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Foxtrotの第2惑星にある基地に戻って、ジェネラルからの戦利品を解析に掛ける。極小コアもそれなりに集まったので、拡張コアにして在庫を増やしていく。
その後でシーナの操るファルコンの改装だが……。
「眠いから明日な」
「ぶーぶー」
豚さんを残してログアウト。眠気をおして設計したところで、効率の良い開発はできないのだよ。
日曜日、寝ている間に考えたシーナ用のカスタマイズを組み込んでいく。コアを拡張して出力を上げて、機動性を向上。ドローンを2種類、拡散用と蜃気楼用を搭載。粒子砲は3門に増やす替わりに、ミサイルは外さざるをえなかった。
粒子砲は攻撃力を上げた中口径。大口径も考えたが、ハミングバードの分とドローンのサイズを分けるのが面倒だったので止めた。
それでも当社比何倍かという火力にはなっている。
ファルコン3機を運用するよりも、回避性能を含めてかなり戦闘力があがったはずだ。
それからパラス・アテナに大口径ブラスターを配備。やはり採掘できないのはもったいなかった。スラスター位置の調整などで、機動力はさほど落とさずにブラスターを搭載したので、航行船から直で採掘できるようになる。
「それじゃあ、胆石の残りの星系を探索しにいきますかね」
「ラジャー」
敬礼するシーナを伴い次元空間へと突入していく。
所持しているクジラの胆石に記録されている座標は10個、そのうち3個までは確認済み。残りを確認すべく次元空間を渡る。
「こういう事も当然あるか」
そこはFoods連合から教わっていたスライダー星系の1つだった。次元空間から3次元空間に現出すると、自動的に流されていく。
「パラス・アテナはシールド張って待機。俺はハミングバードで出るから、シーナは改良型ファルコンで出てくれ」
「了解です、マスター。腕が鳴ります」
気合の入ったような、そうでも無いような素面顔でシーナが続く。格納庫にあるハミングバードへと乗り込んで、カタパルトから出撃した。
程なく隣にはファルコンがやってくる。
「改良機の性能を確認したいから、シーナが主攻でいってくれ」
「やってやりますよー」
スライダー星系の敵配置に関しては、攻略サイトなどで情報が出ている。ネタバレはどうかなと思ったが、戦闘系で情報を惜しんで撃破されるのは辛いので、しっかりと揃えてあった。
この星系はハチ型他次元生物の巣で、働き蜂が襲ってくる。機動力ではゴブリンの比ではなく速いが、耐久力は低いので拡散粒子砲を試すには丁度よい相手だろう。
「シーナ、いっきまーすっ」
序盤は蜂の数も少なめなので、正面からやってくる。対するシーナも、拡散用ドローンを前面に集めて、正面の火力を上げていく。
「いいね」
「まだまだ、ここからですよっ」
その言葉通り幾つかの群体で襲ってくるハチに対して、ドローンを的確に動かして殲滅していく。3つのドローンを並行して動かせるのは、AIならではの強みかもしれない。
俺がやろうとすると、ドローン操作に気が行き過ぎて、ハミングバード本体の操作がままならなかったからな。なので俺はドローンの相対位置を固定して、機体の向きで調整する方法で照準するようにしていた。
対するハチの方も数が増えるにつれて攻撃が激しくなってくる。腹の先端から伸びた針状の器官から、粒子砲まがいの弾を撃ってくるので、回避していく必要がある。
しかし、シーナの方も一機の操作に専念することで、回避能力が上がっていた。更にはカスタムした部分も活きている。かなり戦える様になっていた。
「COM相手なら余裕がありそうだな」
「経験値の概念もないザコにやらせはせん、やらせはせんぞー」
「それ、負ける方のセリフだから」
などと軽口を叩ける程度に戦場をコントロールできていた。やがて星系も終盤になってくると、ハチの種類も変わって、より攻撃的な兵隊ハチがでてきた。針からの粒子砲が激しくなり、発達したアゴでの噛みつきを編隊を組みながら襲ってくるなど、攻撃にバリエーションが出てくる。そして個々の硬さも拡散弾一発では倒せなくなり、宙域にハチの数が増えていく。
そうなるとシーナだけでは処理しきれなくなってきたので、俺も本格的に参戦。1門しかない粒子砲を要所に撃ち込みながら、高速振動剣を振り回して撃破していく。
ワイヤーを伸ばした状態でぶん回す方向だ。そのワイヤーに単分子ワイヤーを採用した事で、間は全部斬っていける。自分に絡んだら危ないけど。
そして最後に待ち受けるのはクイーンだ。
侵略者の名前を冠する生体兵器を真似たのか、腹が異常に肥大化しており、小惑星サイズの巣を抱えた形で出現。巣から次々とハチが飛び出してくる。
「シーナは下から巣付近のハチを殲滅してくれ」
「了解です、マスターっ」
いつもより力の入った感じで返答がある。ちゃんと戦えている実感があるのだろう。そして俺はクイーンを目指して距離を詰めていく。
「弾幕薄いよ、何やってんの」
「精一杯やってますーっ」
などと軽口を叩き合いながら巣へと接近。クイーン自体の攻撃はまだないが、巣から排除する形でいいだろうか。
出てくるハチはシーナに任せて、巣へと高速振動剣を撃ち込んでいく。熱された巣は蜜蝋の様にとろけて流れる。
剣の推進機で巣を切り開き、中へと粒子砲を撃ち込んでいくと、やがてハチが出てこなくなる。するとクイーンが大顎を開いて金切り声を上げた。
「うぉっ、うるさいんだけど、何で真空で音が伝わるんだ!?」
「音を電波に近い形で飛ばしていると思われます」
巣を捨ててこちらへと身を乗り出したクイーンは、胴を自ら切り離して身軽になると大きな羽を広げて飛んできた。
「うわっ、こわっ、速っ」
謎の体液を撒き散らしながらこちらに突進してくるのを慌てて避ける。その際に体液の一部が機体に掛かったらしく、アラートが鳴った。
「強力な酸の様です」
「そこまで生体兵器のマネっ子か」
体に対して細長い腕を振り回しながら、体液を飛ばして攻撃してくる。ある種のホラーじみたクイーンに怯えつつ、攻撃を繰り出していく。酸が飛び散るとこちらにもダメージがあるので、距離を取ろうとするが、ハミングバードに負けない機動を見せてくる。
「さすが新星系、速さでアドバンテージを取れないとは」
「マスター、邪魔で撃てません」
「いや、撃つなよ、絶対、撃つなよ」
「分かりました!」
その言葉と共に放たれる拡散粒子砲。フリじゃねーっての。慌てて舵を切って、攻撃を避ける。少し遅れてついてきたクイーンに何発か当たったが、効いている様には見えない。
ただ周囲に散っていた酸を一掃してくれて、動ける空間ができた。
そこへと機体を滑らせて、距離を詰め直し剣を振るう。
「また弾かれるのかっ」
新星系の探索が始まって、高速振動剣に耐える敵が増えた様に感じる。ヒートブラスターによる融解を受け付けないのか。
となると後は次元断層剣を使うしかない。
「ギシャアァァーッ」
「うおぅっ」
クイーンの叫びと共に画面が揺れて、操縦桿に振動が伝わる。音が衝撃となって伝わって来たようだ。続けて本体も急接近、ハミングバードと同じくらいの長さのアゴが、左右に開かれて噛み付いてくる。
それに合わせてこちらも次元断層剣を起動して突っ込む。大きく開いた口へとそのまま飛び込み、アゴが閉じられる前に左へと滑って、切り開いていった。
「こなくそーっ」
「えっ?」
俺が開けた傷口に対して、粒子砲の束が着弾。白く染まった視界の中で、クイーン撃破の文字が表示された。
「やりました」
「おいしいとこだけ持っていきやがった」
「えー、他も頑張りましたよ」
確かに頑張ったかもしれないが、普通トドメはプレイヤーに譲らないかね……。