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日曜日、俺は早速星系内の探査を行うべく行動を開始した。リーンフォースJrを第一惑星の軌道上に進め、拠点とするとハンマーヘッド部分を強化したハイドロジェンで星系を一周。
途中で探査ポッドを撒きながら情報収集する事にした。
「太陽光パネルで半永久的に探査ポッドが使えるようになるとは……」
「外宇宙探索に向けて、開発競争が加速しているようですね」
移動型ステーションを各連合が運用を開始。建造に必要な工作機械をそれぞれが揃えた事に伴い、開発行動もまた活発に行われる様になっていた。
ステーション内装用工作機械で、各種工作機械が作れることも共有され、レア鉱石によるアップグレードで作れる物の幅が広がる事も広まっている。
新星系の素材をどう使うかの研究も活発に行われ、宇宙コンブでの出汁のとり方などが判明していた……どうやって使うかは知らない。
「さてさて、どんな情報が集まるかな」
なわばりのある他次元生物は、その場所に行けば戦えるが、その中にゲートに関する素材は見当たらない。もちろん、全ての敵の部位破壊素材を集めたわけじゃないので、俺が気づいていないだけの可能性もあるが、今までの経験からその可能性は低いと判断した。
まだ見ぬ敵がいる。
それはモチベーションを上げるには十分な要素だ。
「ん……?」
「星系内に海賊の転移を確認。かなりの数に上ります」
嫌な予感しかしない。
『成金王、ここにいるんだろぉ。分かってんぜぇ。てめえの船は俺達が有効利用してやる。ありがたく思え』
星系の全体チャットを使って、宣戦布告というか目的が大々的に告げられた。
外宇宙探索に向けて、海賊勢は大型コアを手に入れる手段がなく、一歩出遅れている状況だ。海賊王たるBJは、他の海賊と連携することなく孤高を貫いており、そこから奪おうとした連中は返り討ちにあっている。
ダクロンにいる大型生物やグラガンのスカラベも撃破には至っていない。
となると持っている者から奪うのが海賊流。
といって主要連合から奪うというのは海賊達にも敷居は高い。
そこで白羽の矢が立ったのが、個人で移動型ステーションを運用している俺ということか。
俺の行動を監視している奴がいたのかもしれない。
「さて、どうしたものか……」
ハイドロジェンだけなら逃げるのは簡単だが、リーンフォースを連れて逃げるのは無理だ。そして海賊の目的もリーンフォース。置いて逃げるのは敗北を意味する。
となれば打てる手は援軍が来るまで耐えるか……必殺のボタンを使うか。
「こんな事もあろうかと用意しておいた甲斐がありましたね」
「必ず『自分が』殺されるボタンだがな」
海賊に大型コアを奪わせない意味はあるが、工作機械や貯蔵庫の素材、製品諸々含めて自爆なので、使いたくはない。
一応、こういう時のためにステーションの貯蔵庫にもそれなりのストックはあるが、空母を撃沈させる損失は簡単には取り戻せない。
「最期まで徹底的に抗戦するしか無いな。やっぱ船の名前が駄目だったんじゃ……」
しかも今回は特攻をかける敵艦がいるわけではない。相討ちはできないだろう。
「カクタスを甲板に砲台配置。対空レールガンは、狙わずに一定間隔での射撃モードだ」
「了解です、マスター」
「シールドドローンをいつでも打ち出せる様にしておいてくれ」
空母のメリットは、ドローンを使い放題なところだな。数が足りなければ生産してもいい。
俺はハイドロジェンへと乗り込み、海賊の撹乱を試みる事にした。宇宙最速の戦闘機を見せてやろうじゃないか。
「ミレニアムハイドロジェン、出る」
「そのネーミングもどうかと」
「ボロ船になってもほぼ撃墜されることのなかった名機だぞ」
海賊達はリーンフォースの座標を把握しているのだろう。逃げ場が無いように星系の外縁から包囲を狭める形で向かってきている。
包囲一点に対して、最大加速で向かっていく。ハンマーヘッドに施したコア出力の増加により、以前までのハイドロジェンよりも速い。
「衝突するとそれだけで大破だがな……」
そこは以前、フウカが見せた戦法を使用する。レールガンの弾を撃ち出すのではなく、高速で移動しながらばら撒くだけ。しかし、宇宙最速となったハイドロジェンからばら撒かれた質量は、フウカが見せた攻撃よりも速く、威力も上がる。
「むむ、迎撃してるか。ああ、速すぎてセンサーに引っかかってるのか」
あの時の弾は絶妙な速度でセンサーにはかからない状態だった。それより速いと攻撃認定されてレーダーに映ってしまっているようだ。
それでもレールガンを撃つよりも多くの弾を一斉にバラまいた。対処には多少なりと時間を取られるだろう。
「じゃ、次だな」
俺はその一団を捨ておき、他の方へと向かうことにした。
『正面から来るとはいい度胸だ!』
海賊の一団が待ち受ける所へ突っ込みながら、ハイドロジェンを加速していき、一気に突き抜ける。その加速力に海賊達も一瞬遅れる。即応して攻撃してくる奴もいるが、こちらの速度に対応しきれておらず、直撃弾はなかった。
一方の俺も攻撃する余裕なんて無い。敵の攻撃にも機体にも当たらないように、隙間をくぐり抜けていく。
『蜘蛛だと!?』
俺が海賊の一団を通り抜けていった直後に、俺を追いかけてきていた蜘蛛の一団が、海賊へと襲いかかる。
この一団のいる場所へと向かう途中で、蜘蛛の巣を通って振り切らない程度の速度で連れてきたのだ。
モンスタープレイヤーキラー、MPKと呼ばれる行為は、普通にやったらペナルティを受けてもおかしくない行動だが、海賊相手なら許されるだろう。
混乱する海賊を置いて、俺は再び次の一団に向けて加速していく。
「大物はいないようだな」
幾つかの海賊を突っ切って、様子を観察した俺はそう結論づけた。海賊達はPKらしく反応はいいものの、統制は取れておらず、集団で俺を抑える様な動きが見られなかった。
前々回のレイド後に、大量討伐扱いになった同士討ち以降、海賊間の連携が悪くなったというのは本当なんだろう。
「これなら粘れるかな……」
そろそろ海賊の一部隊がリーンフォースと交戦状態に入るだろう。俺は船へと戻ることにした。
「やっぱり攻撃は上手いみたいだなぁ」
「マスター、感心してないで右舷より接近中の一団を対処してください」
リーンフォースは散発的な対空射撃と甲板に配置したカクタスによって、攻撃を繰り返しているが、海賊に打撃らしい打撃は与えられず、一方的に攻撃されている。
カクタスも既に一機落とされて、残りニ機。というか既に何度か落とされて、空母内で修理して戦線に戻す形で運用している。防空戦力としてファルコンを出したとて、何もできずに落とされるだろうからやってない。
空母の装甲は厚いので、簡単に撃沈される事はないが、徐々に増えていく海賊相手にいつまでもつのやら。
「ハミングバード、出るよ」
「お願いします」
ハンマーヘッドを船内に残し、ハミングバード単機で出る。ただハミングバードは乱戦では弱い。攻撃は至近兵装の剣か、中口径の粒子砲一門のみ。
そして防御性能は一撃もらっただけでもヤバい紙装甲。乱戦でどこから狙われているかわからず、流れ弾すら危険な状況ではまともに行動できない。
なので攻撃はあっさり諦め、敵群の中へと突っ込んでいく。こうすれば俺を狙った攻撃が他の海賊に当たる危険が出るので、攻撃を控えてくれるかもしれない。
『同士討ちはもう飽き飽きなんだよ。ミサイルで狙えっ』
しかし、相手も前回の轍は踏みたくないのだろう攻撃を誤射の少ないミサイルに切り替えて来た。
「マルチドローン、ジャマーっ」
そこまでは俺も読めている。ミサイルのロック機能をジャマーで無効化して対処する。しかし、そうなったら今度は赤外線探知に切り替えるだけだろう。さて、どうなるかね……。