12
ハミングバードでのゴブリン掃討を終えて、ステーションに帰投。そのままソードフィッシュに乗り換えて、第3惑星の輪へと舞い戻り、工作機械の作製に必要な素材を採掘。
ソードフィッシュはレーダーが破壊されてしまっているが、対象に近づけば解析は可能だった。積載量分を十分に採掘し、ステーションへと戻った。
「次は宇宙船修理用の工作機械かな」
作製してソードフィッシュを修理する事にした。といって壊れたパラボラアンテナは拾えてないので、アンテナ1つである程度距離が稼げるようにチューニングするだけになっているが。
「前のパーツ作製用を作った時に、パラボラだけでも作っておくべきだった」
「マスターでも見通しが甘い事があるんですね」
「そりゃ当然。結構、行き当たりばったりだよ」
「確かに先見の明があれば、炎上騒動なんて起こしませんね」
「ぐぬぬ……」
修理が完了したところで、修理用工作機械を売却。マンタ型輸送船を購入した。初期配備のブラックイール型輸送船に比べると、積載量では劣るものの加速性能は優れていて、速度は出せる機体だ。
採掘用のヒートブラスターも、中口径が2門ついていて、ブラックイールよりも時間短縮ができる。
このマンタ型に乗って、もう一度第3惑星の輪へと採掘へ。先程ソードフィッシュで目ぼしい小惑星にマーキングしておいたので、それを片っ端から採掘していく。ソードフィッシュでは一度に工作機械1台分の採掘で積載量がいっぱいになってしまっていたが、さすが輸送機。たっぷりと採掘して何台も工作機械を作れるだけの素材が集まった。
「しかし、流石に疲れた……って、もう夜じゃん。昼飯抜いて何やってんだか……」
「ゲーム中毒者の称号を設定しますか?」
「うるさいよっ」
シーナの猟奇笑顔に見送られながら、俺はログアウトした。
VR機器が思ったほど高くなかったので、もうそんなに節制はしなくてもいいのだが、午後8時を回って外出というのも面倒臭い。
買い置いてあった袋麺を取り出して、即席調理していく。味噌ラーメンに卵を落として半熟に、後は食べるラー油を後でちょい足しして味変も楽しむ。
締めには冷凍保存してあったおむすびを1つ、残り汁にいれてラーメンおじやにして食べれば、昼を抜いた分もしっかりと補給できた。まあ、栄養バランスなんてクソ喰らえな晩飯だが……。
そんな事を思いながらゴロンと横になってしまうと、意識を手放すのに長い時間は必要無かった。
「ゲームして、飯食って、そのまま就寝。いやマジでゲーム中毒者みたいな生活になってるな」
気づけば朝の6時。顔を洗ってシャワーして、昨日干したままになっていた洗濯物を取り入れて、朝食を摂る。昨日と同じくフルグラだが、こっちは色々栄養素が入ってるから問題ない……か?
昨日からあまり動いていないと思って、軽くラジオ体操のような動きをして……VRゴーグルを付ける。
3連休の中日、プレイヤーも多くログインする事だろう。まあ、ゲーマーの活動時間は深夜から明け方にかけてなので、午前中はほとんどいないだろうが。
アレからネットは怖くて見ていない。実はそれほど炎上してないってのもあるかもしれないけど、炎上していてない事、ない事、言われていたらダメージは大きい。
「ま、今のところ、ネットで調べたい情報もないしな」
そう呟きながら、STGを起動した。
「おはようございます、マスター」
「ああ、おはよう」
美人秘書のように挨拶してくるシーナに挨拶を返す。こうした所作はキビキビしていて心地よく、姿勢もピシッと決まっているので見惚れるくらいだ。
「今日はどうなさいますか?」
「昨日取ってきた資材を使って工作機械を量産、販売だな。市場に動きはないよね?」
「そうですね、まだ大きな変化は。多少、ジャンクパーツの出品は出ていますが、すぐに買われている状況は続いています」
「じゃあ、宇宙船用のパーツ作製、修理をそれぞれ3台ずつ作製。後は……うん、サンプル鉱石使えば作れそうだから、パラボラアンテナも作っといて」
「はい、マスター」
仕事している間は有能な秘書そのままに、堅実に作業をしてくれる。雑談モードになると、いかに俺を傷つけるかを狙っている気がするが……。
俺はそのままソードフィッシュ型偵察艇に乗って、第3惑星へと向かう事にした。
その道中で、シーナからの報告があった。
「昨日、運営に対して、サポートシステムへとDV被害の報告がありました」
「ぶふっ」
「一部のプレイヤーが、アンドロイド型アバターに対して、暴行を行っているとの事で、映像付きで連絡があったそうです」
コックピット内のサブディスプレイに、その様子が再生されていく。宇宙服のフルフェイスメットの男へと駆け寄ったアバターに対して、男は頭に手をやる。するとアンドロイドの首が曲がったまま押さえられ、最後には頭を殴り、手を引いて連れて行く。
「うわー、暴力動画に見えるわー」
「ちなみに、ネット上にも同様の動画がアップされていて……」
「うわーうわー、聞きたくなーい」
「運営により、事情聴取を受けました」
「ち、ちなみに、何とお答えになられましたか?」
「ボケツッコミの一環だと、犯人は供述しており……と」
「ぐぬぬ……」
「まだ開発主任が出社されていないので、判決は保留です」
「い、胃が痛い……」
「大丈夫です、マスター。愛情表現が下手なぼっちプレイヤーだと分析を添えて、提出していますので」
「シーナの優しさが痛い……」
そんなやり取りの間に小惑星帯へと到着。中には入らずにレーダーによる精査を行っていく。すると案の定、ゴブリンがリポップしているようだった。
「どうするかなぁ。再度殲滅して採掘するか、他の所に行くか」
「基本的にはどの採掘ポイントでも遭遇戦が発生する可能性はあります」
「だよなぁ……となると、勝手知ったる場所でもう少し稼ぐか」
ソードフィッシュでゴブリンを調査しつつ、採掘すべき小惑星にもマーキングを施し、一度ステーションへ帰る。
続いてハミングバードに乗り換えて、いざ小惑星へ。
大体の場所はマーキングしてあるので、前回ほどはビクビクせずに済んでバトル開始。前回同様、序盤の操艦はシーナに任せて、自分は粒子砲の迎撃を行っていく。
「ガンコンがあるともっと滾るんだけどなぁ」
「ガンコンですか?」
「銃の形をしたコントローラーで、昔はアーケードゲームであったんだよ。銃みたいに構えて引き金を引くと、狙った所に弾が撃てるって感じのコントローラーが。このリストバンド型コントローラーなら、そういうのも対応できそうだなって」
「分かりました、運営に提案しておきます」
「いつも済まないねぇ」
「それは言わない約束でしょ、マスター」
などというやり取りをするうちに、ボスのゴブリーダーが現れた。ここからは自分で操縦しながらのバトルに入った。
ゴブリーダーの号令に合わせて、タイミングを合わせた攻撃を繰り出してくる。小惑星を足場に多角的に攻撃してくるのを掻い潜りながら、ゴブリーダーへと詰め寄る。しかし、前回と違ってゴブリーダーは、大きな石を持たず、左右の手で器用に投石を連射してきた。
おかげで近づき難くなっている。
こちらからの攻撃も小惑星を足場に三角跳びして避けられた。
「ザコとは違うのだよ、ザコとは」
「ゴブリン語が分かるのか?」
「いえ、なんとなくです」
「さいで」
シーナが暇そうにしているので、ゴブリーダーを中心に、小惑星の位置を3Dマップに起こしてもらい、死角になる位置を全天モニター上に表示してもらう。
その小惑星の影をたどりながら距離を詰めていく。その間も普通のゴブリンは襲ってくるので、躱したり、撃破したりしながらだ。
投石を受けた小惑星は破片を撒き散らしながら砕ける事もあり、刻一刻と状況は変わっていく。ハミングバードの機動性で何とか破片をやり過ごし、影から影へ。弾幕シューティングの様相を呈し始めたが、距離が縮まるに連れてゴブリーダーへの射撃も当たり始める。その分、弾幕も厚くなってきて、シールドが削られる事も増えていく。
「くそっ、もう少し上手ければ、ハチドリの様に舞い、ハチドリの様に刺せるんだが」
シールドに投石が当たる度に、ビクッとしながらも攻撃を続け、互いの体力が失われていく中、何とかチキンレースに勝った。
苦し紛れに両手の石を同時になげたゴブリーダーが、背を向けて逃げ出したところを、しっかりと追撃して撃破。勝利を収めた。
「さっさと帰って……次はマンタで回収か」
「マスター、運営からの公式見解が発表されました」
「そ、そんなのもあったな」
サブディスプレイに公式サイトのお知らせが表示された。
『この度、プレイヤーの行動に対して、多数の投書が寄せられています。当社にて該当AIの記録を確認いたしましたが、問題となる行動は確認されておりません。一部の情報を見て、誹謗、中傷を行わないようにしてください。過度な嫌がらせ(ハラスメント)行為が確認された場合は、アカウントの凍結等の処置をとる場合もございます』
まあ、メーカーがログを見たら、俺が変な事をしてないのは分かってもらえるよな。ただこれで沈静化するほど、ネットの人間ってのは簡単じゃないけど……。
「あとマスター、運営から個別のメールが届いています」
『この度、霧島様のAIの情報を精査したところ、プレイ時間に不具合を発見いたしました。β期間と製品版開始以降を合わせたプレイ時間となるように修正を行いました。それに際して、使用可能となっていた称号をロックしなおします。また今回の不具合に対する補填として、新たな称号をお贈りいたします』
「ああ、プレイ時間がバグだと認識してもらえたんだな。で、新しい称号ってのは?」
「はい、『スペース漫才師:ツッコミ担当』が付与されました」
「全然、詫びる気ないだろ!?」
「ナイス☆ツッコミ」
シーナがディスプレイの中でサムズアップで応えてくれていた。