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土曜日にログインしてみると、キーマさんからイベントに参加するなら共闘するかというお誘いがあったが、また見せたくない攻撃を試すつもりなので、別口で参加することを伝えた。
ポチョは戦艦拿捕に向けて特攻を行うようなので、今回は誘ってこなかった。
他にも前回の突撃チームのメンバーや、狙撃隊のFoods以外の面々からもメッセージは来ている。なんだかんだで、知り合いは増えていた。
玉藻御前からは『ご武運を』とだけ届いていたのが逆に不安だが、土産話を期待しているという事だろうか。
俺はこっそりとAlpha星系の恒星側にミラードローンとゲートドローンを配置。星系をぐるっと飛んで、探査ポッドを放っておく。
どうやら同じことを考えている人は多いらしく、探査ポッドは幾つも見つかった。
「後は昼ごはんを食べてからだな」
準備万端整えて、一度ログアウトした。
昼ごはんを食べながらレイド用の管理者ページを確認する。いつもは土曜日に会議、日曜日に本番だったが、今回は土曜日14時からの開始なので主要連合による会議は行われていない。
そのため管理者ページでそれぞれの連合の配置が決められて掲載されていた。
中央にいるヴァルハラ連合は、Alphaサーバー出身者がメインであり、メンバー人数もSTG日本で最大なので今回も作戦の中核となるだろう。
Foods連合は右翼の中団といったあたりか。あまり離れすぎるのも不自然だし、フォローできるくらいの位置にいよう。
まあエースチームが対海賊戦でも目立つ存在となり、間借りとはいえフウカもいる。俺が手伝えるような事はないだろう。
両翼の先端には隙を見て、敵艦の拿捕に向かうメンバーが配されるようだ。ポチョもその辺りにいるだろう。
俺は右翼の先端寄りの辺りに参加する事にした。
13時にログインし、Alphaサーバーに到着すると、ディスプレイにメッセージが表示された。
「鼓舞ライブ開催中?」
「撃墜王によるライブが行われているようです。専用チャンネルに繋ぎますか」
「頼む」
するとすぐさまフレイアちゃんの歌声が聞こえ始めた。ゲリラライブ的に早めにログインした人へのサービスらしい。
「もっと早くにスタンバイしておくんだった」
そうぼやきながら予定の場所へと向かっていく。道すがらプレイヤー連合の布陣を確認する。大手連合の大型船が並んでいて、その隙間を埋めるように中型の船もかなりの数が見えた。
「こうしてみると、大艦隊に見えるな」
その他にも戦闘機が飛び回っているので、戦争前の緊迫感のようなものが伝わってくる。今までの他次元生物相手のレイドと違って、相手が予め伝えられているので、気合の入り方も違っているようだ。
大型船には数十の戦闘機、中型船でも十機ほどの戦闘機が搭載でき、戦闘機のみでの参加もあるだろうから軽く千人は集っている計算になる。
「合体機も増えてきているな」
海賊が使っていた要塞砲を構えた大型合体機の姿もちらほらと見えている。目立つシルエットはないが、他の合体機も混ざっているかもしれない。
エキスパンションキットを期に、また一回りプレイヤーの戦闘力は底上げされたようだ。
やがて予定していた宙域へと到達。この辺りには主要連合の大型船はなく、中型船がちらほら見える程度。
中型船は銛を発射するような機構や、要塞砲などの大型火器は搭載されていない。その他も生産区画のような素材から加工するような工作機械はなく、修理用があるかどうかといった構成になっている。
どちらかというと、新星系探索のため、次元航行を行うための船になるだろう。
「ま、リスポーンポイントとして登録できるのも大きいか」
新星系では何があるか分からない。不意打ちで致命傷を負った際に、また元の星系から飛び立つのではなく、中型船の格納庫に戻れるというのはタイムロスが少なくて済みそうだ。
「俺はこの戦闘でも全損させる訳にはいかないしな」
いざとなれば、ショートワープで逃げるという手もある。そうそうやられる事はないと思いたい。
フレイアちゃんのライブを聞きながら、相手の艦隊を確認する。探査ポッドから寄せられる情報はちょっと厳しいものだった。
「300m級の船とかあるんだが」
こちらの大型船が100m前後なのに対して3倍の大きさがあり、100m以上の艦だけで100隻が並んでいる。
その他にも小型、中型の船影も見えて、単純な戦力比では3倍以上の大船団という印象だ。
「数だけ見れば勝てっこない戦力差なんだけどな」
「それでもプレイヤーの技量があれば、五分以上という判断だと思いますよ」
開拓時代に向けた景気づけのイベント。ストーリー設定的にも、失敗はないと思われるが、敵の戦力は予想以上で気後れはする。
ソルレーザーは目立ちそうなので、使わないでおけるならそれに越したことはないと思っていたが、戦局次第では使わざるを得ないだろう。
『みんなー、Alphaステーションの危機に集まってくれてありがとー。敵は多いけど私達なら負けないと信じてる!』
ライブが終わり、イベント開始まであと5分。それぞれが最終確認を行いながらその時を待つ。
こちらが鶴翼の陣的に、両翼が羽を広げるように前方にせり出しているのに対し、相手の軍勢は中央に主力を集め、鋒矢の陣を敷いているようだ。
布陣的にみれば、中央が抜かれる前に、両翼が左右から挟撃して敵を叩けるかが大事になってくるだろう。
「つまり、この辺の部隊が活躍できるかが勝敗を分ける事になるかもしれない」
今回は遠距離戦を想定してハイドロジェンはレールガンを主兵装にしている。その他、ハミングバードに一門、ハンマーヘッドに二門の中口径粒子砲を搭載している。
加速性能では一番槍もできるかもしれないが、周囲を囲まれると弱い機体なので、そんなリスクは冒さない。
周囲と足並みを揃えて様子をみるつもりだ。
「カウント10……3、2、1、開戦です」
ディスプレイにもバトルスタートの文字が浮かび上がる。見た目は静かな立ち上がりだ。今までの戦闘機が主体の戦場ではなく、加速の鈍い大型船同士の戦いだからだろう。
それでも着実に彼我の距離が詰まっていく。それと共に両翼の部隊が、相手を包囲するように加速していく。戦力が劣るほうが包囲戦を仕掛けるというのも変な話だが、特に指示もなかったのでこのまま進めるのだろう。
「敵艦隊内部に次元震を確認」
「何だ、次元兵器を使ってくるのか?」
いよいよ戦端が開かれるという時、シーナの緊張した声での報告が入った。
「反物質による対消滅を確認。敵船団に爆発を確認、核爆発を確認」
「ん、こっちの反物質による攻撃ということか」
「連鎖爆発により、艦隊内で被害が拡大中」
「某国は核を頼りに攻めてきた感じか。しかし……」
探査ポッドから送られてくる映像には、敵船団の中で幾つも爆発が起きて、周囲に被害を広げている様子が映し出されている。
「敵艦隊2/3の消滅を確認、残存船にも大破、中破の艦多数。継戦能力の消失、敵対勢力から降伏宣言がなされました。我が方の勝利です」
「え、えーっと……」
状況を認知するのに時間が掛かるような予想外の報告である。始まったと思ったら、既に終わっていた。何を言っているか分からないだろうが、それが事実だ。
『『なんじゃそりゃーっ』』
全体チャットに絶叫がこだまする。
これはやらかしたな……色々と。
その後、運営からは次元空間内の兵器利用の禁止と反物質生成の下方修正が発表され、艦隊戦を再度行う旨が発表されたが、大きな波紋を呼ぶこととなった。