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土日は拡張コアを作るべく素材集めに奔走する。戦闘機のコアはレアなので、大きめの他次元生物を狩るか、戦闘機を買ってバラすかしかない。
ファルコンはまだしも、カクタスクラスのコアは他次元生物からのドロップ情報はなく、現時点では保留。
後はカニのハサミやイカのミミを集めて、コアの拡張に備える。
といって、来週に行われる事になったクジラ戦で撃墜されるとこまるので、ファルコンの換装はエキスパンションキットが発売されるまで延期とした。
「私の活躍の場が!」
「そう言って、ファルコンが落とされたらエキスパンションキット後、お留守番になるぞ?」
「むむぅ……」
今のうちに素材を揃えておけば、キット発売後にシーナのファルコンを連れて、新星系へと向かえるが、一度全損して再度拡張コアの作製からになったら、修復は後回しにせざるを得ない。やはりキット直後に外へ向けて一気に飛び出したいからな。
なのでV2についても拡張は保留。ハイドロジェンだけが拡張コアを載せている。ハンマーヘッドは、大型コアに変えたところだったが、元の大きさに戻して拡張。ハードポイントにつけていたブースターも外して、元の推進装置に戻している。
その上で幾つか追加で推進機を付けて大型コアを付けていた時の加速力は維持していた。機体が軽くできる分、機動力は上がっている。
レーダーについても改装版を載せてあるので、探索能力もばっちりだ。
そしてハミングバードだが……思ったほどの拡張はできていない。やはり、元のコアが小さい分、増える出力量も多くはなかった。なので次元断層剣の試作版を取り付けただけで終わっている。
次元断層剣にも極小コアを付けて何とか次元に歪みを発生させられる様にはなっているが、思ったほどの威力にはなっていない。
「やっぱり、攻撃に使うような無理矢理な亀裂というのは、パワーを使うみたいだな」
「でないとバランスが取れませんからね」
「また身も蓋もない理由だな」
とりあえず来週土曜日に開催されるクジライベントの準備は整えた。その後、翌週の木曜日がエキスパンションキットの販売となる。
STGの発売日ほどではないにせよ、楽しみなのは間違いない。
平日は何事もなく素材で増やせるところを増やしつつ、オークションを眺めながらで終わる。エキスパンションキットの発売に向けて、プレイヤー間の駆け引きがあるようで、オークションの出品物の値段は乱高下を見せている。
俺としてはその辺には関わるつもりもなかったのでスルーしていた。
「宇宙なまこが異星人との交流で役立つはず……というのは笑ったけど」
現在使い道が分かっていない食材系アイテムが使えるようになる可能性はなくはない程度なんだが、それでも市場が動いてしまうのはウワサの怖さを感じたともいえる。
そしていよいよ週末を迎える。
エキスパンションキット販売前の最後の週末。クジライベントがレイド扱いではないのが少し気にかかっていた。
「キーマ様、ポチョムキムキン様よりメッセージがあります」
金曜日の夜にログインすると、シーナからそう告げられた。
キーマさんからは、クジライベントを一緒にしないかというお誘いだ。エースチームからリーンフォース撃沈の報を受けて、クジライベントのコアを提供しようとか考えているかもしれない。
ただ今回のイベントは自分の成長を試したい。移動型ステーションの銛、しかも日本一だろうキーマさんの狙撃だと、俺の出番はなくなりそうだ。
ここは丁重にお断りのメッセージを送る。
ポチョムキムキンには、リーンフォースの撃沈を伝えてあった。一緒に死守した仲だし、再建を喜んでくれていたからな。それだけに伝えにくい部分はあったが、黙っていることも心苦しい。
『自分がいたら守れていたのにすまないっす』
などと言ってくるこの男は本当に自分の責任と思ってそうで困る。アバターはマッチョな軍人だが、大型犬の様な人懐っこさがあって、なかなか突き放す事ができない。
メッセージの内容はやはり明日のクジライベントについてだ。Foods連合と共闘するのか、一緒したいっすという内容だ。
『新兵装のテストをしたいから一人でこっそりやるよ』
と返したらすぐさま直接通話が入った。
『ナンスかそれ、気になりすぎるっす』
「まだ試作品で威力すら分からないから人前で使いたくないんだよ」
『そうっすか……自分も駄目っすよね』
垂れ下がった尻尾が幻視できそうなくらい分かりやすい落ち込み方だ。この姿を打算でやってない所が憎めないポイントだろう。
「俺と一緒にいても戦果はあげれない可能性が高いぞ。それでもいいなら見せてやってもいいけど」
『ホントっすか!?』
その喜びように今度はブンブンと振り回す尻尾が見えそうだ。
「クジラを倒して大型コアを取るならFoodsとかに混ぜてもらうのが一番だと思うけどね」
『自分がコアを持ったところで、船を用意できないっすよ。霧島さんが用意してくれるっていうなら、コアを確保してくるっすが』
それで俺との共同所有とするつもりなんだろう。
「ま、大型コアの船なんて、個人で持つには大きすぎるね。今度販売される中型コアで十分でしょ。それより新兵器を試すほうが楽しいよ」
『じゃあそっちに一緒させてもらうっす』
明日のクジライベントはポチョと一緒に行動することになった。ダメージコントロールの上手い彼が一緒ならシーナの率いる部隊も生存率が上がる。もっと攻撃に力を入れることができそうだ。
「そういえば、コバンザメのコバンが残ってなかったっけ?」
「はい、使い道がないのでステーションの貯蔵庫にあります。空母にも移してませんでしたね」
俺が存在を忘れていたからリーンフォースと運命を共にする事もなかったのは皮肉だな。
「俺は使えてなかったが、ポチョなら使えそうだね」
「シールドとして加工しますか」
「ついでにドローンとして飛ばせるようにしてみる」
極小コアの拡張版で出力を足してやれば、重たかったコバンもある程度動かせるだろう。あれなら高速振動剣の攻撃すら耐えうる物理的な耐性も高い。
「もしかして、あれも多次元構造だったりするのか」
「今なら解析できそうですね」
「シールド作製するついでに再解析しておこう」
もし有用そうならクジライベントに出るだろうコバンザメを狙っていくのも有りだ。
アップグレードして、次元に関する解析も増えた今なら違った面も見えてくるかもしれない。STGの開発・生産はおまけ機能のはずなのに、どこまでも奥が深く感じられる。
「アスモデウスも成長してますからね」
「開発運営システムか。まあ、シーナの成長を見ていると、より多くの人間を相手にしているアスモデウスとやらはもっと成長してるだろうな」
「そんな事ないですよ。得られる情報が限られているので、私の方が多岐にわたって成長してますよ」
「何を張り合ってるんだか……」
シーナやアスモデウスの成長が、俺の楽しみに繋がっているんだから、どっちも大事だな。
「とりあえず、明日に備えて今日は終わりだな」
「はい、マスター。おやすみなさいませ」