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3つ目の星系へと侵入。ぱっと見は普通の星系の様に思える。太陽サイズの恒星に惑星は4つ。変な重力も磁気嵐も検知されない。
「まあ、どの星系も高難易度って事はないか」
俺はパラス・アテナのまま星系内へと侵入していく。航行船のレーダーも今のハンマーヘッドに搭載している物と同じ、大型探査機のものだ。
範囲としてはそこまで広くはなっていないが、情報の詳細が解析できて、それにかかる時間が短くなっている。
探索範囲が広くなりすぎて星系内にあまり入らなくても分析できてしまうと、探索する楽しみがなくなるという事だろう。
探査ポッドというかドローンを射出しつつ、星系内をくるりと回っていく。
「他次元生物の反応もないな」
星系内を巡っていても、次元震を計測しない。浅い層に待ち伏せして、来るものに仕掛けるという雰囲気もなかった。
4つの惑星は第4惑星がガス惑星で、他は岩盤惑星。そして小惑星帯が散らばって存在していた。
「鉱石のレベルはグラガンと変わらないな」
小惑星の解析データから、上級汎用素材や各種レア鉱石の2段階目が手に入る事が分かる。となるとグラガンでスカラベを倒していた方が効率は良さそうだ。
まあ、大型コアを欲する人達によって順番待ちらしいが。やはり新星系探索では、航行船を失う事もあるらしく、コアの需要は一定量あるようだ。
なので今はあまり気味の中型コアもそのうち不足する事態が起こるかもしれない。
小惑星帯の一つに近づいていくが、パラス・アテナには武装はなく、採掘用のヒートブラスターも付けていない。速度全振りといったスペックになっていた。
そのため採掘を行うには高速振動剣を使うか、マンタを連れて行くかになる。それでもすぐ近くに基地となる航行船があるので、以前よりかなり楽になっていた。
「ひとまずハミングバードとマンタで出るか」
「了解です、マスター」
小惑星帯では小回りの利くハミングバードが最強。武装は少なくても問題はない。
と、小惑星帯に入ったところで、レーダーに多くの反応が出始める。次元震は検知されていないので、小惑星に隠れていたという事か。
「というか、この反応の出方はゴブリン?」
「そのようです」
小惑星の影から姿を現し、こちらへと攻撃し始めた。初期星系では投石による攻撃だったが、弓矢を使っている。
「文明レベルが上がっとるっ。シーナ、マンタは下げて、カクタス準備」
「りょ」
スマホのショートメッセージならまだしも、会話でその略し方はどうかと思うぞ。
とりあえず、カクタスが来る前に文明レベルの上がったゴブリンの強さを確認する。数は相変わらず多く、耐久力はほとんど無いようで中口径粒子砲で一撃だ。
ただの投石に比べると、矢はスピードが早く、レールガンまではいかないが、ミサイルと同じくらいの速度は出ている。
粒子砲で撃てば壊れるので、正面からの弾は破壊可能だ。後は機動力で避ける。
「カクタスはよっ」
「頑張って準備してますよ〜」
間延びした声で返してくるシーナに急いでいる様子はないが、信じるしかない。ゴブリンの数が増えすぎると、ハミングバードでも避け続けられるか分からなくなる。
「ん?」
何やら木の棒を振り回しているゴブリンがいる。するとその木の先端に火の玉が現れた。そしてゴブリンの動きに合わせて、その火の玉がこっちへと飛んでくる。
「ゴブリンメイジですね」
「魔法かよ!?」
火の玉はミサイルよりゆっくりした速度だが、誘導性能があるようだ。一度避けたと思っても、何度も往復して迫ってくる。
それを正面で捉えて射撃。すると半径10mほどの火球となって爆発した。
「シャレにならんぞ。矢でも数が増えると厄介なのに、爆発する火の玉とか。これ、矢で爆発とか……しそうだな」
「マスター、お待たせしました。救世主、シーナ様ですよ」
「ちゃんとサポートしてくれよ」
カクタス3機が参戦し、ミサイルによる攻撃を行っていく。ゴブリン達の機動力はさほど高くはないので、手数の多いカクタスは次々とミサイルを発射。ゴブリンを撃破していく。
集まっていたゴブリンを倒し、戦場がすっきりし始めると、ゴブリンのボスが出てきた。
「えらくカッコいいな、おい」
大きな盾に、立派な鎧。手には剣を持ったゴブリンが出てくる。
「ゴブリンジェネラルですね」
こちらの放った中口径粒子砲を難なく盾で受け止めたジェネラルは、手にした剣を振るう。
「うおっ」
その切っ先から三日月型の弾が発射された。近接しかないのかと油断していたが、ハミングバードの機動力なら問題ない。避けながら距離を詰めていく。
しかし、ジェネラルも連続して剣を振るって追加の弾を撃ちだしてくる。
「弾幕シューかっ」
放射状に広い範囲へと弾幕が張られた。攻撃の密度が薄い場所へと機体を滑り込ませながら、何とか距離を埋めようとする。3次元空間での弾幕回避は結構しんどい。
合間に行うこちらからの攻撃はしっかりと盾で受け止めて、さらに反撃の剣風を放つ。それからまた弾幕を張って、こちらを追い返そうとしてくる。
「一定の攻撃ルーチンと、こちらの攻撃に対する反応ね。ならば、一気に近づくまで」
ある程度、相手の出方を探りながら攻撃を行い、パターンを探った。
周囲のザコはシーナに任せ、弾幕をかいくぐってジェネラルへと迫る。敵に近づけば、それだけ弾の密度が上がってくるので、ハミングバードの機動力を活かしてジェネラルの下方へと回り込む。
しかし、ジェネラルも足場にしている小惑星を回り込み、しっかりと追いついてきて、剣風を放ってきた。
「蜃気楼」
制御できる数を制限されたドローンだが、数台なら操作可能。機体を投影したドローンを分離すると、ジェネラルの攻撃が分散された。少し空いた隙間へと飛び込み、高速振動剣を撃ち出す。
しかし、剣はしっかりと盾で受け止められてしまう。だが、今までの粒子砲の弾と違って、剣には独自の推進機が付いていて、そのまま盾を押し込んでいく。
たまらずジェネラルは、盾を振るって剣を弾く。
身体の正面から盾がずれ、その隙間へと粒子砲を撃つ。が、淡く光ったジェネラルの剣は、その一撃を切り裂いた。
俺はそのままジェネラルへと頭から突っ込む形になる。無駄に立派な鎧は頑丈そうだが、こちらにも最後の武器が残されていた。
次元断層剣は、ジェネラルの鎧を歪ませながら本体へと突き刺さる。
「うっりゃあっ」
そこから機体を滑らせ、肩口に向かって傷口を広げ、そこへ離れ際に粒子砲を追加。右手が動かなくなったゴブリンは、盾を投げつけてきたが、それが当たるハミングバードではない。
「いい勝負だったぜ」
盾も失い鎧に大穴を空けられたゴブリンは、数発の粒子砲を受けて散っていった。
「ふぃ〜」
「……」
「そこそこ〜」
ジェネラルを撃破し、周辺からゴブリンを退去させた俺は、マンタを送り込んで採取を開始。俺はパラス・アテナで休憩を……と思ったら、なぜかシーナの肩揉みをさせられていた。
「普通、主人を労うのが従者の務めでは?」
「マスターへのご褒美じゃないですか。乙女の柔肌に触らせてあげてるんですよ」
「ぐぬぬ……」
確かに滑らかで少しひんやりとしたシーナの肩に触れているのは、中々に心地よい感触ではあるのだが、奉仕させられている感が強い。
「それに私がちゃんと撃破していたから、マスターもジェネラルとの対決を楽しめたでしょう。ならば私にもご褒美は必要なはずっ」
「へいへい……」
まあ、対決の緊張感から開放された今はゆるふわな時間も必要だろう。実際、アンドロイドであるシーナが肩なんて凝るのかね。重たいものを下げている訳でもないのに。
「うおっと」
「マスター、えっちぃ事を考えちゃダメですよ」
「べ、別に考えちゃいないんだがな」
指先に走った静電気の様なパチッと感。シーナに触れている時は胸部装甲の事を考えちゃダメなようだ。
後頭部の首の付け根から、なぞるように肩へと指で解すように揉みながら、親指を動かしていく。途中にコリコリとした感触もあるんで、確かに凝っているのか。
「思っていたよりマスター、上手いですね」
「まあ、自分も凝るからな。どの辺が気持ちいいのかは分かる」
「ふぃ〜、極楽極楽」
などと弛緩する様子は腹立たしいが、実のところシーナはマンタでの採掘をしているはずなので、仕事中なんだよな。
多少の慰労は仕方ないか。