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アクティブシールドの役割は言うまでもなく防御。装甲を薄くする事はできない。コアも同サイズの中では大きめの物が積まれていて、機動力はもちろんエネルギーシールドにも配分が必要だ。
武装は絞られていて角に仕込まれた刺突槍のみ。
レア鉱石を使って機動力を底上げし、羽に守られている背中部分をカニ装甲にして、軽量化を図るなども考えられる。
しかし、アクティブシールドはその役割上、撃墜される事が多い。そうなるとレア素材を使った改造では、修理費用が上がるし素材の収集も必要になってくる。
「なるほど……それはちょっと困りますね」
「なのでまずは機体改造ではなく、チューニングで性能の最適化を行う」
「チューニング……ですか」
「部品を付け替えたりではなく、既存のパーツの位置や向きの調整で、自分が動きやすい機体に変えるんだ」
「そんな事ができるんですね」
「まずは機体を動かす際の癖を確認するんで、このエリアを指示どおりに飛んでみてくれ」
突入チームのチューンナップを施す際に確立した方法だ。宙域に設置した障害物を避けながら飛んでもらい、どの方向への回避を行いやすいか、どのタイミングで行動を開始するのかを読み取っていく。
「さすがに反応速度は早いな。ただちょっと操作が雑か」
「役割上、どうしても速く動きたくて、操縦桿を思いっきり倒しちゃうっすね」
タイムアタックをやっていた突入チームは、最短コースをいかに減速せずに通り抜けるかに重点を置く操縦で、予めコースを選定して繊細に操作を行う。その分、やや咄嗟の反応には弱い。といって普通のプレイヤー、例えば俺なんかよりは早いんだけど。
逆にフレイくんやポチョムキムキンなんかは、反射でその方向へとスティックを倒す。早い分、雑で行き過ぎたり途中で進路を修正する事が目立つ。
こういう操作のプレイヤーには、進行方向に垂直に推進装置の噴射口を向けて、大きく横向きに力を掛けられる方が好まれる。
進路変更は早くなるが、繊細な位置調整はできなくなるので、狭い場所を通るなどには向かない。
この辺りの調整は、本体の設計図を修正することで、次回以降の修理で自動的に調整された状態で修復される。
『凄いです、さっきより全然乗りやすくなってます』
「まだアルマジロには追いついてないみたいだがね」
機体が重い分、推力が上がっていても、どうしても動き出しのラグが大きくなっている。その重さは止まる時にも影響を与え、機動力は劣った感覚になってしまう。
「もう少し推進機を増やせば、ロスが減るんだが」
「あれを使ってみたらどうっすかね?」
「あれか。でもポチョムキムキンのアイデアだろ。フレイくんが使ったら一気に広まっちゃうぞ」
「それなら本望っすよ。霧島さんの収益にも繋がるでしょ?」
「まあ、そうなんだけど」
「色々助けてもらってるんで、恩返しさせて欲しいっす」
「分かった、フレイくんに提案してみよう」
試運転から帰ってきたフレイくんに、推進機を増やすためにエネルギー配分の提案を行う事にした。
シールド機の重量やエネルギー消費に影響が大きいのは、エネルギーシールドの発生装置だ。通常の戦闘機よりも大きい分、耐久性に優れている。
アクティブシールドのそれは、シールド機に比べると小型で軽いが、それでも普通の機体よりは重い。
それを軽減するための案をポチョムキムキンが提案してくれていたのだ。
元々は普通のシールド機用のアイデアではあったのだが、マルチドローンに小型のシールド発生装置を積んで、直撃コースに割り込ませる事で威力を軽減。本体側のシールドの負担を軽減するというものだ。
ドローンの方はほぼ使い捨てになるので、多少コストは掛かるが、本体が撃破される事に比べると安く済む。
何より本体の重さを軽減できるので、機動力を上げる事ができる。
「エネルギーも、マルチドローンへ先にチャージしておけば、戦闘中に使える量は確保できるので、推進機を十分に使える」
「なるほど……マルチドローンの操作はどうなってるんですか?」
「基本的には自分の周囲を飛ばしておいて、音声認識で行動パターンを変える。最初は戸惑うだろうけど、すぐに慣れるよ」
ポチョムキムキンが使い方を見せるために飛んでいく。シールド機の腹の下に抱えたコンテナを切り離すと、そこからドローンが飛び出し機体の周囲を飛び始める。
『フロント!』
ポチョムキムキンの声に合わせて、ドローンはシールド機の正面に集まる。
『ライトサイド……ロール』
声に合わせてドローンは位置を変え、動きを変える。
「パターンは幾つか用意してるし、自分で設定もできる。サポートシステムに言えば設定はすぐだよ」
「なるほど、面白そうですね」
「これを上手く使えれば、本体の重さが軽くできるんで、機動力も一気に上がるよ」
フレイくんの機体のシールドをワンランク小型軽量のものに載せ替え、その分推進機を増やした機体に乗ってもらう。
「ありがとうございました。アルマジロより乗りやすくなりましたよ」
「そう言ってもらえると嬉しいよ。マルチドローンは慣れが必要だと思うから使っていってくれ。気に入らない部分があれば、どんどん変えていけるから」
「さすが本職っすね。この反応速度は真似できないっす……」
フレイくんの調整が無事に終わり、ポチョムキムキンは動きについていけなかったのが悔しいようだ。まだまだアクティブ乗りとしては付け焼き刃という事だろう。
「その時はよろしくお願いします。もしかしたら、フレイアがワガママ言ってくるかもしれませんが、突っぱねてくれていいんで」
「フレイアちゃんが顧客になってくれたら、箔がつきそうだから問題ないよ」
そんな軽口を言いながら、フレイとポチョムキムキンを見送った。
「おおっ、流石に加速が違う……レーダーレンジも広くなったな」
フレイくんのチューンナップ中に、ハンマーヘッドの改装も進め、試作調整が仕上がっていた。試しに乗ってみると、コア出力が上がった分、加速性能が良くなっていた。
レーダーのランクも上がったので、より広く、詳細なデータが取れる様になっている。嬉しい誤算としては、イカのミミを解析した事で、他次元の浅い部分まで探査する事ができるようになり、生物を見つけやすくなっていた。
「これならまだ見つけていないっぽい新種も探しやすくなったかもな」
その改良は、探査ポッドの方にも影響を与えていた。これで星系内の探索も捗るはずだ。
その夜、公式からエクスパンションキットの販売が発表された。ダウンロード販売で、2週間ちょっとの様だ。思っていたより早い。
昼にフレイくんがポロリしたから発表したのかと一瞬思ったが、発売までの時間を考えたら元々発表する予定だったのだろう。
フレイアちゃんの新曲も発表されている。というか、今日打ち合わせして2週間で発表なのか。それで練習してレコーディングまでやっちゃうんだろうか。プロって凄いなぁ。
内容としては移動型ステーションの本格導入と、外宇宙探索機能の解放。そして目を引くのは、海外サーバーとの連結だ。
今までは各国それぞれにサーバーを立てる形で運用されていて、それぞれの国によって開発にアレンジが加えられている。
特に差が顕著なのはイベントの運用だろう。
国内では協力して目標を達成するイベントが多いが、海外は対戦に重点を置くイベントが多い。そのため戦術の進歩が早いようだ。
一方の日本はサブカルチャーを含めた開発が顕著だ。アバター衣装の豊富さでは海外の追随を許さず、兵器の開発に関しても様々なアニメの影響からか進歩が早い。
俺が高速振動剣を振るっている一方で、ビームサーベルを再現しようとしている連中もいるし、反物質の研究をしている者もいるようだ。
BJの合体機が知れ渡ってからは、何とか人型を作れないか模索する連中には拍車が掛かっている。
合体、変形、人型は男の浪漫とする連中は少なくない。
そこに海外のクールジャパンが好きな連中が加わった時に、どういった化学変化を遂げるのか。
「うう〜む、俺も遅れをとっている場合ではないな」
「アメリカンジョークも仕入れますか?」
「とりあえず明日は星系内を再探索するから今日は早めに寝るかな」
「フランスの笑いは難しいですよね」
一人別方向へと進もうとしているシーナを置いて、俺はログアウトした。