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一夜明け、公式から対応が発表されて、俺は色々と軌道修正を迫られている。
まずはハイドロジェンの次元航行能力が失われてしまった。次元航行をするためには、移動型ステーション改め、航行船が必要となる。
今回の騒動のお詫びとして、中型コアが各プレイヤーへと配られ、最低限の中型航行船も格安で提供される事となっている。
中型航行船は、15mほどで4機ほどの戦闘機を搭載可能。ワンチームで運用する形で、修理用工作機械を据え置ける。
ワンランク上に8機搭載型の25m級もあるが、少し機動性が落ちるようだ。
運営としては艦隊戦は忘れて新星系の探索を楽しんでくれという印象だ。
まあ艦隊戦も船を提供するために開催しようとしていたみたいなので、目的は達成かもしれない。
ただ艦隊戦自体は面白そうではあった。
海外サーバーで行われた艦隊戦の動画は、見ているだけで興奮できる。
航行船同士の要塞砲の撃ち合い。隙間を縫うように飛び交う戦闘機の狭い空間でのドッグファイト。果敢に敵戦艦へと攻め込み、艦橋手前で撃破される機体。
映画のワンシーンになりそうな戦闘が随所で行われているのだ。ロボットアニメを見て育った人間なら、自分も体験したいと思うだろう。
「でもソルレーザーもやばかったかもな」
反物質攻撃で使う間もなく終わったが、アレを艦隊相手に使用していたら、戦功をかっさらい、悪目立ちした可能性もある。
今、ネット上では反物質を運用した研究チームへの風当たりが強くなっており、所属メンバーはそれぞれの名前や出身サーバー、搭乗機などの情報が拡散されて肩身が狭い思いをしているらしい。
主要連合とも付き合いがあったようなので、完全に孤立する状況にはなっていないようだが、厳しい立場なのは間違いない。
もし俺が停滞する戦況打破のために、大型船をソルレーザーでなぎ払ってしまったら、横取りと取られて叩かれた可能性は高い。
もともとプレイヤー内のヘイト高いからな、成金王。
それよりも問題なのはドローンの制限である。使ってみると便利で、色々と役目を持たして使用していたが、それが制限される。特に探査ポッドもドローンの一部とみなされたので、星系内を常に監視するような使用は不可能となった。
救いとなるのは拡張コアはそのまま置かれているので、ハイドロジェン自体は大幅な変更は必要ない。次元航行システムをどけた分、兵装などを充実させている。
なのでこれからの目標としては、中型コアを使用した航行船の建造になるわけだが、それをすんなり行っては天邪鬼の名が廃る。
「誰も天邪鬼なんて呼んでませんし、死守すべき呼び名でもないですよ?」
「いいだろ、好きなんだから」
「ナンバーワンより、オンリーワン……玉藻太夫にコロコロですね」
「ぐぬぬ……」
しかし、人と同じでは面白くないと思う性格なのは事実。運営が新星系に向けて頑張れと言うなら、斜め下に向かうのが心情だろう。
「という事で、拠点建築を行います」
「素直に中型航行船を作ればいいだけなのに」
「それだとうちの軍勢、シーナの手駒には不足だろう?」
「確かに大型船が必須です、すぐに用意しましょう」
「まあ、すぐには無理なんだがね」
という事で俺はお詫びとして配布された中型コアを利用して、第2惑星上に拠点を作ることにした。
惑星上に基地を作るとは海賊達は思うまい。その上で、防衛拠点として装備も充実させるつもりだ。
第2惑星は自転と公転の周期が同じ、恒星に対して常に同じ面を向けている惑星だ。その昼と夜の境近くの夜側に、ステーションの外装を使用して構築していく。
大気はなく、重力も地球よりは小さいので、ハイドロジェンでも問題なく発着できる。
内部ユニットは、ステーションの内装を流用していくので、ステーションと大差はない。ただ航行船に比べると格納庫などを広く確保する事ができた。
「大事な生産区画なんかは、地下に作っていきますかね」
ヒートブラスターを使用して、岩盤を溶融掘削しながら地下室を拡大。工作機械を並べていく。もし地上の施設が攻撃されても、地下までは届かないように安全を確保だ。
基礎部分を構築したあたりで日曜日が終わる。
「マスター、BJから音声通信です」
ログアウトしようとした時に、そんな報告があった。無視しようか悩ましいところだが、ここしばらくちょっかいを受けていなかった事で少し警戒が緩んでいて通話を受けてしまった。
「ダーリン、寂しかっただろう」
「切るぞ」
「つれないなぁ。私とダーリンの仲ではないか」
「何だ、攻撃し合う敵同士って事か」
「敵と慣れ合うなと嫉妬してくれる仮面の男はいないがね。それはさておきリアルが忙しかった間に色々あったようだね」
などと世間話を始める。本当に寂しかったりしたんだろうか。人を小馬鹿にした様子はあまりない。
「私の可愛いドローン達も規制されて、ジャマーも実用レベルではなくなりそうだ。誰かが悪さに利用したのかねぇ」
ギクギクッ。
いや、心当たりはなきにしもあらずだが、直接指摘された訳ではない。セーフ、セーフ。
「明日仕事なんだ、大した用事がないなら切るぞ」
これ以上、探られるとボロが出そうなので、早めに切り上げることにしよう。
「いや、ちょっとまってくれ、相談はあるんだ。今、人生の岐路にいるというか、踏ん切りを付けねばならんのだが、その背中を押して欲しい」
「やだよ、何で他人の人生を背負わされなきゃならん。お前は孤高の海賊王なんだろ?」
「くっ」
BJは言葉に詰まる……かと思ったが、ちょっと違ったようだ。
「くはっ、ははは。くくく……そうだな。私は海賊王だった。思い出させてくれてありがとう」
「どういたしまして。じゃあ切るぞ」
「君には話し相手になってくれるダイアンがいて羨ましい。今度、AIの育て方を教えてくれ」
「知らねーよ。というか、育て方間違ったと思ってるくらいだ」
「ひどいです、ぷー」
ふくれっ面をして見せるシーナだが、膨らんだ頬以外は真顔のままなので笑かしに来ているとしか思えない。
「ではな。成金王。私の誘いを無碍にした事を後悔させてやる」
「へいへい、おたっしゃでー」
いい加減、疲れてきたので会話を打ち切り、通話を終える。
「良かったんですか、結構本気の悩みみたいでしたが」
「俺と奴は結構似ているからな。天邪鬼な部分も絶対持ってる。そうなると真っ当なアドバイスには反発したくなるから、却って邪魔になるんだよ」
「ほほぅ、そんな深い理由があったんですね。単に面倒くさいから突っぱねただけかと思いました」
ギクギクッ。
「そ、それより、ダイアンって誰?」
「マスター、アニメやゲームばかりではなく、小説なども読んでみるといいですよ。海賊王、ダイアンでググればすぐです」
「ぐぬぬ……」
悔しい思いをしながらログアウトする事となった。絶対、AIの育成は失敗してると思うんだが。
平日、小説を読んでいる間に時間は過ぎて、ログインできませんでした。シーナが薦めたんだから文句は言わせない。