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「うりゃうりゃうりゃりゃー」
海賊船の1機から放たれた大型のミサイルに対して、最初に攻撃を仕掛けたのはシーナ率いるファルコン部隊であった。
しかし、海賊側も黙って見ているはずもなく、ファルコンの接近を妨害しに出てくる。そして直接抗戦となるとシーナの技量は、圧倒的に劣っていた。
「やられちゃいました、てへ」
真顔で舌を出しながら報告するシーナに、頭が痛くなりそうだ。
しかし、今までは後方から援護するだけだったファルコン部隊が、果敢に特攻を仕掛けた事で、そこに何かがあるのはFoxtrot連合に伝わった。
玉藻御前の大型戦闘機部隊がそのポイントへと向かう。対する海賊達も戦力を整えて防御に回る。海賊が守りに入るというのは、不思議な状況ではあった。
海賊と玉藻御前の攻防は普通のプレイヤーにとっては、かなり高度な領域に入っている。絶えず変わる位置取り、陣形。両軍入り乱れての攻防だが、誤射はほとんどない。技量はほぼ互角だろう。
その中で差が出始めたのは、玉藻御前のミサイルを落とさなければならない焦りか、補給を受けやすい状況での意識の差か。
玉藻御前側の戦闘機の方が、僅かに被弾率が高い。
多少ダメージを受けても母艦に戻れば修理できるという心理は、やや防御が甘くなってしまうようだ。
そして被弾した機が下がり、数的差が生まれると一気に押し戻されてしまった。
大型ミサイルはそのままナインテイルへと向かう。
『霧島さん、せっかくの盾ですが使わせて貰うっす』
「ああ、素材はそれなりに集めてあるから、存分に壊してくれ」
ポチョの判断はコバンシールドによる防衛だった。その重さを軽減するために推進機を付けてあったので、離れた位置から操作ができる。
ミサイルへと極力近づき、シールドを分離。軌道修正しながら、ミサイルへと向かう。
海賊側もそれを阻止しようとシールドを攻撃するが、元々が盾。しかも高速振動剣を受け止められる強度を持ったものだ。直撃すれど勢いの止まらない盾は、そのまま大型ミサイルを直撃。その場に大きな花火を生み出した。
「あのー、マスター。大変、申し上げにくいのですが」
「ん、どうした?」
「ファルコンに積んであったコバンは、ばら撒かれちゃいました。てへっ」
コバンザメを撃破して得た素材は、ハミングバードには積めないので、シーナのファルコンが集めていた。
それが特攻によって全損してしまったので、コバンはその場でばら撒かれてしまったらしい。
「ちゃんとマーキングしておいてくれよ」
「了解しました」
海賊が回収している可能性もあるが、星系から出さなければ問題はない。
そうこうしている間に、俺の準備も整って戦場へと合流した。
「待たせた」
『何とか守ったっす』
「ああ、良い判断だった」
核ミサイルの直撃を受けたコバンシールドは、跡形もなく消し飛んでいた。アレをナインテイルに食らっていたら、リーンフォースと同じく半壊していただろう。
「さて、今度はこっちの番だ」
俺は準備してきた星系の防衛機構を起動させる。
「探査ポッドのリンク完了。調整に入ります」
「よろしく頼む。ちょっと戦場を撹乱してくる」
こちらの準備にもう少し時間が掛かりそうなので、相手が更に核ミサイルを撃ってこない様に、戦場をかき回しに行く。
ハンマーヘッドに搭載しているマルチドローンを連れて、俺は海賊達へと向かっていく。
『成金王、てめえが上手い方じゃねえのはバレてるぜ』
「ヘタにはヘタなりの戦い方があるんだよっ」
俺はマルチドローンを展開して、蜃気楼システムを起動させる。マルチドローンに、拡張型極小コアを積む事で、蜃気楼システムの投影機を搭載してあった。
今までは戦闘機本体からしか投影できなかったので、距離に制限があったがドローンに搭載することで一気に範囲が広がる。
突如現れた10機のハミングバード。レーダーをしっかりと見れば、出力エネルギーの差から本体がバレるだろうが、高機動のハミングバードの群れを視認し続けるのは難しいはずだ。
そしてドローンの本体は戦闘機に比べるとかなり小型。静止しているやつならともかく、動き回っているドローンを撃墜するのは更に難しくなる。
そうやって敵の視覚をごまかしながら、俺は海賊へと接近。至近距離から高速振動剣を使って攻撃を加える。
咄嗟に軌道をずらされて直撃は避けられたが、結構なダメージを与えられた。
『くそぅ、ちょこまかと……がっ』
そしてハミングバードに気を取られすぎると、玉藻御前の戦闘部隊の餌食になってしまう。
「さて、逃げるなら今だと思うのだがね」
『誰が逃げるか。アレを出せ!』
後方に待機していたらしい大型の戦闘機が前へとやってくる。2段重ねのその機体は、大型の合体機だった。そこに大型の砲身が見えた。
「戦闘機に要塞砲を取り付けたのかっ」
機動力はかなり下がっているはずだが、マンタで無理矢理動かしていた物と比べれば、ちゃんと移動砲台として機能している。
極太の粒子砲がナインテイルを襲った。
間にアクティブシールドが割り込んで、直撃は避けた様だが、それでも船体を揺るがす程の打撃がある。そして、割って入ったアクティブシールドは、一発で戦闘不能になっていた。
「チャージに時間がかかるはず。今のうちに……」
『甘えぜ』
更にもう1機、同じ機体が現れて、チャージ時間を埋めるように一発を放つ。今度はアクティブシールドが間に合わず、ナインテイルを直撃。コの字の先端部分に突き刺さり、大きな穴を開けていた。
このままではまずいな。
「シーナ、準備は?」
「微調整ができていませんが、威嚇程度には使えます」
「悠長にやってられないみたいだから、早速使うぞ」
「了解です、マスター」
蜃気楼システムでの撹乱を続けながら、俺は少し戦場を離れて、防衛機構の狙いを定める。
狙いは要塞砲を積んだ大型合体機だ。
トリガーを引絞ると、極太の光が戦闘機を包み込む。
『な、なんだ!?』
その光が徐々に集約されていき、戦闘機が真っ白に輝くと、溶解が始まりそのまま爆発した。
「焦点を合わせるのに時間は掛かるが、溶融させるから採掘にも使えて便利だな」
そのまま焦点をもう1機の合体機へとスライド。しかし、向きを変えた後で焦点を絞らないと駄目なので、やはり時間はかかる。
『くそっ、もう一機をやらせるなっ』
大型機の前に他の機が入り込むが、あまり時間を稼ぐことはできなかった。微妙に焦点のズレた光線にさらされ、やがて耐熱限界を迎えて、撃墜される。
そして再び大型機へと焦点が集まっていく。
『何だこれは、ずっと攻撃が続いて……』
セリフの途中で通信が途絶え、合体機が撃墜された。最後に出てきた機体にずっとしゃべっていた奴が乗っていたようだ。
要塞砲は莫大なエネルギーを使用するのもあるが、砲身を冷却するためにインターバルが必要だ。
しかし、今行った攻撃にはそれが必要ない。
「戦場を舐めるんで、進路上の人は退避を。海賊も逃げることをオススメする」
そう言いながら光線を当てていくと、蜘蛛の子を散らすように海賊達は逃げていった。
実際はある程度焦点を合わせないとダメージにはならないのだが、光を当てられた方は冷静に考えられないだろう。
「マスター、コバン持ったのが逃げますよ」
「それは落としておかないとな」
星系外縁部の探査ポッドを動かして、逃げる海賊の中でコバンを持ち逃げしようとしているヤツを狙い、攻撃を仕掛ける。必死に逃げようとする海賊は、正面から浴びせられた光線に、逃げ場を見つけられずそのまま撃墜されていく。
ただコバンを持った海賊船を撃破したあたりで、徐々に攻撃が弱まっていった。
「幾つかドローンが破壊された様です」
「海賊じゃないよな?」
「他次元生物がたかってるようですね」
「運営からの干渉か……やっぱ、修正されるよな」
ひとまず目的の海賊船は落とせたので良しとしよう。距離があるから回収するのが面倒だが……。
『な、何をしたんすか?』
「ちょっとした理科の実験だよ」
改めて説明するのも恥ずかしい知られた技術だ。