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宇宙開拓モードで出現する星系は、初期星系などに比べるとかなりシンプルだと考えている。
開発運営もそんな無尽蔵に新たな星系をセットできるはずもなく、ランダム生成で星系を作っているだろう。
そこで複数種類の敵を配置してしまうと、他の星系に行っても同じ様な敵がでるなぁとなってしまうので、その星系に出る敵の傾向は偏ると見た。
「つまり、この星系はゴブリン王国ではないかと」
「ほうほう」
「ゴブリンならシーナの経験値も積みやすいし、小惑星帯も多いから採掘もしやすい。つまりは、ここを中心に開拓を進めようと思う」
最初の何もない星系や、鯉の池みたいな場所は採掘できないしな。
ここの素材はグラガンと大差ないが、まだ見ぬ石があってもおかしくはない。レア鉱石を掘り出した時に、ガーディアンがいる可能性はあるが、ゴブリン王国ならそこまで強敵ではない……と思いたい。
ジェネラルは普通に強かったけど、倒せなくはない感じだった。
「というわけで、ゴブリンを狩りやすい様に兵器開発に入ります」
BJから開発自体を止められた訳ではないと聞いている。曖昧な部分をしっかりと詰めれば、新たな兵器も開発できるだろう。
ゴブリンを相手にするなら威力はいらない。レイドを潰した様な、広範囲高火力な兵器は必要ないのだ。
「拡散粒子砲を検討したいと思う」
粒子砲は、荷電粒子を指向性を持たせて発射する兵器だ。砲身の中でできるだけ方向を揃え、一定の磁場で筒を作り、拡散させない様にしながら距離を飛ばす。
方向を揃えたとしても、同じ荷電を持った粒子同士は反発し合うので、それを抑え込まないと、射程距離を稼げない。
なので周囲を磁界で覆って、荷電粒子が拡散しないように距離を稼いでいる。しかし、電気と磁力は互いに作用し合う。電気が流れれば磁力が生まれ、磁力が動けば電流が流れる。フレミングの右手だか左手だかで習った事だ。
そうやって互いに損耗しあって、エネルギーを失うと収束力も落ちるし、電子自体も減っていく。そうして有効な攻撃力を保持できなくなる地点が、粒子砲の射程と言うわけだ。
「なので、有効射程内で無理矢理磁界を剥がし、荷電粒子が収束できないようにする」
「収束できないと攻撃力が失われるんでは?」
「そこは太陽の光と一緒だな」
太陽の近くでは、面積あたりの光線の量が多く、惑星の表面を何百、何千度で焼くが、距離が離れるにつれて光線間の距離ができていき、攻撃力を失っていく。
満点の星空を見上げていても、身体が焼かれる事はない。
逆を言えば収束力を失っても、距離が近ければ攻撃力がすぐになくなる訳じゃない。もちろん、収束したままの粒子砲に比べると射程は短くなるが、攻撃範囲は広くなり、ゴブリンの様な耐久力の低い敵には有効なはずだ。
「一番の問題は、どうやって磁界を剥がすか……ですね」
「そうだな。磁界が弱ければ単に射程が短いだけの粒子砲になる。途中までは普通の粒子砲として進み、途中で一気に拘束力を失わせるのが大事だ」
そこでドローンを使う。輪っか状のドローンの中を通すことで磁界を中和し、荷電粒子を拡散させる。
「でもマスターの腕で、離れた場所の粒子砲の幅サイズの輪に通せますか?」
「それはドローン側に誘導してもらう。向こうからの電波を受信して、銃口の向きを一致させれば俺は引き金を引くだけで済む」
「ふむむ〜、上手くいくと良いですね」
「という訳で、Foxtrotに帰るから、マンタを回収して」
「了解です、マスター」
Foxtrotの第2惑星に建設した個人拠点へと帰還。拠点に付けた探査機能は、ドローンと別扱いらしく、常時起動させておくことができた。
「この辺、BJが作った小惑星型拠点の機能は残ってるって感じなのかね。とりま、留守の間に接近する影はなしと」
BJの小惑星帯の基地と違って、鳥籠の様な防衛機構はない。その分のリソースを要塞砲とエネルギーシールドに振って、普通に守る体制にしている。
襲われたくは無いが、本当に大事な物は地下に置き、地上の施設が破壊されたとしても致命的な被害にならないような作りだ。
施設正面の滑走路へと着地、格納庫へと入ると、そのまま地下格納庫へとエレベーター式に下りていく。
そこはリーンフォースにあった様な生産区画や貯蔵庫となっている。
「マンタが取ってきたのは貯蔵庫へ。俺は開発プログラムを組んだら、今日は終了だな」
「了解です、マスター」
シーナはマンタの操作に入っていく。
俺は開発用工作機械へと向かい、設計図を作っていく。使用するドローンとその機能、粒子砲とのリンク機能など、機能としてはそこまで複雑な機能はない。
後は狙った様に拘束を失った荷電粒子達が、ほどよくばらけて、威力を保持できるかだな。
ひとまず理論に破綻がないかの初期チェックは突破したが、実際に開発できるかは時間がかかる。以前なら一晩あれば合否が出たが、艦隊戦以降は2、3日掛かるようになっていた。
「ま、週末にテストできれば問題はない」
平日は掲示板を眺めながら過ごす。やはり新星系探しが話の中心となっている。あえて目に入れずに過ごした2週間分のログを流し読みしながら、面白そうな星系を見繕う。
「ウォータースライダー系?」
どうやら星系内で機体が流される気流のようなものがあり、それに乗って星系を強制移動させられるという星系らしい。
決められたタイミングで他次元生物が襲ってきたり、星系全体を使ったステージ制のシューティングゲームになっているようだ。
「撃破した他次元生物の数でスコアが出るようになってるのね。面白そうだな」
発見した星系の座標は、一度行った事のあるプレイヤーとの情報交換で手に入れる事ができる。この辺はFoodsや玉藻御前などに行けば、手に入れる事ができるだろう。
今なら自分の持っている座標と等価交換で問題ない。ただゴブリン王国はしばらく自分だけで楽しみたいところだ。
「何があるか、何がいるかを確認してからでいいだろう。スカ座標と登竜門でどんな情報が得られるかな」
まずはFoodsと連絡を取って会いに行くことにした。艦隊戦以降初めての訪問になるな。
「久しぶりだな、霧島くん」
「ご無沙汰してますってほどでもないですが」
「何だかんだで色々あったから、長く感じるよ」
艦隊戦の空振りから、Foods内でも燃え尽き症候群というか、気が抜けてログイン率が落ちたプレイヤーがいるらしい。
そのため人数が集めにくく、チームの再編などに手を取られていたそうだ。
それと共に新星系の探索も本格化して、連合間のやり取りも増えている。情報の整理はそれに長けたメンバーがやってくれているが、最終確認はサブリーダーであるキーマさんかユニオンリーダーのヤキソバさんがしないといけないらしい。
会社の社長決済みたいな構造になっているな。
そんな近況報告をしていると、ガヤガヤとロビーが騒がしくなってきた。出撃していたメンバーが帰ってきたらしい。その中に小柄な人影が見えた。そいつはこちらと目が合った途端、慌てて柱の影へと身を隠す。
「避けられてますね」
「オレンジネームを脱するまで、君とは会わないつもりなんだろう」
「自分ルールには頑固な奴ですからね」
やがてロビーの音楽が、神歌万唱の独唱曲に変わる。
「フウカが好きみたいでね。帰還するといつもかけてる。もしかしたら啓蒙の一環かもしれないが、じわじわとファンを増やしているみたいだ」
キーマさんの雰囲気からして、万唱がBJだとは気づいていない様だ。アバターの姿を知る数少ない一人であるフウカは、その正体を隠しているらしい。
本人から口止めされているのかもしれないな。