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『こっち来んじゃねーよ』
「つれないなぁ、仲良くやろうぜ」
多数の熱源探知式ミサイルを引き連れた俺は、海賊の一機へと近づいていく。熱源探知式は、戦闘機の発する熱を目標に追いかけていくので、近くに同じ様な熱量の物体があれば、そちらにターゲットを移す事ができる。
なので海賊船へと近づけていけば、全部は無理でも幾つかはなすりつけられるだろう。
もちろん海賊側もそれを受け取るつもりはないので、俺に向かって攻撃してくる。それをハミングバードの機動力と蜃気楼システムを駆使しながら直撃を回避。するとその弾は後方から迫るミサイルも迎撃してくれるので、今のところ直撃を受けそうな場面はない。
元々ミサイルの機動力ではハミングバードの機動力にはついてこれないので、数が整理できればそこまで怖い訳じゃなかった。
ただ海賊側もそれに気づき始め、俺を相手にする機を減らし、リーンフォースへと向かう数を増やしていく。
「マスター、ヘルプミ〜」
「こっちも一杯一杯だよ」
撃破はされないが、こちらも倒すことはできていない。そうなるとリーンフォースの近くに集まる海賊機は増えていく。
シールドドローンでダメージを軽減しているが、残数がどんどん減っている。順次生産しているが減るペースの方が早いので、限界は近いだろう。
「いよいよ必殺ボタンを使う時が来たのか……」
『待たせました、霧島さんっ』
覚悟を決めそうになったタイミングで、Foods連合のエースチームが到着してくれた。先のレイド以降も海賊狩りに参加して、対人スキルを磨いている彼らは、ここに集まっている海賊連中よりはかなり上になっていた。
そして、その中には赤いファルコンも混ざっている事だろう。
フウカは先のレイドで海賊側としてプレイヤーの妨害を行い、突入チームの何人かを撃破している。普通ならレッドネームとなって、名実共に海賊の仲間入りするはずだったが、撃破された側のプレイヤーの要望により、猶予が与えられている。
限りなく赤に近いオレンジネームで、プレイヤー側を一機でも撃破すれば、即レッドネームとなる状況。それを通常のホワイトカラーに戻すためには、海賊船を撃破してポイントを貯める必要があった。
そのため、レイド以降は海賊狩りとしてFoods連合のエースチームと共に行動しているはずだ。
俺とはレイド以降会ってもいない状況。
俺が忙しかったのもあるが、以前なら関係なく来てただろうし、彼女なりに気まずさがあるのかもしれない。まあFoodsの面々しかり、一緒に遊べる仲間ができたのは良いことだろう。
今回の海賊襲撃はポイントを稼ぐチャンスなので、どんどん倒してホワイトネームを目指して欲しい。
リーンフォースは、海賊の接近が分かってからゲート方向に移動を開始しているが、一番恒星に近い第一惑星の公転軌道にいたので、時間がかかっている。
ゲートからやってくる仲間と合流するまで、なんとか耐えないといけない。コーラルボールへと突っ込んだ時の様な、船体を軽くして速度を上げるといった手法は使えない。
何とか今ある戦力で迎撃していくのだ。
「俺はV2突撃型で出る。シーナはカクタスを収容、ジャマー飛ばして花火を打ち上げてくれ」
「はい、マスター」
COMの射撃では海賊を落とすことは叶わなかった。それなら下手にミサイルを撃ち続けるよりも、防御に徹する事にする。
レーダー障害を起こすジャマーを飛ばして、花火と称されるフレア弾を使っていく。これは熱源となって、赤外線探知を誤認させる囮として作用する。また発光も激しいので、目くらましの要素もあった。
これでこちらからも攻撃しにくくなるが、相手からの攻撃も抑えられる……といいなぁ。
ハミングバードV2の突撃型は、コーラルボール内で使用したハミングバードに、外部兵装を合体させた機体だ。近接戦に備えて拡散型のレールガンをメインに火力を持たせている。
その分、機動力は削がれてしまうので、防御面は弱くなるが、シールドドローンを連れて出られる空母の側なら戦えるだろう。
「と、思ったんだが、中々だなっ」
レールガンを放つが、海賊船にするりと避けられてしまう。元々射撃が下手な上に、レーダーによるロックオンも使えない状況。拡散弾で範囲を多少広げたところで、そう易々と直撃を食らってくれるPK達じゃない。
そして外装を付けたことによる機動力の低下で、相手に近づくのも難しくなっていた。
「やっぱ、試作の突撃型じゃむーりー」
合体を解除してV2で海賊へと迫る。突撃型付きの速度に慣れていた所に、急加速したことで海賊船の一機に肉薄。剣によってダメージを与える事に成功した。一撃必殺とまではいかなかったが、戦闘不能には追い込めた。
しかし、こちらが速くなったとみるや、包囲を大きくして遠距離戦を始めるあたり、海賊達も対人戦に慣れている。V2の機動力とシールドドローンでこちらも落とされる事はないが、相手に近づく事もできない。
至近兵装しかないV2では手も足も出ない状態だ。
あとはエースチームの奮戦に期待するしかないだろう。
膠着状態に陥り、援軍と合流できそうな雰囲気が出てきた時、リーンフォースの船首部分が火球に包まれた。
「何っ!?」
『核の炎を味わえっ』
どうやら核融合か核分裂か分からないが、強力なミサイルが打ち込まれた様だ。ジャマーで相手のレーダーを潰したつもりが、相手の大型ミサイルの接近を許す結果になってしまった。
「被害状況は?」
「生産区画が消滅、貯蔵庫、倉庫に損傷。内容物が流出。待機中のファルコンが大破です」
「ハイドロジェンは無事か」
「はい、後方格納庫にありましたので」
「じゃあ今から戻るから、最後の手段の準備を」
「了解です、マスター……」
空母を守る理由の大半は既に失われた。大型コアが奪われるくらいなら、必殺ボタンを使うのに躊躇いはない。
俺は海賊の攻撃をあえて被弾。撃破されることで空母の格納庫へと戻る。格納庫の前半分がなくなり、宇宙が見える状況に何とも言えない気持ちになるが、仕方ない。守れる力もないのに過剰な財産を持ってしまったという事だろう。
「ハイドロジェンで出たら、後はスイッチを押してくれ」
「ええっ、私が押すんですか?」
「ちょっと自分で沈める勇気がでないわ。それでタイミングを逸して、海賊に奪われるのは避けたい」
「……了解です、マスター」
爆発により近くのドローンも破壊されたのだろう。レーダーには抗戦能力を失ったリーンフォースへと接近してくる海賊が多数。
囲まれきる前にハイドロジェンを発進させる。
格納庫の亀裂というか開口部から飛び出すと、周囲の海賊達から攻撃を受けるが、シールドドローンと持ち前の加速で一気に駆け抜ける。
「よし、いいぞ」
「それでは……」
「うぉっ、コックピットにいたのか」
「だって空母に残ったらアンドロイドアバターが壊れちゃうじゃないですか」
狭いコックピットの中でもぞもぞとタブレットを取り出し、ドクロが描かれたボタンを表示する。
「本当に私が押すんですか?」
「ああ、やってくれ」
「それでは〜ポチッとな」
『お仕置きだべ〜』
タブレットからお約束の声が流れると共に、大型コアに仕組まれたオーバーロード装置が作動。カニのハサミを解析したついでに、次元断層発生装置の試作版を大型コアに付けていた。
元々コアが破壊される時には大きな衝撃が生じるが、それを増幅して次元レベルで影響を与える爆発になっていく。
『な、何した、成金王〜!』
周囲に接近していた海賊連中をまとめて次元の穴へと送り込み、リーンフォースJrは短い稼働を終えるのだった。