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「クリアのスコアが827位か……いいのか、悪いのか」
「リストの真ん中辺りなので、初めてで少人数と考えたら、十分にいい方だと思いますよ」
「なるほど」
スライダー星系のスコアは、撃破した敵の数とクリアタイムから算出されるらしい。参加人数が多いと、自動的に敵の数も増えるシステムらしいので、参加人数が多い方が撃破数が伸ばせる。その代わりにボスの耐久力が上がってクリアしづらくなるといった仕様らしい。
ボリュームゾーンは4人〜8人になっているので、そこを外れている分、少し難易度は高めだったかもしれない。
「でもクイーン怖かったからしばらくいいかな……」
「ボス相手に接近戦しようとするのが間違ってるんですよ?」
「だって仕方ないじゃないか」
うちの最強武装は至近兵器なので、強敵とあたるとどうしても接近戦に頼らざるをえない。そして、強力な遠距離砲を積んだとしても当たらない……。
「人間、努力が必要ですよ。AIだって進歩してるんですから、技術を磨いて難関を突破するのが醍醐味です」
「そうだな……クイーンに近づかせない兵器の開発を頑張るよ」
「そっちかーい……はっ、すいません、すいません」
「ん、どうしたいきなり」
「ボケ担当なのに、ツッコんでしまいました……」
心底しょぼーんとした空気を醸し出しているシーナの様子に、こっちも疲労を感じてしまった。
早めに昼飯を食べて休憩してから、5つ目の星系へと入る。すると座標にはすぐに伝達マークが点灯した。既に誰かが発見していて、伝達した星系らしいな。
こうなると見つけた星系は早めに共有した方が高値で売れるのかもしれない。
ただゴブリン王国にはまだマークが付いていないので悩みどころだ。他の誰かが来る可能性もあるし、俺だけが座標を持ってるなら独占していた方がメリットはある。
「他の人は持っていない可能性に賭けるか」
まだ手持ちの座標も全部確認できていない状況、他のプレイヤーも同様の可能性はあってゴブリン王国の座標を持っているプレイヤーはいるかもしれない。でも可能性の話で、自分から公開した場合は確実に知れ渡る。
他人に公開された際の価格の下落よりも、公開されるまで利用するメリットの方が高いと判断した。
「気を取り直して、6つ目……お、伝達マークは付かないな」
となるとまだ知られていない星系の可能性は高い。構成としては一般的というか初期星系に近い、恒星1つに惑星が4つ。小惑星帯もちらほら見える。
視界を塞ぐようなものや、粒子砲が飛ばないといった特異性は感じられない。
出てくる敵次第では、貴重な採掘場所になるかも。
「レーダーに感、次元震を確認」
「他次元生物か」
「いえ、中型航行船1、大型4、中型4のレッドネームです!」
「海賊かよっ」
次元の出口は星系内でも決まったポイントに出てくる。再び次元空間に戻るのはどこでもいいのだが、一定時間はチャージが必要だ。しばらくは海賊から逃げないといけない。
パラス・アテナは航行船最速を目指したとはいえ、戦闘機には劣る。ただ相手の航行船を引き離すためには距離をとった方が賢明か。
「最大戦速、第3惑星軌道まで逃げるぞ」
「了解です、マスター」
こちらが加速するのに合わせて、海賊達も戦闘機を射出、加速を開始した。パラス・アテナの速度なら、早々追いつかれる事はない。
「あ、まだ救難信号の出し方を教わってなかった」
人はこれを後悔先に立たずという……。
「へい、日本人、止まりなサーイ。止まらないと撃ちマース。と言ってます」
「嘘だ、もう撃ってんじゃん」
「ホントですねー」
などと呑気な事を言っていられるのは、彼我の距離に余裕があり、散発的に当たる粒子砲では航行船のシールドを貫けないからだ。
相手の戦力は大型戦闘機でも重武装型。パラス・アテナなら十分に距離を保てた。
このまま次元空間へ戻れるまでチャージする時間を稼げば逃げることはできる。ただ俺が逃げると、他のプレイヤーを襲うだけだし、少しは痛い目に合わせたいところだが……数が多いんだよなぁ。
「シーナも蜃気楼使って、撹乱したとしても4機くらいが限界か」
「もっとイケますよ」
こと戦闘に関しての自己評価が高いシーナさんだが、俺はそこまで信用できない。せめて中型だけでも釣れたら勝負できそうなんだが。
「敵戦闘機、急速旋回。戻って行きます」
「何だ、どうした?」
「先程、新たな次元震を確認。海賊の増援かと思いましたが、違った様です」
「救難信号出してないのに、助けに来てくれる人がいたのか!」
『私の日本に乗り込んで来るなんていい度胸。覚悟なさい。イッツ、ショータイム!』
広域チャットに声が飛んできた。続けて聞こえてくるのは歌声だ。
「おいおい、広域チャットで曲を流すのはNGじゃなかったか?」
「アカペラで歌う分には問題ないですね」
「いくらBJの声とはいえ、歌い方でバレないものかね」
「さて、どうでしょう」
とはいえ奴が来たならやりようはあるか。海賊達を片付けた後で、やりあう羽目になるかもしれないが、今は海外勢に『日本も簡単ではない』と思わせるのが先決だ。
「俺はハイドロジェンで出る。シーナはパラス・アテナを安全な所に停泊させたら、ファルコンで来てもいい」
「了解です、マスター」
「いっちょ、日本人の底力を見せてやんよ」
BJはこの星系にやってきた後、海賊達の航行船を攻撃。撃破には至らなかったものの、かなりのダメージを与えたようだ。
しかし、引き返した戦闘機の相手が始まって、さすがに手が止まったらしい。
「ジャパニーズ・キングオブパイレーツ!」
『おお、リッチーキング。やはり私達は惹かれ合う運命の様だな』
「俺の後をつけてきた訳じゃないのか?」
『HAHAHA、偶々海外勢を追いかけたら君がいただけだよ』
「まあ、いい。とりあえず奴らを撃破するまでは共同戦線を張るぞ」
『その後は組んず解れつだな、相変わらずエロいな君は』
「言ってろ」
引き返した海外勢の後を追いながら、BJと通信を行う。向こうは俺と知らなかったらしいが、どうなんだか。というか、海外勢を追ってきたということは、次元空間を追尾するシステムを入手したという事なんだろう。
早いところジャマーを作って貰わないと、次々に来そうだな。
こちらが追っている事に気づいたのだろう、8機のうち半分がこっちへと再度向き直る。大型2、中型2と戦力を二分した形だ。
大型機から大口径粒子砲が放たれる。命中を狙った弾ではなく、こちらの反応を見るための牽制射撃だろう。
俺はハイドロジェンからハミングバードを分離、蜃気楼ドローンを随伴させて距離を詰めていく。
大型機が後方から遠距離で狙い、中型機がこちらを仕留めに迫る。俺の狙いは足の遅い大型機だ。蜃気楼を発動して、分身しながら火線をかいくぐっていく。
『囮!』
「本体もいるぞっと」
ハンマーヘッドに搭載していた蜃気楼ドローンを連れてきたので、多少攻撃を受けそうな大胆な運用で目くらましをかけた。
わざと粒子砲を貫通させてダミーだと気づかせてやる。艦隊戦前ならもっと数を撒いて撹乱できたんだが、今は5機が限界だ。
蜃気楼ドローンの存在を認知して、隊列が乱れた所へ突っ込み、すれ違いざまに高速振動剣を振るう。
『KAMIKAZE!』
「海外じゃ至近戦はやらないのかね?」
慌てて距離を取ろうとする大型戦闘機に剣を射出。とっさに避けて見せるのはさすがだが、今はワイヤー部分にも切断判定がある。剣のスラスターで軌道を変えつつ、ハミングバードをスライドさせ、ワイヤー部分を絡めて機体にダメージを与える。
蜃気楼を呼び込みつつ、離れざまに粒子砲を撃ち込んで離脱。片翼を切り落としたがまだ健在らしく、追撃の粒子砲が飛んできた。
「さすがにしぶっ」
接近戦で速度が落ちていた所に、中型戦闘機が連射攻撃を仕掛けてきた。慌てて回避を行いつつ、試しに積んであったイカスミをばら撒く。
『NINJA!』
やはり海賊の相手は疲れるな。