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自分で開発するのは面倒臭くなってきたので、別の切り口から攻めることにした。核ミサイルを海賊達が自作したのか、それとも購入ルートがあるのかを確認していく。
「表のオークションに出品はないみたいだな」
核兵器を検索してみたが、出品は確認できなかった。ただ海賊側には独自の販売ルートがあってもおかしくはない。
「BJが作ってたりする可能性はあるよな」
そう思いながらも核兵器の様な単純に威力を上げるだけの兵器は、BJの趣味からも外れる様な気がしないでもない。
「EMPならありうるか?」
電子機器にダメージを与えて故障させるEMPなんかは、BJが作りそうな兵器かもしれない。確か核を使って大規模停電を起こさせるとか、某国が脅して来た記憶があった。
そう思って電磁パルス兵器について調べてみると、核爆発が大気と反応して電磁波を放射するとの事だから、宇宙空間では核兵器で、EMP攻撃には繋がらないみたいだ。
現状はBJがやったように、マルチドローンから宙域の電波を撹乱するタイプのジャマーが利用されるだろう。
「まあ、味方のレーダーも潰すから、核ミサイルを撃ち込まれる羽目になった訳だが」
核を抑止するためには自由中性子の動きを阻害するジャマーを開発する必要があるだろうか。そんなものができると、粒子砲も止められそうだな。もしかしてデフシンは天然のNジャマーがある星系だろうか。
いやまて、Nジャマーが出てきた作品でもビーム兵器は普通に使ってたな。中性子と粒子砲は別か。
「そういやBJからのメールが途絶えたな」
空想と現実が絡み合う考察に疲れて、別のことを考え始めた。
レイド直後は結構しつこかったBJからの連絡が、ここ数週間は来なくなっていた。相手にしてなかったから飽きたのかな。
いや油断してはならないな。押してもダメなら引いてみなって感じで、こちらが興味を持つのを狙っている可能性はある。
ここは頭の中から追い出しておくのが良いだろう。
「クジラをソロで狩るにはどうするかを考えようか」
コバンザメがついてくるのが厄介だな。コバンザメをいなしながら、クジラにダメージを与え続けるのは難しい。
コバンザメはソロでもやれそうな気はしている。やはりハミングバードの機体性能があがったのと、戦闘中の視力が上がった事で動きを見極められそうだ。
コバンザメは動きこそ速いが、機敏というわけでもなく、直線的に突っ込んでくる。
「それに次元断層剣ならコバンも切れたしな……もしかして、一撃撃破も可能か?」
コバンザメは突進してくる時、頭の上についたコバンを盾にしながら突っ込んでくる。しかし、コバンを斬れるという事は、頭を差し出してくれているようなもの。
「コバンザメを一撃で倒せたら、クジラの相手自体は楽だしな」
クジラの攻撃手段はあまり分かっていない。尻尾で次元震を起こしてくるが、その他の攻撃は確認されておらず、お供のコバンザメに気をつけていれば攻撃を続けられた。
まあ真正面から仕掛けて、口の近くへ行ってしまうと、噛みつかれる可能性は高いが。
レイドの時は顎の下に高速振動剣を撃ち込んだが、倒すところまではいけなかった。倒すだけの火力をどうやって確保するか。高速振動剣が通じないという事は、高速回転弾も通じないだろう。
「となるとこちらも次元断層剣でいくしかないか」
ただ燃費の悪い次元断層剣の動作時間はまだ短く、コバンザメを倒すのに使ってしまうと、エネルギーをチャージするクールタイムが必要になってしまう。
そして長さが短いので、倒すまでのダメージを叩き出すまでに使用時間を過ぎてしまう可能性はあった。
「短時間使用に限って、ソルレーザーを使うか」
ミラーを展開して他次元生物が来るまでには多少の時間があった。その時間内なら使用も可能という事だ。
運営としては威力と言うよりも、無補給で撃ち続けられる部分を対処したかったという事かな。
だとすればまだ使いようはある。
「ひとまず、ヤドカリの動きを見てみようか」
Foxtrotの第1惑星軌道の近く、ミラーを展開した宙域へとやってくる。置き直した探査ポッドは、あれからはヤドカリを検知していない。あくまで鏡を置かないと出ないのだろう。
ハイドロジェンからミラードローンを射出。その場に展開する。しばらく待ってみたが、それだけではヤドカリは出てこない様だ。
レーザーとして使用したらでるんだろうか。
第2惑星軌道近くの小惑星帯を狙ってみる。イカが潜んでいる辺りだ。小惑星の一つを狙って、溶解させてみる。幾つかのミラードローンの向きを合わせて、焦点を絞っていく。通常の十倍ほどの光量を受けた小惑星は眩しく輝きながら、姿を変えていく。
と、次元の歪みを検知する。探査ポッドの機能向上により、浅い次元の他次元生物まで検知できる様になっているので、何かが近づいて来るのが分かった。
「うぉう」
次元の歪をこじ開けながら脚が伸び、ミラードローンの一つ、鏡面へと振り下ろされた。表面の硬質ガラスをものともせずに砕き、バラバラにされた。その後、モサモサと体を現し、爪を使って器用に背負った貝へと取り付けていく。
「他次元生物用ジャマーを起動」
ステーションに内蔵されている他次元生物を寄せ付けないためのジャマーの簡易版を搭載したドローンを作動させる。コーラルボールのコアルームで、BJが使用していたのを再現した物だ。
バッテリーの消費が大きく、拡張コアで供給を増やしても3分ほどしか保たない。
ジャマーを起動したら、ヤドカリは鏡を取り付ける作業を中断して、次元の歪へと潜っていった。
「よしよし、ジャマーは効くな。短時間でも効果があるなら、ソルレーザーを使用する時間が稼げそうだ」
後はミラーの展開から焦点を合わせるまでの時間を短縮しつつ、ジャマーと連動して攻撃に使用できる時間を計測だな。
恒星からの光は距離によって減衰はしないが、光源から離れるほど面積あたりの光量は薄くなっていく。
なので恒星に近いところで光を集めた方が、より強いレーザーを作る事ができるが、光にも移動時間が必要になる。
太陽から地球まで到達するのに8分ほど掛かるように、クジラのいる宙域までは15分ほどの時間が必要だ。
海賊達を撃退している頃には、恒星近くの拠点となっていたミラーは既に壊されていた計算になる。ジャマーで作れる時間は3分ほどなので、次の鏡へと光を送ったら、ジャマーが効いている間に鏡を収納、移動させてヤドカリを回避してやれば、数分ほどのレーザー攻撃が可能になるかもしれない。
「光の到達時間に合わせてミラードローンを展開、ジャマーを起動して、次のミラーへと光を送る。これを星系単位で行っていく訳だが……」
「予めポイントを決めておけば、不可能ではないでしょう。イレギュラーが起きたら、全てが狂いますが」
「それはその時だな。まずは15分かかる場所までレーザーを届けるのが第一目標だ。その後、目標に近い場所のミラーで最後の照準を合わせる」
反射の角度が僅かにズレただけで、次のミラーへは当たらない。動かしながら焦点を探っていった初回時の調整を、予めシミュレーションで組み上げていく。
「ちなみに高次元空間に光を通せたらタイムロスを気にせず、中継点も減らせそうなんだが」
「エキスパンションキットをお待ち下さい」
「ですよねー」
正直、準備の労力を考えると実用は難しいな。とりあえず、クジラ撃破までやったら、やっぱりお蔵入りさせるしかないか。
「それじゃあ、ドローンをバラマキながら現地に向かいますかね」
起点となる第1惑星軌道近辺で、光を一点に集め、レンズで向きを揃えて一本の光にまとめる。それを中継となるミラードローンで反射しながらクジラまで届ける訳だが、電波も光と同じ速度でしか進めないので、後から操作はできない。
「やっぱり、ぶっつけ本番で失敗できない感だな」
いやはや、光を合わせながらの1回目をちゃんと動作させられたのは、結構奇跡に近い調整だったんだな。
「頑張って調整したんですよ」
「うむ、短時間でよく頑張ってくれた。ありがとう」
「うにゅっ、どどど、どうしたんですか、急にえおっ、何を企んでっ」
「動揺し過ぎだろう……」