閑話 7
「なんじゃこりゃあ……」
レイドイベントの終盤、思いがけない展開に目が点になる。また成金王が色々とやらかしてくれているという連絡があって、リアルタイムモニターまで来てみると、丁度レイドボスに大きなクレーターができるところだった。
「成金王がこの前から作ってた個人用ステーションですね。それで突貫をかけたと」
「そりゃ分かるが、よくシミュレートしたな」
「適当っすよ、適当。本来なら破壊不能オブジェクトに当たっておしまいでしたが、ここまでやられてそれだと白けますから、3層までは突っ込ませて止めました」
「おおぅ……」
検証班とかが解析始めたらボロが出そうだが、レイドが終わればボスは消えるし検証する暇はないか。
「ぶっちゃけ、ここまでやられたらお手上げっすね。予想外過ぎて……」
「で、本人は。そのまま撃墜扱いか」
「いえ、小型機に乗って、レイドボス内をコアに向かって進んでます。例の採取用ブレードで壁を切りながらですね」
「むむぅ……」
「そしてコアルームでは、海賊王が突入組とやりあってます」
「海賊王か。今回は変なの持ち込んでないか?」
「ジャマーは使ってますが、攻略組も対処を考えてましたんで大丈夫ですね。タコ墨は使わなかったみたいですし」
前回のレイドをめちゃくちゃにしてくれた海賊王。こっちはクリアしてもらう事を前提に組んでるのに、プレイヤーが一人で潰したってのは緊急会議ものだったからな。
しかし、今回の成金王のステーションも、海賊王が大型コアを集めてなければ実現しなかった事を思えば、結局やらかしたのは海賊王って事になるか。
そもそも大型コアはまだ入手させる気がなかったアイテムだ。ダクロンに潜むコードネーム『深き者共の王』は、現在の星系装備じゃ倒せないはずだった。
視界の利かないダクロンで、次元に潜む王はレーダーにも映らない。見ることのできない奇襲でプレイヤーを撃破する壊れ設定だ。
その上、粒子砲を弾く粘膜に覆われ、爆発にも耐える弾性にとんだ表皮を持ち、ダメージを与えられるのは切断攻撃のみ。至近装備の刺突槍くらいしか攻撃方法はないはずだった。
成金王の高速振動剣も切断ではなく溶解武器なので、王の粘膜には通じない。
そこを海賊王はマルチドローンを使い、撃破されるポイントから王の位置を特定。マルチドローンの間に単分子鋼線を張って切断武器とする事で、王の脚を切断。出現した本体もそのまま断ち切って撃破してしまった。
深き者共の王からドロップしたコアを使って、ダクロンに個人ステーションを作成。罠を張り巡らせて拠点とした時は、色々と追加処理が必要になってプログラマーが泣かされていた。
王のドロップの中には、タコ墨と呼ばれるダクロンをダクロンたらしめている光を遮断する粒子がある。それをぶちまけたら一定時間とはいえ視界を奪うことができる。赤外線センサーも無効化されるので、ジャマーと併用すれば攻撃できない空間が作れてしまう。
「王の姿を見せられれば、SANチェックなしに発狂死させられるのに」
「そんなシステムありませんよ」
「こうギーガー調のデザインで蠢かしたらトラウマ植え付けられないかね」
「そんな事したら訴えられますよ」
などと他愛もない話をしている間に、成金王と海賊王の一騎打ちが始まる。互いに開発王というか発明王だけに、戦い方も普通のプレイヤーとは全く違う。
狭い空間で駆け引きしながら、最後は肉弾戦で刺し違えようかというバトルは、見ごたえがあった。しかし、特殊すぎて他人の参考にならないのは困ったものだ。これが対人戦のデフォになったとしたら、STGじゃなくなるだろう。
「戦闘機でチャンバラなんかするなよなぁ……ロボットの実装はまだ無理か」
「どうしてもポリゴン多くなっちゃいますからねぇ」
「しゅ、主任、こっち、大変な事に」
「ん、どうした?」
成金王と海賊王のバトルの余韻に浸っていると、プランナーの一人がモニターの一つを指差して呼びかけてきた。
そのモニターには何やら長いものが映し出されている。
「何だこれ、槍?」
「ですかね? いや、それよりもその周囲にあるのが……」
説明が終わる前に、槍の周囲にあるレールのようなモノが帯電し、紫電を放ち始める。それはレールガンが発射される時の光に似ていた。
「しかし、これ、デカイな」
「ステーションのカタパルトです」
「カタパルト……確かに、そうだな。でも何で?」
「成金王のステーションからパージされたパーツをかき集めて、即席のレールガンにしてるんですよ」
「ほうほう、アスモデウスが認めたのか。まあ、仕組み自体は大した事ないもんな。単にデカイだけで」
「そんな悠長な事を言ってる場合じゃ……ああっ、発射された!」
モニターの前のプランナーが悲鳴に近い声を出した。リニアカタパルトによって撃ち出された三叉の槍は、まっすぐに加速されてレイドボスへと向かう。
「って、ちょっと待て。アレのサイズは?」
「大型戦闘機並の大きさで、ステーションの外装甲と同じ多次元構造物でできています」
「そして向かう先は?」
「当然、レイドボスですよ。しかも正確な座標が成金王から送信されていましたので、確実にコアを捉えています」
「レイドボスは破壊不能オブジェクトなんじゃないのか?」
「いえ、戦闘機が突入できる様に、そのサイズの穴が開くように設計されています」
さっき、成金王が壁を切りながら進んだ様に、ステーション相手には破壊不能だったが、戦闘機サイズなら突破が可能な設定になっていた。
「つ、つまり」
「このままでは……」
その言葉を聞く前に、モニターに結果が映し出されていた。戦闘機サイズという事で、壁を破壊しながら進むことを許された槍は、そのまま正確な座標を頼りに一直線に飛んでいく。
リニアカタパルト4基で撃ち出されたので速度は十分。その上で圧倒的な強度を誇る多次元構造体で作られた槍。
結果としては、何層にも渡る珊瑚の壁を貫き、コアルームへと達した槍は、そのままコアを貫いてしまった。
それと共にレイドクリアの条件を満たし、ミッション達成が告知された。
「STGの自由度が立証されたと言えるが……」
「これからが大変っすね」
AIであるアスモデウスを利用した開発の自由度がウリの一つではあるのだが、プレイヤーの発想力というのは開発陣の予想を大きく上回ってくる。
「深き者共の王を倒せるのは海賊王くらいだろう? となれば個人ステーションの普及にはまだ時間があるんじゃないか?」
大型コアは今の所、ダクロンの大型タコを倒すことでしか得られない。そして倒せるのは孤高を貫いている海賊王のみ。成金王はイレギュラー的に手に入れたが、プレイヤー全体に行き渡るにはまだまだ時間が掛かるように感じられた。
「いえ、ボスのコア破壊に使われた槍が問題でして」
「まあアレなら王も倒せるかもしれんが、場所の特定ができなければ無理だろう」
「いえいえ、グラガンのスカラベが……」
「あっ」
超耐久で一定ダメージを受けると逃げ出すという仕様のスカラベだが、あのカタパルトの直撃を受ければ逃げるラインを通り越して、撃破される事もありえる。
「拡張キットでの実装予定だった探索モードの前倒しも検討しないとダメかもしれません」
「まだゲート関連の開発は進んでないが、ステーションでの移動を始めたら、外宇宙に出たくなるよなぁ」
星系追加による難易度拡張には限界があるので、予め自由探索が行えるモードというのは検討していた。ランダム生成マップで作られた星系を、自分達で見つけて開発していけるという宇宙開拓モードは、大型アップデートとして追加ディスクを販売して開発費を回収する予定となっている。
しかし、個人では無理でも連合単位で拠点となるステーションを確保しだしたら、今の星系システムでは狭いとなってくるだろう。やれることが限られてくると、プレイヤー離れに繋がっていく。
「こりゃ、国際会議ものだな……」
システム全体に影響を与えるアップデートは、万国共通で進める方針。日本だけ先行導入という訳にはいかない。今後の方針に対して本社に掛け合ってみる必要があるだろう。
「参ったなぁ……」
「そういいながら、主任ニヤついてますよ」
「まあ、今後どうなるかが読めないってのは面白いしな」
三章一通り終わり……。
次、どうするかなぁ……No Man's Skyをやってみるか?