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「やってまいりました、週末のお時間です」
「どんどん、ひゅーひゅー、パフパフ」
「盛り上げ方が昭和だな」
「マスターのニーズにお応えしているだけです」
「まあ、いいや。それでは雁の捕捉調査を企画します」
シーナの小ネタを真面目に受け答えしても疲れるだけなので、さっさと本題に入る。雁型他次元生物は、一定の宙域を飛び回っていて、プレイヤーなどに近づくと慌てて逃げる。
これを撃ち落とすなり、捕獲するなりというのは難しそうだと考えていた。そのために取る方法というのは、罠が基本だろう。
例えば、逃げる行動が分かっているので、網を仕掛けておいて、逆側から追い立てる方法だ。ただ雁はショートワープを行える。網があったとしても、それを飛び越える可能性があった。
そこで取る方法としては、獲物を呼び寄せて捕獲するタイプの罠だな。つまり、餌で誘って捕まえるタイプだ。
他次元生物というのは、大なり小なりコアをターゲットに行動している。雁もコアがあれば寄ってくるのではないかという推論。しかし、戦闘機に載っているコアからは逃げている。
これはコアの大小が、他次元生物の強さに直結するので、自分よりコアの大きな者からは逃げる習性があるのではないかという予測。
「これらを踏まえて作製したのが、コア付きドローンだ」
本来は使い捨てであるドローンには、バッテリーが積まれている。そこに極小とはいえコアを載せるのは勿体ないだろう。
「だが日本にはエビで鯛を釣るという言葉もあるように、出費があっても見返りがあればそれは必要な投資というわけだよ」
「マスター……金使いが荒くなってますよ?」
ゴブリンなどからとれる極小コアも、先日の撃沈で在庫がなく、オークションで揃える形になったので、少々高くついてしまった。でも、ゴブリンを倒す所からやるのは面倒だ。金で時間を買った、そういう事だ。
「節約するために工作機械を作りながら、時間のために浪費するのは矛盾しているのでは?」
「ぐぬぬ……細けえ事はいいんだよ」
週末の時間は貴重なんだよ。とりあえず、仮説を実証するために出発する。コアを強化したことで積載量に余裕ができたハンマーヘッドに、囮ドローンを積んで出発。ハイドロジェンが近くにいると逃げるので、探査ポッド近くにドローンを配置して離れる。
探査ポッドで雁の接近を検知したら、ドローンを使っておびき寄せる作戦だ。
モニターを見つめることしばし、雁の編隊がやってきた。そこにドローンを飛ばして様子を見る……お、動きが変わった。逃げるわけじゃなく、向かってきているな。
そして一定距離に近づいた所で加速、パクっとドローンを咥えていく。そこで自爆装置を作動させてやれば……。
「よし、撃破だな」
「頭を失った雁が可哀想です」
「くっ……だってしょうがないじゃないか。世の中は弱肉強食なんだから」
綺麗事ばかりで人間は生きていけない。爆発したことで、他の雁は逃げていったので俺は雁のドロップ品を回収。ステーションに戻って解析していく。
「次元を移動する際の羅針盤的な機能があるんじゃないかと思うんだが……」
「渡り鳥の羽根にはそんな機能はありませんでした」
「だよなぁ」
センサー系の能力があるとすれば、頭なのだろう。それを破壊してしまっては期待した結果は得られなかった。
自爆装置が壊れるのを嫌って早めに爆発させたのが失敗か。飲み込めるサイズに調整して、腹の中で爆発させる……考えるとグロいな。
ドロップ品が渡り鳥の生首とかだと萎える。
「ま、まあ、しばらくは警戒心も強いだろうし時間を置こうか」
「あ、日和った」
「ひとまず極小コアとカニ装甲を補充するために第3惑星に行こうか」
「はい、マスター」
もはや庭と言っても過言ではない第3惑星の輪にある小惑星帯。今回はゴブリンの持つコアも狙いなので、数を倒す方向で進めていく。
「じゃあ、リーダーの相手をしておくから、ゴブリンを倒しちゃって」
「はい、残忍なマスター、いってらっしゃいませ」
「ぐぬぬ……」
動物型の雁を倒すのにためらって、人型のゴブリンは平気で倒せる……俺って残忍な人間なのだろうか。
そんな事を考えながら、リーダーの相手を行う。シーナの連れているカクタスへと流れ石がいかないように、向きを気にしながらの戦闘。
リーダーが投げてくる石を剣で切る練習をしていく。その合間に、リーダーを援護するゴブリンを粒子砲で撃ち抜いて、数を稼ぐ。
「ゴブリンは弱すぎて、部位破壊が狙えそうにないな」
小口径の粒子砲でも一撃で倒せるゴブリンは、部位を狙って攻撃しようにも、めぼしい場所は見当たらない。腕とか切り落としても寝覚めが悪くなるだけっぽいしな。
「何とか5つ集まりましたよ、マスター」
「実験に使うにはそれぐらいでいいか、そろそろリーダーの相手も飽きてきたし」
俺は程よいタイミングでリーダーへと近づき、剣で両断、撃破した。
「続けてカニ装甲とハサミの回収だな」
ハンマーヘッドのレーダーで目標を見つけ、ハミングバードで狩っていく流れも何度も繰り返してきた事なので、特筆すべきことはなかった。
「素材が集まってきたので、もう一つの研究を進めます」
「何の研究ですか?」
「平たく言えばコアの研究かな」
戦闘機の燃料兼出力機関であるコアは、多次元構造を持つ物質だ。ステーション外装に使われる様な硬さを目指した構造ではなく、バッテリーの様に多次元的にエネルギーを蓄えている。
コアは大きさに応じて内包するエネルギーや一度に出力するエネルギーが大きくなっていく。そのため、空母を動かすには大きなコアが必要になるのだ。
「しかし、最初のゲートを建設する際に、プレイヤーからコアを回収していた訳だが、大きなコアではなく、数で勝負という感じだった」
つまりは小さなコアを集めても、大きなコアの代わりにする事ができるのではないかというのが、今回の研究だ。
しかし、乾電池の様に並列や直列に繋いだところで大した変化はなく、得られる効果よりロスが大きい状況だった。
「このゲームの肝となるシステムは、多次元構造という概念だ。つまり、3次元的に直列や並列では駄目だった」
「ふむふむ」
並べる方向も多次元に並べる必要があったのだ。それを可能にしたのが、カニのハサミやイカのミミだ。次元を切り開くハサミと、沈み安定させるミミの性質を組み合わせることで、コアを多次元方向へ並べる。これにより、大きさはさほど変わらないのに、より大きな容量を持つコアとして組み上がる。
「どやぁ」
「ついにその領域に到達しちゃいましたね」
「まあ次元の安定が難しくて、2段止まりだからそこまで出力を大きくできないけどな」
ゲートを安定させるだけの技術があれば、もっと積層させて出力を高める事もできるかもしれない。シーナが驚かないのは、ステーション管理部では当たり前の技術なんだろうね、悔しいけど。
諸々の改造を含めて、雁の素材確保が大事になってくるだろう。
この技術を使えば、重さや大きさの関係で武装を制限しなければならなかったハミングバードの強化も可能となってくる。
あとはカニのハサミ関係の研究が進めば、高速振動剣に代わる次元断層剣なんて物も作れるかもしれない。
「まあ攻撃力は上がるが採掘に使えないんじゃ意味無いな」
「そこは採掘メインに考えるのをやめましょうよ。STGのメインは戦闘ですよ」
「与えられる物に満足していたら、立派な天の邪鬼にはなれないのだよ」
大手連合をはじめ、開発ももっと盛んになっていくし、海外サーバーとも接続される。
BJは勝負に負けて試合に勝った状況。ちゃんと決着をつけるべく、向こうが絡んでくる可能性もあるので、新たな武器は用意しておく必要があるだろう。
「俺達の戦いはこれからだ」
「まだ4章ははじまったばかりですよ」
「またそんなメタ発言を……」
3章から引きずっていた問題を何とか整理。
エキスパンションキット販売まであと10日ほどに迫り、主人公の行動方針がなんとな〜く固まりつつ、周囲の反応やいかに?