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「おはようございます、マスター」
「おはよう」
一眠りして目覚めてから家事をこなしてのログイン。
「リーンフォースJrが帰還しております」
「お、戻ってきたのか」
各連合用の大型コア確保に貸し出していた空母が返って来たようだ。ステーションの側に設定された移動型ステーションの停留所に留め置かれているらしい。
「というか結局その名前になったのか……大丈夫か?」
「馬ではなく力ですので」
先のレイドでの特攻シーンが動画で拡散して以降、うちの空母ステーションの名前は勝手にそう呼ばれる状況になっていた。まあ、訂正する気もないわけだが……またどこかで撃沈しそうだな。
「でもこの週末にコアを取りたいって連合も多そうだけどな」
「それについては狙撃隊長からメッセージがあります」
平日の空母の運用を託していた狙撃チームの隊長から貸与への感謝と今回の流れについて説明があった。
どうやら『これ以上、成金王に稼がせるな!』という圧力があったらしい……知らんがな。
まあ、俺としては船が返ってくる方が助かるわ、一週間でかなりの額を稼いだわ、レア鉱石などの素材もたんまり溜まったわ、いいこと尽くめではあるんだけどな。
「ま、これで自由に船が使えるなら文句はないよ。それより解析結果だな」
「そのデータはこちらです」
回収したイカのミミの分析結果が出ていた。やはりイカの表皮には、次元に潜むための細胞が含まれているらしい。
「これでコーティングすれば、次元の狭間に潜む事ができそうだが……ゲートとはちょっと違うな」
イカの能力は、次元移動ではなく、次元潜伏と言うべきもので、ゲート機能を開発するのには向いていないようだ。
潜伏機能を利用して、緊急回避に使用することならできそうだが、エネルギー消費が大きいので、予備バッテリーを積んで使えるのは一回とかになりそうだ。
空母に施せばエネルギー面は心配なさそうだが、全身を覆うほどの素材を集めるにはどれだけの数を倒さねばならないのかわからない。
「イカに関しては保留だな。ただ他の敵にも該当する奴はいないし……」
初期星系にまだ出会っていない敵がいるのだろうか。一通り星系は巡って、詳細探査を行ったはずだ。となるとレア鉱石を掘ろうとして出てくるカニや貝みたいな、条件付きで出る敵か、それとも星系内を移動しているような敵だろうか。
「何にせよ、もう一度探査してみるしかないか」
以前、探査を行った時は、ソードフィッシュの頃だっただろうか。ハンマーヘッドに乗り換えて、レーダー性能が上がった今なら、別の物が見えてくる可能性もある。
あとはこの一週間で溜まったレア鉱石を利用して、性能を上げた探査ポッドを使ってみようか。
「大型の探査機を買うという手もあるな」
主要連合という巨大組織への空母レンタルは、思った以上の資金を稼ぎ出している。そしてレイド以降はさして出費もしていなかったので、大型戦闘機を買える状況となっていた。
ハンマーヘッドには愛着もあって、レイドの最後は活躍させる事もないままに大破させた負い目もある。
「もう一段上の改造をしてみるか」
既存戦闘機のコアを載せ替え、性能を向上させるといった構想だ。
ハミングバードは、小型コアで小型の機体により、高機動を実現しているのでコアの載せ替えは、メリットを消す危惧が大きいが、戦闘には利用しない探査機であれば、出力を上げて装備の性能を上げるという手が取れるだろう。
「マスター、そろそろお昼にしないと皆さんが来てしまいますよ」
「おお、もうそんな時間か。急いで食べてくる」
ハンマーヘッドの改造設計をやり始めたらあっという間に時間が過ぎていた。フレイくん達が来る時間が迫っていたので慌てて昼食を済ませる。
機体の改造はパズル感覚で、コア出力を上げると積める装備のスペックは上がるものの、機体内のスペースをとってしまう。フレームを広げてしまうとハンマーヘッドではなくなってしまうし、そうなると大型機に乗り換えてしまった方が楽でスペックも上がる。
「そういえばフウカが使ってた合体機があったな」
レイドの時に追加ブースター兼コンテナとして使っていた機体。ファルコンを背中に載せる機能だけで、それだけに特化していて戦闘力はなさそうだった。
「3連結にするとどうなる……いや、制御が複雑になって連結ユニットの分、積載量が減るだけ」
連結ユニットではなくハンマーヘッドの腹の下、ハードポイントにブースターを取り付けるか。それで後部の推進部を空けてやれば、大型のレーダーも搭載できる。
「設計図の前でうんうん唸ってるより、一歩離れて見直した方が新しい発想が出るな」
慌てて昼食を終えると、再ログインした。
浮かんだアイデアを忘れないうちに設計図へと反映していると、ポチョムキムキンがやってきた。
「お久しぶりっす」
「急に呼び出して悪いね」
「いえいえ、アクティブシールドで有名なフレイくんと会えるのは楽しみっすよ」
レイドでアクティブシールドを運用して以来、その楽しさを感じているらしい。通常のシールド機は、ダメージコントロールを如何に行うか、エネルギー消費量を管理して長く味方を守るのが役割。
戦場全体を見渡し、どこから攻めてどこを守るかを判断する司令塔的な部分もある。その割にさぼっていると見られがちで、戦果を稼げないのでアタッカーからは軽視される傾向があった。
アクティブシールドは戦場を所狭しと駆け巡り、アタッカーの目前で敵の攻撃を防ぐという目に見える活躍をするので、評価が高くなる。
その土壌を作ったのがフレイアちゃんを献身的に守ってきたフレイくんだろう。
「まあ自分は通常のシールド機の方が好きなんすけどね。ただアクティブシールドに乗るようになって、アタッカー側の動き方も分かりやすくなったっす」
「なるほどね」
全くタイプの異なる機体を扱うことで、視野が広がる事はよくある。特に役割の違うアタッカーとディフェンダーは、両方やってみて気づく部分は多いのだ。
俺もシーナの率いる部隊を守る立場になって気づいた事も多かった。
「すいません、遅れました。急に打ち合わせが入ってしまって……」
「いやいや、気にしなくてもいいよ。平日は学生で、土日に仕事って大変だね」
「いえ、普段は前もってスケジュールが組まれているんですが、エクスパンションキットに合わせて急に新曲が出ることになって……あぁ、今のはオフレコでっ」
おおう、思わぬ所で凄いことを聞けてしまった。エクスパンションキットの発売が決まった上に、フレイアちゃんの新曲があるのか。
慌てて手をブンブン振っているフレイくんの姿も微笑ましい。
「安心してくれ、言いふらす様な事はないよ。なぁ、ポチョムキムキン」
「もちろんっす」
「マスターは話せるような友達はいませんから大丈夫です」
「いやいや、最近はちゃんと増えてきたでしょ!?」
「ありがとうございます」
ほにゃっと安堵の笑みを浮かべるフレイくんは、中性的なアイドル顔なので少し萌えてしまった。俺はノーマルだよ、うん。
「じゃ、じゃあ、早速機体を見ようか」
「はい、お願いします」
フレイくんの乗る機体は、中型戦闘機のライノビートルになっていた。カブトムシ型だ。基本的には外殻の羽根を広げてシールド状に展開して、防御を行う。
そして特徴的な角部分に刺突槍が仕込まれていて、レールガンの弾やミサイルを迎撃する事ができるし、機動力を活かした体当たりで敵を撃破することも可能だ。
「その分、機動力が大事なんですが、中型機になった事で以前のアルマジロに比べると初動が鈍く感じてしまって」
「なるほど」
小型機から中型機に乗り換えると、大抵の人は動きが重いと感じる。その上、シールド機はその特性上、装甲が厚くなるのでより強く傾向が出るのだろう。
これは改造し甲斐がありそうだ。