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 格納庫に戻った俺は、完成していた宇宙船修理用工作機械で、ボロボロになったハミングバードを修理する。

 次いでパラボラアンテナをソードフィッシュに付け直す修理の予約もいれつつ、余分な工作機械は売却。まだ新たな宇宙船は必要ないので、追加購入はなし。


「マスター、マスター。見て下さい」

「ん?」


 格納庫に現れたシーナが俺を呼ぶ。その姿を見るが、特に変わったことは……。


「お揃いです」

「そんなタグ付けて、外にでないでくれよ」


 シーナを一定時間見ていると、その体に重なるようにタグが表示された。そこには『スペース漫才師:ボケ担当』と書かれている。

 そんなタグを付けて外を歩かれたら、また虐待だのなんだのと燃料を注ぐ事になりそうだ。


「せっかくのお揃いなのに……」

「俺は漫才師なんて称号は付けないぞ」

「残念です」


 どこまで本気なのかわからないのが怖いところだ。これもスペース漫才のボケなのか?



 シーナの相手もそこそこに、俺はマンタ型輸送船で、先程ゴブリンを殲滅した場所へと向かう。先にソードフィッシュでマーキングした必要素材を含有する小惑星を採掘、必要な素材を集めていく。


「うーん、マンタ型は動きが重いな」

「戦闘機や偵察艇に慣れると、輸送船は機動力が落ちますので」

「ハミングバードは軽快だからなぁ。人間、贅沢を覚えると大変だ」


 ただ操作が重い機体なら機体で、操作の面白さがなくなってしまうわけではない。重心を意識しつつ、前もってゆるやかに軌道を合わせる事で無駄を減らしていく。ベストラインに乗せて、2門付いているヒートブラスターで一気に加熱、溶融させて素材を確保し、そのまま次へと向かう。

 コーナーとコーナーの繋ぎではないが、軌道修正を最低限に、小惑星を上手く繋いでいければ、タイムを叩き出せる。


「ストイックですね」

「レースゲームも嫌いじゃないからな」


 サーキットをぐるぐる回って何が楽しいと思う人もいるとは思うが、自分のゴーストを抜き去ってベストタイムを更新するのは、中々の快感なのだ。


「これでいっぱいと」

「お見事でした」




 工作機械を4台ほど売って、それなりの余剰コストができているので、ここからは今後に向けての工作機械作りだ。

 βの時に思いついたものの実現できずに終わった計画を始動させる。

 まずは宇宙船用の開発用工作機械を作製。その他、生産コロニー用、ステーション外装用もそれぞれ1つ作って、ワンセット。

 まだ素材に余裕はあったので、中古市場で売りやすい修理用工作機械を作っていく。


「開発は進めたいが、パラボラアンテナを作るのにサンプル用の鉱石も使っちゃったから、拾いに行かないとな」

「撃破任務とかはやらないんですか?」

「まだあわてるような時間じゃあない」

「マスターなら、撃破任務でも十分活躍できると思いますけど」

「俺の腕はゴブリンに苦戦する程度だよ」


 操船はそれなりに技術を磨いた自信はあるが、射撃の方はそれほどでもない。撃つのに集中してしまうと、回避が疎かになってしまう。今のハミングバードのような小型戦闘機だと一撃が致命傷になりかねないので、撃破任務で稼ぐにはもっといい性能の機体が欲しかった。




 パラボラアンテナを修理したソードフィッシュ型偵察機に乗って、遠距離にあるレアメタルを拾いに行く。恒星を挟んだ向こう側にある小惑星帯へは、中型の他次元生物が生息するエリアを抜けて行かなければならない。

 前回はもっと外周を回って、生息域を回避したが、それだとかなりの時間ロスになる。今回はギリギリを抜けるコースを選択した。


 ステーションを出発してしばらく、ソレに気づけたのは偶然か本能か。レーダーに僅かに映る影、ノイズのように見えるソレ。


「シーナ、後方の光学映像を出して」

「はい、マスター」


 普通の星空が見えるだけ。そう思いながら眺めていくと、やはり何か違和感を感じる。


「この辺りをもう少し大きく」

「はい、マスター」


 拡大してみると星の1つが見え隠れしているのが分かった。宇宙空間では空気がないので、星が瞬いたりはしない。星が点滅するというのは、そこに何かがいる印だった。


「つけられてる?」


 ソードフィッシュのパラボラを後方に向けて焦点を合わせつつ、アクティブレーダーを照射。これは強力な電波を自ら出して、その反射波を捉える事で物体の位置を特定できる。そのもの自体がレーダー波を吸収するような機体であっても、他の物で反射した電磁波が帰って来ようとする時に遮ると、そこに影ができてしまう。

 そんな電波がロストしてしまうポイントが、背後にできていた。


「ん〜、補助ブーストオフ」

「え、減加速するのですか?」

「もしもの時の為に、全力を出し続けてるのはよくないんだよ」


 全力を出している時に、不測の事態が起こった場合、それ以上の力は出せないのでは減速するしかなくて、対処の幅が狭まってしまう。

 加速も減速もできるように余力を持つことが、回避できる幅を広げる事になるのだ。


 そして僅かに近づいた敵の姿が、光学望遠の映像の中で大きくなってくる。黒い点のようなソレはこちらの減加速に気づいたのか、それ以上近づかない様に加速を緩めた。


「さて……どうしたものか」




 具体的な対策を取れないままに、他次元生物の生息するエリアに近づいてきた。背後に不安を抱えたまま、危地に飛び込んでいいものかどうか。

 元々ソードフィッシュには戦闘力がないので、戦う事は考えていない。

 本来ならば何が住んでいるかの確認ができればいいなと思っただけなんだが、後方に迫る何かを併せて考えると下手すると挟撃の目に遭う。


 そのポイントは小惑星なども全く無いただの宙域。天体間の重力が均衡するラグランジュ点の1つだった。


「周囲の次元震を観測、全天モニターに出して」

「はい、マスター」


 前方の空域に色付きの球体が浮かんでいく。次元震は、他次元との接合部に起こる現象で、その近くには他次元生物が潜んでいる可能性が高い。

 β時代に新たな鉱脈を探して飛んでいる時に、他次元生物に襲われる事もあり、その観測方法を探した結果、こうした次元の歪みが予兆として見られる事を知った。


「後ろの奴が知ってるかは不明だが……」


 既に加速は切って、等速運動になっている。加速を続けていると、予定の採掘ポイントを行き過ぎるというのもあるが、宇宙船の動力となっている多次元化合物は、他次元生物の好物でもある。

 出力を遮断して外部から観測できないようにしておかないと、襲われてしまう。


 微妙にスラスターをふかして、軌道を修正しながら生息ポイントに侵入。それぞれの次元震から遠いポイントを縫いながら進む。

 背後の不明機は、期待に反して他次元生物への対処法を知っていたのか、それともステルス機の性能として常備されていたのか、他次元生物に襲われる様子は無かった。

 その動きを見るに、俺の後をしっかりとトレースしているのか?


 相手の目的が何なのかわからないが、不気味な事は変わりない。ここいらで退場願うとしようか。



「アクティブレーダー準備」

「そんな事をしたら、周囲の他次元生物に発見されますよ!」


 アクティブレーダーは、強い電磁波を周囲に発する。これは自ら大声を上げるに等しい行為だ。

 他次元生物は、次元の狭間に身を置きながら、こちらの空間を観測していると思われる。その監視方法は視覚というよりも、電磁ノイズを検知していると見る方が納得がいく。

 つまりアクティブレーダーを使えば、周囲の他次元生物に居場所を教える事になるだろう。


へびが出るか、じゃが出るか」

「鬼が出るか、じゃが出るか、です、マスター」

「ぐぬぬ……」


 シーナの指摘に表情を歪ませながら、俺はアクティブレーダーのボタンを押した。

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