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週末の間に取れた大型コアは10個となった。それぞれFoods連合やヴァルハラなど大手連合に渡されている。
しかし、それだけでは主要連合にも全く足りておらず、平日も空母を運用したいという話が出てきた。
コアを入手した連合の各ステーションも、それぞれにアレンジを行っていて、すぐに大型他次元生物を狩れるほどの船にはなっていない。
そうなると実績のあるうちの空母に依頼が来るのは仕方ない。とはいえ、平日は働いている身としては、協力するのは難しい。
そこで狙撃チームの面々に空母の権限を移譲して、運用してもらうことにした。
「最初からこうしておけば、俺も週末を自由に過ごせたのか……」
朝から晩まで、ほぼスカラベの相手で週末を過ごした俺は、やりたいことが溜まってしまっている。
「といって平日は学校らしいフレイくんのチューンはやっぱり週末だよなぁ」
空母を貸し出したために、生産区画も使えなくなり、平日はステーションの格納庫に戻って開発する形になってしまった。
色々と遠回りになってないか不安だ。
スカラベの戦利品であるレア鉱石や上級汎用素材を利用した開発を進めていきたい。まずはBJが使っていたマルチドローンか。
遠隔制御ユニットと大差はないが、サポートシステムが直接操縦する戦闘機と違い、簡単な命令をこなす程度となっている。その代わり制御ユニットが小さくて済むため、ミサイルほどの大きさでの運用が可能だ。
「状況によりけりだが、汎用性はあるよな」
マルチドローンの開発は、遠隔制御ユニットの派生なのでそれほど時間を掛けずに完了した。
次に気になっているのは、海賊側も使用しているらしいゲートか。それっぽい開発設定をしてみるが、中々OKが出ないんだよな。開発用工作機械のレベルが足りていないのかもしれない。
「ぶっちゃけ、多次元構造体ってのがそもそもSTGオリジナルの設定だしな。理論自体はフィクションでいいはずなんだが」
次元を渡る技術。コアと呼ばれているエネルギーを放出する多次元構造体は、3次元より高次の階層からエネルギーを供出してくれているらしい。
そしてゲートというのも高次の空間を利用して、3次元空間同士を結びつけ、ショートカットできるシステムだ。
その辺に開発の糸口があると思うんだが、大型コアを研究素材として利用しないとダメか。
「といって大型コアに余剰はないからな」
今は取得できた大型コアは、各連合に配されている。自前の大型コアは空母で、銛を撃つために使っているので、それを外して研究というわけにはいかない。
「もう一個入手するには……BJの基地を攻める? いやいや、俺に備えてそうだし、見つかると絡んできそうだし、避けとくのが無難だな」
コアルームでの『付き合う』ことを賭けたバトルは、自分が勝ったと言い張り、付き合うべきだと迫ってくるBJ。
なぜネカマの癖に俺に構うんだよ……LGBTという奴か。しかし、俺はノーマルだ、絡まないで欲しい。
「大型コアが無いとなれば、他の切り口から探さないといけないが……ステーションの外装はあくまで守りで……ん?」
何かが思考に引っかかる。
そもそも何で外装が多次元構造だと分かったか。それは次元の歪みを利用した攻撃を受けたからだ。
それを使ってきたのはカニ。
序盤にしてはえげつない攻撃をしてくるなぁとは思ったが、攻撃の一つだろうとあまり深くは考えなかった。
しかし、それ以後もその手の攻撃を使ってくる奴は出てこない。まあ、基本的に他次元生物は次元を渡ってくるので、ゲート能力を持っているとは言えるが。
「カニ……カニねぇ」
そもそも初期星系から新星系へのゲートは開かれた訳だから、初期星系にもゲートの技術があったとしても不思議ではない。ステーションの上層部は持っているという事だろう。
ならば初期星系にヒントがある可能性は否定できない、そんな事を検討しながら業務を続けた。
「という事でカニと戦ってみる」
「はい、マスター」
平日の夜のログインだが、今更カニと戦うのにそんなに時間は必要ない。シーナのカクタスにゴブリンを掃除してもらい、出てきたリーダーを高速振動剣で始末。
ハンマーヘッドのレーダーで小惑星をサーチして、レア鉱石を見つける。
「そう言えばカニ装甲も補充しとかないとな」
ハミングバード2機とハンマーヘッドを全損させたために、修復するのにカニ装甲が底をついていた。カニの次元断層を分析しつつ、甲羅を集めていこう。
高速振動剣を小惑星に撃ち込み、レア鉱石まで掘り進む。すると次元震を検知、カニが這い出してくる。
撃破が目的ではないので、粒子砲を撃ち込んでダメージを与えていく。するとブクブクと泡を吹きながら、そのハサミを動かし始めた。
「じょきん」
シーナが擬音を口ずさむのを聞きながら、俺はハミングバードを滑らせて回避。その様子をハンマーヘッドの高性能レーダーで分析していく。
「ハサミから次元の歪が生じてるのは間違いないが、そのエネルギーの流れがどうなってるのか……コアの位置からハサミへのルートを探れるか?」
ハンマーヘッドに対する向きを変えるように、カニを誘導しながら攻撃を誘う。
「ハサミ自体に次元をこじ開ける器官があるのか……?」
攻撃のパターンはそれほど複雑じゃないので、ハサミの動きを見ていれば避けられる。両腕を使ってくる事もあるので、そういう場合は背中側へと移動すれば回避できる。
「まあ、こんなところか。ハサミだけを回収できるかなっと」
高速振動剣を腕の関節を狙って撃ち込み、ハサミ部分を切り離す。カニは残ったハサミでこちらを攻撃しようとしたので、そちらも切り落とした。
「こうなると哀れだよな」
ハサミを失いブクブクと泡を吹くだけのカニは、左右に動いてこちらを牽制するが攻撃手段はない。あまり長引かせるのもと思い、眉間へと剣を撃ち込む。眉は無いけど。
「お、ハサミだけ残ったな」
わざわざ部位を残すような戦闘はしてこなかったが、こうした機能もあるんだな。カニのハサミを回収しつつ、続けてカニを呼び出して倒していく。
部位破壊ができるなら、甲羅を残すようにも戦えそうだと、甲羅を極力傷つけないように戦ってみた。
「やってみるもんだ」
今まではドロップ率が悪くて、かなりの数を倒さなければならなかったが、今日は回収率が5割を越えた。
他の生物も部位を狙って倒せば、新たな素材が採れるかもしれない。これは初期星系も再探査が必要か。
「とりあえずは、カニのハサミの分析からだな」
ステーションへと戻った俺は、早速開発用工作機械にかけて分析を行った。初期星系の素材のためか思ったよりも早く結果が出る。
次元断層のシステムとしては、物質の一部を高次に置いて僅かな変化を与える事で3次元での座標をずらしてダメージを与える。
うん、わからん。
「つまりですねえ〜」
どこからともなくグルグルメガネを取り出したシーナが、タブレットに概念図を表示した。
紙にライトを当てると丸い輪ができる。
そのライトを僅かにブレさせると、紙に映った円は大きく場所を移動する。これは2次元に対して、3次元を動かすと、その変化が大きく2次元に現れるという事らしい。
これを3次元とより高次で行うことで、高次での僅かな変化を3次元に持ってくると、大きな変化となってしまうという事らしい。
地震でズレた断層の様に、高次をブレさせた方とさせてない方でズレが生じる事で、その間に亀裂を走らせるのが次元断層による攻撃らしい。
「分かったような、分からんような」
「要はカニのハサミには、高次に干渉する機構が備わっているという事ですね」
「それでゲートは作れるのか?」
「さあ?」
こてんと首を傾げる様子は、そこからは攻略情報に触れるという意味だろう。
つまりは取っ掛かりとしては間違っていない。あとはどう開発に繋げるかだな。