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小説の説明の所に、戦闘機のイメージサイズを掲載しました。連載当初とは変わってるかも……。
ナインテイルを後にして、第2惑星のホームへと戻ってから、ポチョを忘れてきた事に気づく。まあ、子供じゃないし大丈夫だろう。大丈夫だよね……。
俺は早速中型航行船の建造に戻ろうかと思ったが、シーナの格好も気になる。複数の板ポリを重ねることで立体感を出しているらしいが、半透明は使うと透過処理で重くなるはず。テクスチャ自体に濃淡を付けて、三角形を重ねる感じで平面感を消しているのか。
「マスター、人がいないからって大胆過ぎますよ」
まじまじと衣装を眺める俺にいらぬ疑いを掛けてくる。俺は衣装のデキを確認しているだけで、シーナを見ているわけじゃないんだが。
「……女性は視線の動きに敏感ですから、リアルでは気をつけた方が良いですよ。まあ、身近に女性がいないんでしょうが」
「う、うるさいわっ」
「マスターの視線が怖いんで着替えますかね」
「まあ、落ち着かないからその方がいいかな」
「……そんなあっさりと諦められると、それはそれで悲しい。乙女心が分かってないですね」
「へいへい、悪かったな」
シーナの相手をしていても作業は進まないので、俺は航行船に向き合う。流石に3度目ともなれば、それなりに慣れも出て、しかも長さにして半分。体積にすると1/4くらいになっているので、作業はサクサクと進む。
航行船は落ちる危険があるので、生産区画は縮小。弾薬などを作るパーツ用工作機械と修理用工作機械のみを積むことにした。
開発関係は第2惑星の拠点で行っていく。
土曜日の夜、ひとまず飛ぶだけは飛べる形にはなった。武装類はまだない。というかエネルギーを機動力に全振りしている。
その上で装甲も最低限だ。ステーション外装ではなく、大型戦闘機用の装甲を使用することで耐久性は落ちるが軽量化には成功した。
試運転で星系内を飛んだ感触では悪くない。玉藻御前でチューニングした大型戦闘機より少し落ちる程度の機動力になっている。もっと時間を掛けて調整すれば、戦闘機に負けない動きの航行船にできそうだ。
「速度を落としてでも武装すべきでは?」
「ダイアンらしからぬセリフだな」
「私はシーナですので」
「ま、どんなに頑張ってもハミングバードにはならないから、戦闘する事態は機動力活かして逃げるよ」
ひとまず明日は、新星系の探索に出られそうだ。
惜しむらくは次元航行システム部分が、販売されたままのブラックボックス状態な事か。雁などで解析した成果を反映できるようになれば、もうひと工夫できそうなんだが難しい。
「まだ実際に新星系探索にも出ていないから、どこに不満が出るかも分かってないけどな」
「マスター、天邪鬼が過ぎると楽しめませんよ」
「ある程度は運営の思惑も踏襲しないとな」
「マスター、BJからの入電です」
明日の航路を決めるべく、解析したクジラ胆石の情報を精査していると、シーナから報告があった。
「きたか……繋いでくれ」
「やあやあ、成金王。私に言うことはあるかね?」
「開発の進展はどうだ。艦隊戦以降、新しい物は作れたか?」
「……君ならそう来るよな。うん、分かってた」
素直に驚いたり、関係改善に入る様な俺ではない事は、向こうも理解しているようだ。少し不満げな様子は見せているが、深くは突っ込んでこない。
「一応、私も芸能人に仲間入りしている訳だが、その点についての意見を聞きたいね」
「まあ、これでもフレイアちゃんとは顔見知りだし、フレイくんには相談を受ける立場だからなぁ」
「なっ……いつの間に……」
そういえば拡張キット発表後からログインしづらくなっていたんだったか。俺がヴァルハラの大型コア入手を手伝ったり、フレイくんのアクティブシールドをチューニングしたりというのは知らなかったようだ。
「はあ、君という人は、私の想像を越えてくれる。そこに惹かれてしまうんだろうな。追いかける立場というのは辛いが、幸せでもある」
ブツブツと呟いている。俺はそこまで自己評価高くないんだけどな。それこそBJやフレイアちゃん、フウカ達のような目覚ましい技術がある方が羨ましく思う。
俺のような発想系は、後追いもできるし頭数が増えた方が、発想のバリエーションも増えてくるので、連合の方が有利になってくる。
じゃあ徒党を組めばいいじゃんとなるが、それで組めればソロプレイをやってない。人が増えれば何某かの束縛を受けるものだ。
「それで開発についてだったか。確かに許可は下りにくくなっているようだね。まだそこまで時間を取れていないが」
「そうか、忙しいんだな」
「その分のメリットもあるがね。開発は難易度を上げただけで、禁止された訳じゃないというのを運営から直接保証されたりね」
「それは知識チートじゃないか」
「どうかね、私と組む価値は更に上がったと思うが」
「逆に反発したくなるよな、俺達の性格だと」
「これほど理解しあっているのに、付き合ってくれないのは、同族嫌悪という奴なのかな?」
「人様に迷惑を掛けて平気な人間とは相性が悪いんだよ。俺は小市民だからな」
「なるほど……ではまず、海賊を脱するところから始めないといけない訳だな」
フウカと違ってβ時代からのレッドネーム。簡単に海賊をやめられないはずだが、今だと運営にも掛けあえるのか。それはちょっと不利だな。
「俺としては開発で競い合える相手としての海賊王を尊敬している。慣れあってしまえば、堕落しそうだ」
むむぅと唸って黙り込む海賊王。
「良き好敵手というのは、俺にとって特別な存在には違いない。よろしく頼むよ」
「悔しいが、その言葉に嬉しさを覚えるのは否定できない。分かった、まずは私の持つ発想力で君を喜ばせてあげよう」
よしよし、ひとまず距離感は保てたな。
「それはそれとして、AIの育て方は教えてくれるのだろうな?」
「それこそ運営に聞けよ」
「プライバシーという言葉をしらんのか。AIの学習データなぞ、プライベートの塊。部外者には教えてもらえんさ」
え、そんなデータになってるの。シーナや運営にそれを握られてるってヤバくない?
「ということで、また時間を作って会ってくれ」
「ん、んん」
AI学習に気を取られていた俺は、思わず頷いてしまっていた。
目的を達したBJは、そのまま通信を終えた。
残された俺はシーナへと視線を移さざるを得ない。
「あのぅ、シーナさん。AIの学習データの扱いってどうなってましたっけ?」
「利用規約の中に記載されていますよ」
「あんな細かい文字の羅列なんて、ほとんどのプレイヤーは見てないよっ」
「まあ一般的な個人情報と同様の扱いで、第三者に渡るような事はありませんよ。社内の同プロジェクト内での開発にのみ、利用が許されている形です」
根っから臆病気質な俺は、趣味嗜好を握られるという状況にビクビクしてしまう。通販の購入履歴から、好きそうなジャンルの商品を薦めるというのは結構昔からあるが、AIとの会話なんてもっと詳細が伝わってしまう。
そんな不安な様子を認めたシーナは、更にこちらを不安にさせる猟奇的な笑みを浮かべて告げる。
「大丈夫ですよ、マスター。ゴスロリ好きだったり、脚フェチだからって犯罪予備軍としてマークされる様な事はありません」
「いや、それはそこまで心配してないがね」
「攻撃的な性格とか、ルールを破る行為など、ある程度犯罪に繋がる可能性のある事柄は、採点されたりしていますが、マスターは至ってまとも。逆に攻撃性がなさすぎて稀有な部類に判定されていますよ」
やはりゲームをプレイしていると、攻撃性などは高まってくる。特に対人戦などは顕著だろうし、海賊行為なども危うそうだ。
「それこそ殺人犯の家に戦争ゲームがあったからといって、ゲーム規制を騒ぎ立てる大人に対して、プレイ中のサンプリングはゲームの健全性をアピールできると、開発陣は考えています」
そう言われても首根っこを抑えられている様な感触は拭えない。
「かつて監視カメラが出始めた頃は、プライバシーの侵害だと、弁護士達が騒ぎましたが、今となっては安全を守るツールとして浸透しています。個々人の情報を集める事は、犯罪に巻き込まれないための盾になる日が来ると思いますよ」
STGの開発が米国であるというのを痛感した一夜であった。