抑えているが、一方的にやられ始めている。
『邪魔』
そこへ真紅のファルコンが割り込んできた。シーナに集っていた海賊達に連続で命中弾を叩き込み、そのまま駆け抜けていく。
「むっふ〜、わ、私だってーっ」
「いや、ムキになっても敵わないって。体勢を立て直すぞ」
「了解です、マスター」
機数では上回るFoods連合だが、戦局的に見れば互角か。ただ修復に関しては、大型船を抱えるFoodsに分がある。長期戦になってくれば、趨勢は傾いていった。
『敵航行船から発光弾が撃ち出されました』
シーナの報告通り信号弾が打ち上がっていた。本来なら通信で済む話だが、わざわざ信号弾を打っているのは、こちらにも知らせるためだろう。
海賊達の戦闘機が徐々に退いていく。追撃をかけることもできなくはないが、そうなると相手の航行船の援護の中で戦う形になり、損耗が激しくなるだろう。
ここらが手打ちのタイミングだった。
次元空間へと海賊を見送ると、ふーっと長い息が出た。俺の戦績は結局のところ序盤に落とした2機だけで、最後の大乱戦では逃げ回るだけに終わってしまった。
『襲撃の詳細を聞いておきたいから、こっちにきてくれるか』
「わかりました。シーナはパラス・アテナを連れてきて」
「了解です」
そういえばBJは帰ってこなかったな。Foodsとは確執があるから避けたか。ハンマーヘッドを回収し、ハイドロジェンでFoodsの船を訪れる。
Foods連合の大型航行船『大判焼き』は、俺が作った初代航行船に近い楕円形の船だ。ただ戦闘能力をしっかりと持たせていて、戦艦としての運用が可能となっていた。
甲板へと着艦すると、昇降機で格納庫へと降ろされる。
そこにはキーマさんやエースチームが待っていた。
「助かりました、ありがとうございます」
「間に合って良かったよ。よく耐えられたな」
「最初に来たのは1隻で……まあ、助けてくれる奴もいたんで」
「……詳しくは中で聞こうか」
こちらのやや気まずい様子に察しのよいキーマさんは、個室へと通してくれた。中に入るのは俺とキーマさんと、エースチームのリーダーの3人。
俺が自分の持ってるクジラの胆石の座標へと飛んだ後に、海賊達がすぐさま星系内に侵入してきた事を話す。
うちの航行船は速度があるので、大型戦闘機に捕まる事もなく逃げれていた事。そこへ更に海賊が現れた事を伝えた。
「まあBJな訳だが」
「奴も次元空間の痕跡を辿る方法を手に入れていると?」
「海外の海賊サイトに情報が上がっていたらしい」
Bravoサーバー時代からFoods連合はBJとやりあってきた。レイドでは執拗に狙われ、活躍の場を奪われたりといい思い出はないのだろう。2人とも苦い顔をしている。
「開発連合に痕跡をごまかすジャマーを依頼してるから、それができれば海賊達の手を潰せるとは思う」
「なるほど、それまでを守るのが我々の仕事という訳ですね」
それからBJと共同戦線を張って、相手の航行船を沈めた事。その後、2隻の海賊船が現れてBJは逃げ去った事を伝えた。
「無責任な」
「元々俺を助ける必要もなかったからな。それにFoodsがいるところじゃ、やりにくかったのかもしれない」
「確かに誤射する可能性はあったな」
普段は穏やかなキーマさんだが、BJには容赦しない構えだ。
「ま、海外の海賊って事で結構怖かったんだが、思ったよりやれましたね」
「そうだな。日本の海賊とそこまで差があるように感じなかった」
「ただ気になるのはノーマルの戦闘機だったんですよね」
もちろん撃破任務で入手できる武装などでカスタマイズは施されていたが、動きが硬いのはエースチームと比べて顕著に出ていた。
「奴らがチューンナップする様になると、もう一枚、二枚は戦闘力が上がるかと」
「……そうか」
何より連携の精度が高く感じた。相手を狩るという戦いに慣れている。1機に狙いを絞って、2機、4機で数的有利を活かして仕留めにくるのだ。
「ある意味、パターンがあるんで、そこを崩せれば勝機も出ますが、勝ちやすいからパターンなのでしょうしね」
「フウカ嬢とは違った強さですね」
「海賊と言うより軍隊だな」
何にせよ戦いの経験を次に活かすことを考えていくしかなかった。