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 縄張りへの不法侵入に、住人が怒り出すのは仕方ない。小惑星の影から次々に住人が飛び出してきて、手にした石を投じてくる。

 しかも今回は倒す暇も武器もない。時間と共に増える一方だ。

 それでもまだ先頭を行く俺はマシだと言える。前もってコースが見えて、行きたい場所を選べるからだ。

 後ろの連中は俺から離されないように食らいついているので、選択の余地がほとんどない。

 更には俺を目掛けて投じられた石が、俺が通り過ぎた後にやってきて、タイミングが悪ければもろに直撃をうけてしまう。戦闘機は投石の一撃で落ちるほどやわではないが、それでも数が数だ。多方面から石が殺到すれば、命取りになりかねない。


 それでも食らいついて来ようとする意欲は中々のものだと感心する。いくら偵察艇よりも機動力に勝る戦闘機とはいえ、地の利は俺にあるはず。こんな狭い中でのチェイスなど、俺が追う立場なら早々に諦めてたかもしれない。


「後続、脱落者が出始めてます」

「うひっ、ヤバッ」


 シーナの報告に応える暇も無く、細かくスティックを操作して、小惑星帯の中をくぐり抜けていく。


 2回の攻略でゴブリンの出現パターンは分かってきている。小惑星の影から飛び出してくる時が一番注意が必要な時で、逆に飛び出した直後は新たなゴブリンが出現するまでに、一定のブランクタイムができる。

 つまり楽をしようと空いている空間に進めば、不意打ちを受ける可能性があり、ゴブリンに突っ込むように脇を抜ければ安全……とは言い難いが、動きが予測できる分マシだ。


 そして宇宙船の形も俺に有利に働いていた。偵察艇は魚類型の宇宙船で流線型。正面からの面積が狭くできている。

 逆に戦闘機は鳥を模したものが多く、翼を持っているのだ。ゴブリンの投石程度ならさほど差ができる訳じゃないが、小惑星の側を通る時には影響が出てくる。自ら翼をぶつけて姿勢を崩せば、投石の雨に見舞われるという訳だ。


「後方、射線通ります!」

「こなっ、くそーっ」


 追跡者の中でも最も近くに迫っている機体を操るパイロットの技術は確かなものだ。僅かでも機体が見えると撃ってくる。

 シーナには相対位置から射線が通る危険がある時は、知らせてもらうように指示していた。その声に反応して、大きめにスティックを動かし小惑星の影を目指す。

 俺が進む予定だった所に粒子砲のラインが通っていき、事なきを得た。




「そろそろ……か」

「ゴブリンリーダー、出ました」

「お邪魔している挨拶をしないとな……」


 後続は残り1機。他は撃墜されたか、ゴブリンに足止めされたか。俺の姿を捉えられる範囲には1機のみになっていた。

 少し開けた空間に待っているのはゴブリンリーダーだ。そのタイプは、両手で連射してくる奴。ここからはゴブリンの密集度が上がって、隙間を埋めるようにゴブリンが連携してくる。攻撃できずにここを突っ切るのは難しい。何発も投石を受けながら、シールドの耐久度を頼りに突っ込んでいく。


 さしもの最後の1機もダメージを受けながらの突破よりは、撃破して確実に抜ける事を選んだらしく速度が鈍る。後は俺がリーダーを抜けるだけ。


「お騒がせしました。後は御随意にお楽しみくださいっ」


 両手を間断なく動かし、マシンガンの様に投石してくるリーダー。少しでも足を止めれば連続して被弾する。弾幕シューティングの基本として、円を描く様に回避しながらボスへと接近。

 背後の小惑星の分布からどうしてもリーダーの脇を抜けなければならない。近づくに連れて正確になっていく投石、シールドがジリジリと削られながら、補助ブースターを点火。一気に加速してすり抜ける。


「ああっ」


 最後の最後、最接近する時に、リーダーがジャンプ。フライングラリアットをかましてきた。発達した上腕を伸ばし機体をぶん殴りに来ている。

 スティックを引いて機体を上昇させるが、完全には回避できず、船体に衝撃が伝わってくる。


「揺れる、揺れるっ」


 視界がブレる中、何とか姿勢の制御を取り戻し、ゴブリンの追撃が無いのを確認。周囲の状況を整理する。


「被害は?」

「パラボラアンテナをロスト、レーダー範囲が制限されています。その他はエネルギーシールドの耐久度が低下しているので、ダメージに注意してください」

「またパラボラか……船外に大きなパーツが付いてるのは仕方ないのかね。で、戦闘機達は?」

「レーダーの破損で現時点の詳細は不明。11機中、7機までの墜落は確認しています」

「戦果と見れば上出来だな。輪の外の奴は?」

「現在はレーダー圏外です」

「じゃ、帰るかねぇ」


 俺は第3惑星の輪から脱出し、ステーションへと帰還した。




「ソードフィッシュはしばらく封印だなぁ」


 何だかんだで製品版では一番お世話になっていたので残念な気もするが、この機体の情報は厄介な連中に共有されているだろう。

 今回の大損害で追撃の手を緩めてくれればいいんだが……余計に恨みを買ってる可能性も高かった。

 バレないようにできるならそれに越したことはない。


「他の偵察艇を探していくか。でもその前に作れるものの確認だな」


 各工作機械に取ってきた鉱石をスキャンさせて、作ることのできるものを確認していく。期待するのはやはり宇宙船パーツの開発だ。


「いいねぇ、探査用アンテナとかでグレードの高いのが作れるみたいだ」


 しかし、俺が作りたいのはもう少し別の奴だった。直接それを指すような物はないか……近いのは誘導ミサイルか。


「開発パーツでリストに載っていないのを開発ってできないものか」

「えっと、具体的なイメージがあって、技術力が足りているならマニュアルで指示する事ができます」

「ほうほう。誘導ミサイルの中に、発射後にコントロールできるのってあるかね」

「はい、カテゴリがあります」

「じゃあその制御チップを……いやまて、いっそ誘導ミサイル自体をコンテナに付けるか」

「コンテナにミサイル……ですか?」

「ああ、コンテナの四辺に大きめの誘導ミサイルを付けて、外部からコントロールできるように改造できないかなと」


 偵察艇で遠いところまで行くのはいいんだが、積載量が少なく持って帰れる量が限られている。それを緩和する為に、コンテナを連れて移動できればと思ったのだ。

 β時代のブラックイール型が、電車のようにコンテナを連ねて移動できたので、それをもう一歩進めてみたいと考えた。現代でも前の車についての自動運転や、人に付いてくる買い物かごなどは実現している。


「ミサイルに使用されているコアでは、星系を飛び回るのに十分な出力を維持するのは難しいかと」

「ふむ……じゃあ逆に小型の輸送船に誘導ミサイルの制御チップを埋め込むのはどうだろうか?」

「確かにそちらの方がまだ可能性はあります。ミサイルに比べると、加減速のルーチンが複雑になりますがそのくらいなら学習させることができそうです」


 シーナのお墨付きをもらえたので、小型の輸送船を見繕う。元々輸送船のジャンルは機体が安いので、コンテナ1つ単位の宇宙船となればかなり安くで手に入った。

 ボックスフィッシュという船を3つほど購入し、補助ブースターを増設。パーツ開発で遠隔操作ユニットを作成して載っけて外部から制御可能とした。


「これで遠隔地でも採掘がたぎるな」

「しかし、あくまで追随するだけなので、細かな機動や戦闘などはできませんよ」

「まあ、そこは仕方ない」


 後はメインとなる偵察艇を購入。今後も狙われる可能性を考えて、多少の戦闘力はある機体を選んだ。工作機械を4機分ほど売った値段の中型に分類される機体ハンマーヘッドだ。

 機体が大きくなった事でコアの出力が上がり、武装やレーダーが充実している。ハンマーヘッドのT字の頭部分がレーダーになっていて、口の辺りに粒子砲が3門、そのうち1門をヒートブラスターに換装。

 後は胸ビレ部分に中型のミサイルが6発搭載されていた。


「後は称号だな……」

「プレイ時間が修正されたので、ルーキーを取得する事ができますよ」

「そうだな……でもまあ、しばらくはロビーにも行けないし、ツッコミ担当でいいや」


 その瞬間、シーナの表情がほにゃっと柔らかな笑みに崩れた。はっとして二度見した時には、いつもの無表情に戻っている。


「なぁ、今、普通に笑ったよな」

「何の事でしょうか?」


 首を傾げるシーナ。何事も無かったような態度だ。俺が見たのは笑って欲しいという願望が見せた幻だったのか。まあ、普段からあんな表情で接されたら、挙動不審になりそうだから、無表情なくらいで丁度いいのかもしれない。


「分かった、気のせいということにしておく」

「ドライアードですね」

「そりゃ、木の精やがな!」

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ドライアドwww
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