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『すいません、霧島さん……』
「いや、こっちが不注意だったんだ。逆に助けに来てくれたのに申し訳ない」
『リーダーに掛け合って、新しいコアの確保の段取りをつけます』
「いやいや、現状でまた船を持っても同じことの繰り返しになるからいいよ」
『ならいっそうちの連合に来ませんか?』
「う〜ん、嬉しい申し出なんだけど、そういうのはちょっと苦手でね。申し訳ない」
『……そうですか。何かあったら手を貸しますんで、気兼ねなく言って下さい』
「ああ、その時は頼むよ」
申し訳なさそうにするFoods連合のエースチームのリーダーを送り出し、俺はステーションへと帰還する。
海賊達は多くの仲間を自爆に巻き込まれたまま帰れるかと、反撃に出よう迫ってきたが、俺が早々にステーションの防空圏内へと飛び込んだので、何もできずに去っていった。
ステーションの防衛機構はシーナの射撃の比ではなく、しっかりと当てる攻撃を要塞砲クラスで行ってくるので、圏内に入ってくれば即撃破になっただろう。
「こっそり運用するならまだしも、持ってる事が周囲に伝わってる状態だと、守る力が必要だったなぁ」
建造時や停泊時はステーションの防衛圏内で、襲われる危険が全くなかったので少し油断が過ぎたようだ。
「ちなみに今回も海賊を多数撃破したので、賞金が出てます」
「うお……また恨みが蓄積しそうだな……」
「金額的には前回より少ないですよ」
「でも直接やっちゃった感があるからなぁ」
前回は混乱を生じさせた結果が、同士討ちになった形でどこか自業自得感もあったが、今回は巻き込むつもりで自爆させたから恨みもひとしおだろう。
「表を歩けないな」
「元々ステーション内すら歩かない引きこもりじゃないですか」
「HAHAHA……はぁ」
とはいえ失ったモノは大きい。
エキスパンションキットの販売が決まった直後だけに、出遅れが確定したのは堪えるな。
ステーション内に確保していたのは、リーンフォースを貸し出していた間に撃破したスカラベの小惑星から掘り出した素材。レア鉱石もかなりあるので、空母に積んだままだった素材と遜色はない。
差となるのは各種工作機械と作っていた武器、ドローンなどだな。ああ、カニの甲羅やイカのミミなんかもロストしたか。
そしてハイドロジェン以外の機体は全て全損状態。修理するにも工作機械がない状態。
「一週間の空母のレンタル料とさっきの海賊討伐の報奨金でステーション内装用の工作機械購入からだな」
ありものを買えばすぐに揃えられるが、貧乏性なので内装用機械を買って、他の工作機械は作っていく方法を選んでしまう。そのために時間はかかる。
修理用を作って戦闘機を修復、開発用を作って、工作機械のアップグレード……順番に行っていくしか無い。
幸いにして素材には困っていない。
「そういえばマスター、探査ポッドからの情報が集まってますよ」
「おお、今日の本題はそっちだったな。なんでこうなった……」
探査ポッドからの情報は、性能を上げたハンマーヘッド側に集めていたのが功を奏して、リーンフォースと共に失われるのは回避できていた。
更には星系の全周囲から恒星に向かって海賊が押し寄せて来たので、星系内の他次元生物がもれなく活性化したらしい。
「こりゃ、災い転じて福となすか?」
「こちらが今までに登録されていない他次元生物ですね」
第2惑星の公転周期に近い辺りに、その姿が映し出されている。
「ガンか?」
「ガンバードですね」
「それだと意味が変わっちまうだろ」
V字になって編隊を組む姿は戦闘機かと思わせる。海賊達に驚いたのか、次元震を起こして潜航。次の瞬間に別の場所に現れている。
そこにも海賊達がいて、頻繁にショートワープを繰り返す姿は、渡り鳥の一種である雁だろう。
「渡り鳥型の他次元生物で、ショートワープを繰り返しているとなれば、ゲートに絡んでもおかしくないよな」
ただその様子から臆病そうな雰囲気だ。近づくと逃げるとなると、捉えるのは難しそうだ。ただでさえ下手な射撃で仕留められるとは思えない。
「まあ、一週間かけて悩むかな。今日はもう疲れたよ、パトラッシュ」
「マスターに絵の才能があるとは思いませんでした」
シーナに言い返す余力もなく俺はログアウトした。
翌月曜日、昼休みに公式サイトを確認すると、中型コアの販売が発表されていた。まあ、大手連合しか手に入れていない大型コアでしか新機能を試せないとなれば、クレームの嵐だもんな。
それに海外ではまだ大手連合すら大型コアにたどり着けて無いらしいし。
「発表があと一日早ければ……」
海賊に襲われることもなかっただろうか。いや、恨みを買ってたのは事実だし、遅いか早いかでいつかは襲われていたな。
下手すりゃ、中型コアで作った駆逐艦クラスの船でフルボッコにされてた可能性すらある。
それにまだ伏せられているが、ゲートに関する進展もあるはずだ。コアと同じ様に販売するのか、何かレイド的に開発するのか。
俺のように個人で開発しろというのは、STGというゲームを考えればないだろうな。
「おお、フレイアちゃんのスクショがあるな」
新曲の衣装だろうか、白いワンピース姿のフレイアちゃんの姿があった。その肩書として『超次元シンデレラ』とついている。各方面、大丈夫かというネーミングだ。というか、フレイアだと5人組にしないと駄目なんじゃないか。
その後ろには先日会ったフレイくんの姿もある。ゲームのアバターとは言え、有名人と会った事があるというのは不思議な感覚だ。
「サイン貰っとけば良かった……」
というかフレイアちゃんとはまともな会話すらできてないもんな。シーナの方が話していた時間は長いだろう。
何とかならんかなぁ。
平日の間は雁のデータを集める事に徹する。太陽光発電で長時間稼働できるようになった探査ポッドで、定点観測を行っていた。やはり一定の範囲を周回しているようだ。
そして時折、次元を渡って別の場所に現れる。
待ち伏せを仕掛けられるかと思っていたが、ルートもバラツキがあって簡単にはいかないだろう。
「どうしよっかな〜」
そんな事を呟きながらも一つ試してみようという案は浮かんできていた。
生産区画の再建も順調に進んでいき、全損状態だった戦闘機達も、徐々に修復していっている。ただV2に関しては、カニ装甲がネタ切れしているので、カニを狩りにいかないと作れない。
部位破壊の概念が分かったので、前よりは簡単に収集できるだろう。
他にもゲートを開発する上で考えていた事もあり、そちらの研究も進めている。まだ明確な手応えはないものの、開発機械で検討できているのできっかけがあれば実現できそうだ。
STGの開発は、AIによって判断されているらしいが、理論さえ構築できれば様々な物が作れるのは実証済み。
今研究しているものが実現できれば、結構な飛躍を遂げられそうだ。
「ゲートの技術が開示されるとしても、個人で研究していたらプラスアルファがあるかもしれないしな」
反面、リーンフォース撃沈に繋がった核兵器はあまり興味がわかない。既存の技術、融合の方でもそれなりに研究が進んでいるので、作ろうと思えば再現は可能だろうが、単純に威力を高めたミサイル止まりになりそうなんだよな。
何と言うか浪漫を感じないのである。
「兵器以外のジャンルを広げられれば楽しいよな」
そういえばフレイアちゃんのワンピースも良い出来だったな。最初のシングルで着ていた軍服もクオリティが高かった。あの辺の衣装を作れる技術が解放されると嬉しいんだがな。
「とりあえずまあ、週末に向けて基礎研究を積み上げていきますかね」
トライアンドエラーを繰り返すのも楽しめるのがSTGの良いところだな。