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BJが乗っているであろう大型戦闘機は、腹の下に要塞砲を2門持っていて、交互に撃つことでインターバルを緩和しているらしい。
そのエネルギー源は大型戦闘機ではまかなえないはずだが、何らかの方法で解決している。マンタ2機で1門は撃てたから、大型戦闘機のコアを拡張すればできなくはないか。
ただエネルギーシールドも同時に展開している事を見れば、航行船の中型コアを積んでいると見るのが妥当か。
「機動力はほとんどなさそうだからな」
鳥型の戦闘機はほぼ動いておらず、防御はシールドに任せている状態。俺なら懐に飛び込んで戦うことを選択するが、それは必殺の武器を持っているからだ。
普通のプレイヤーは無用なリスクを背負う至近兵装は持っていないだろうから、中距離から間断なく粒子砲を撃ち込むしかないんだろう。
それでは埒が明かないと考えたのか、中型戦闘機2機のペアが接近を試みる。すると大型戦闘機から白い楕円形の物体が分離した。あれは卵か?
少なくとも日本サーバーで最初に合体機を運用したBJは、今回もその機構を取り入れていたらしい。鳥型だけに……はっ、シーナに毒されている!?
ひっそりと混乱している俺をよそに、戦局は動く。大型戦闘機に近づこうとした海賊デュオに対して、卵型戦闘機が迎え撃つ。
その卵からリング状の輪が徐々に広がりながら飛んでいく。リップルレーザーか、手の込んだ事を。レーザーと言いながら、構成してるのは粒子砲の弾なのだろう。円環状に荷電粒子を巡らせつつ射出しているっぽい。
そこに意味があるのかどうか……ただ広がりながら飛んでいくので、普通の粒子砲よりは当たり判定は大きそうだ。
連続して撃ち出される輪を見て、中心が弱点と思ったのかペアの一機が突っ込んでいく。しかし卵に近づくにつれて輪は広がりきらない間に近づいてしまい、そのまま連続的にヒットしている。
輪があるとくぐりたくなる人間心理を利用した武器か……恐ろしい。ただ威力はそこまででもないのか、撃墜には至らず一機は離れていく。
それを見たもう一機は輪を迂回する様に卵へと向かっていった。卵もそれに気づいて後退しながら向きを変える。
海賊は粒子砲を撃ちつつ、旋回しながら距離を詰めていく。それを追うように回転しながら放たれるリング状の粒子砲は、宇宙空間に模様を描いているかのようだ。見た目には綺麗なんだが、攻撃という意味ではあまり脅威には見えない。
中型戦闘機を捉える事はできず、距離が縮まり卵のシールドへと命中弾が増えてきた。あの卵、機動性は低いのか。あんなにBJがダメージを受けるのも珍しい。
海賊側もあと少しと思ったのだろう、近づいたことでリング状粒子砲を避けきれなくなっていたが、多少被弾しながらも最後の距離を詰めながら、粒子砲を連射。
卵のシールドが過負荷を迎えようとしている。
おいおい落とされるのかよと思ったが違ったようだ。
次の瞬間、BJの卵を追撃していた中型戦闘機の横から、幅広の粒子砲が放たれていた。BJは押し込まれているフリをして、分離した大型戦闘機の前へと誘導し、まんまと要塞砲の射線へといざなったのだ。
中型戦闘機のシールドでは、要塞砲の直撃を受け止める事などできない。光の奔流の中へと溶けていった。
『リッチーキング、さぼってないで手伝え』
「へいへい」
『そもそもお前の敵だろうが』
海賊王に文句を言われたので、俺も本格的に加勢する事にした。俺がいることに気づいたんだから、巻き添えでやられる事はないだろう……ないよな?
まあ、海賊とは言え無駄に正々堂々とした所があるBJなので、不意打ちとかはないと信じる。
卵型戦闘機は、鳥型大型機にドッキングして、海賊の航行船を追っていく。俺はそれを攻撃する大型戦闘機に狙いを定めて近づいていった。
レーダーがジャミングされているので、あわよくばそのまま背後から強襲、撃破などと夢見たが、隣の中型戦闘機がしっかりとこちらに反応してきた。
まあ予測の範囲内。
レーダーがジャミングされているので、視覚を惑わせる蜃気楼システムがより有効に働く。3機のドローンを浮かべて、疑似カルテット飛行、フォーメーションで揺さぶりをかけていく。
「やっぱり、射撃の腕がいいなぁ」
こっちはほぼ止まってる大型戦闘機にも当てられないのに、海賊は回避行動をとっている俺達へと命中コースで攻撃してくる。
「場数の差だと思いますよ。マスターみたいに戦闘しない人と比べるのは失礼です」
「それはそうだな」
「マスターももっとパイロットとして活動すれば、上手くなりますよ」
「機会があれば善処いたします」
近づいて当たるなら、近づけばいいじゃない。そのための高機動、蜃気楼なのだ。
俺とドローンは複雑に隊列を組み換え、距離感を誤魔化しながら接近していく。
しかし、一定の距離まで近づくとBJを狙っていた大型機もこちらを向いた。一気に増えた砲門で飽和攻撃に晒されるとたまったものではない。
大きく回避運動をしながら、接近を一度諦める。何らかの隙を作らないと間合いに入る前に蜂の巣にされるだろう。
次元断層剣で無効化できる時間は限られているし、本数が増えれば負荷も上がって防ぎきれない可能性もある。2対1で勝つなんて真似は俺にはできないだろうし無理はしない。
「マスター、手伝いましょうか」
「いや、まだその時じゃないな。別に俺が奴らを倒さなくてもいいわけだし」
残る海賊は4機、大型2、中型2。そのうちの2機をこちらに引きつければ、BJも動きやすくなっているだろう。
要は時間を稼げれば問題ないのだ。
「消極的ですねぇ」
「これが戦略というものだよ」
やがてBJの鳥が航行船を仕留める。要塞砲2連をくらい続ければ耐えられなかった。残った戦闘機はどうするかと思ったが、彼らは帰る手段もなくなったので、最期までやる気らしい。
まだ海賊の方が多いが、半数に減らしたという実績がある。精神的にはこちらの方が有利だ。とはいえ相手は海賊、プレイヤースキルは高い。
BJの鳥は要塞砲2門のみの武装で、近距離はばっさりと捨てているらしい。その代わり次元航行能力を持っている。戦闘機に次元航行システムは詰めないが、航行船を戦闘機サイズに落とし込む事はできたという事らしい。
ただ機体のスペースに余裕がないので、武装は限られ、機動力も高められず、シールドでカバーしつつ、合体した近距離戦闘機で迎撃する形に落ち着いたようだ。
なんだかんだでBJも開発の手は止めていない事は、素直に嬉しいと思えた。
戦闘機相手なので、BJは再度卵型戦闘機を分離、俺のハミングバードと共同戦線を張る。要塞砲の前へと誘導しようとするが、やはり相手はかなり警戒していた。
遠距離での撃ち合いとなると、俺の射撃はもちろん、BJのリング状レーザーも輪が広がり威力も落ちて無力化。ただ海賊側の攻撃を受ける様な俺達でもない。
BJの大型戦闘機から離れて接近戦を仕掛けるのもリスクが大きく、消極的な戦闘に突入してしまった。
「千日手になりそうだし、ここいらで手打ちするかねぇ」
『逃げるのかね』
「マスター、新たな次元震を検知。航行船が現出します」
まだジャミングされたままのレーダーだが、次元震の反応は大きく検知できたようだ。
そして背後を取られる様な形で現れたのは、レッドネームの航行船。海賊の援軍だった。