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さてどうしたものか。一部とはいえ他のプレイヤーから恨みを買ってしまった。今のご時世、攻撃できる対象を見つけたらとことん叩くが風潮だ。ネット上で騒がれると一気に炎上してしまう。
熱しやすい分、冷めやすくもあるのだが、冷めるには他の話題ができる事が必要だ。
「シーナが希少性の高いアンドロイドアバターという事で目を引くのは成功したんだがなぁ」
「私の魅力にみんなメロメロです」
「……あながち間違ってないのが怖いところだ」
このまま炎上騒ぎになるんだろうが、こっちから火消ししようとすると、更に炎上するのが世の常。ここは静観するしかないだろう。
「元々ぼっちですし、ロビーが使えなくても関係ないですね」
「それはそうなんだが、AIに言われると腹が立つな」
「またぶつんですか?」
「アレはツッコミであって暴力ではない」
このままシーナと話していると、どんどん時間が過ぎそうだ。自分の用事を進めていこう。
シーナが販売した分の代金で、新たに汎用素材を買い込み、採取してきた素材と合わせて狙っていた物を作る事にした。
「何から作るか悩むところだが……まずは、宇宙船のパーツ用工作機械からだな」
「工作機械?」
「ああ、コイツもステーション内設備の1つだろ」
他のゲームの生産でも、他の生産スキルで使用する工具を作れるものがあった。ならば工作機械の中に、他の工作機械を作れるものがあるのではないかと推測。ステーション外装用、宇宙船用、生産コロニー用ときて、ステーション内設備とあったので、これに狙いを絞っていた。
ただ最初に作製可能なリストにはなかったので、レシピを解禁する為に鉱石のサンプルを集めたのだ。鉱石を集めればレシピが増えるのは、βでの経験で分かっている。
そしてレシピが分かれば、必要な素材の量も分かるのでそれを集めてきた。
「はあ……よく思いつきますね」
「何、データを作ってるのも人間だからな。ちゃんと筋道を整理していけば、どこにどんなデータを仕込んでくるかも分かるだろ」
「普通はそんな風には考えないと思いますけどね。これ、シューティングゲームですよ?」
「俺だってドンパチが嫌いな訳じゃないんだが……でも生産系の方が好きなのは確かだな」
「マスター、やるゲーム間違えてますよ」
AIに呆れられつつ、工作機械を作製し終えた。そこにサンプルの鉱石をスキャンさせて、作れるパーツのレシピを充実させていく。
「とりあえず、猿共に思い知らせてやりたいが……武器の作製は必要素材が多いな」
「武器の多くは多次元化合物が必要となります」
「で、化合物を集めるには敵を倒さなきゃならないと。だったら使えない機械は売却っと」
「せっかく作ったのに、売ってしまうんですか?」
「今は使えないものを後生大事に持ってても仕方ないよ。工作機械はまた作れるしね。そして、工作機械の値段は今、高騰している」
β時代とは違って宇宙船と変わらない値段になっている。だから、自分で作ろうと案を練った。逆に言えば工作機械を売れば、宇宙船が買えてしまう。
しかも中古の流通は、物がダブついていて中古の宇宙船が底値になっているのだ。
「……よくそこまで考えますね」
「物事は1つだけ考えても仕方ないからね。色々と繋がって社会ができているのだよ」
パーツ作製用の工作機械は、すんなりと売却できたので、そのコストで買える宇宙船を見ていく。
小型で扱い易い機体を探して、ハミングバード型というのを選んだ。機動力が高く、急発進、急停止も可能な機体だ。その分、攻撃力は乏しく中口径の粒子砲が一門、対空用の近距離レーザーが一門となっている。
粒子砲は電子や原子を亜光速に加速して発射する兵器で、速度の面では光速であるレーザーに劣るものの、攻撃力では勝っていた。
ハミングバードは性能的に、近距離で戦うインファイター。ゴブリンの住む小惑星帯で戦うには向いている機体のはずだ。
本当なら更に家具を売って、少しでも稼ぎたいところだったが、ほとぼりを冷ますためにも我慢のしどころだ。
ひとまず小惑星帯のゴブリンにリベンジしようと、撃破任務を探すがリストには無かった。自由出撃で遭遇するしかないらしい。
「ま、まだ居るだろうから向かうかね」
「はい、マスター」
第3惑星の輪へと出撃した。
ハミングバードは、和名でハチドリを意味する。鳥なのにホバリングできるその生態に合わせて、鋭角的な機動が可能だ。軽量の為に加速性能が良く、スピードも出しやすい。
ただレーダー性能はソードフィッシュ型と比べるべくもなく、小惑星帯に潜むゴブリンを探すには実際に小惑星帯に入るしかなかった。
「無理にリベンジを狙わなくて良かったか……」
いつ死角から攻撃されるかとビクビクしながら、小惑星帯を飛ばしていく。粒子砲では採掘もできないので、緊張したまま飛び続けるしかなかった。
「レーダーに感、左方の小惑星の影です」
「……!?」
言葉の意味を理解するより早く、とにかく機体を跳ねさせる。宇宙空間での戦闘で、等速に移動する物体は、止まっているのと変わらない。亜光速の粒子砲なら自動照準でも百発百中だ。
戦闘に入れば、極力予測されない動きで飛び回るのが先決。事実、俺が向かったであろうポイントに、ゴブリンの投石攻撃が集中していた。
「自動操縦、ランダム平行移動」
「はい、マスター」
移動はシーナに任せて、俺は射撃手として、ゴブリンを攻撃するのに集中する。
ゴブリンは小惑星を足場に飛び跳ねながら移動を繰り返す。戦闘機のように空中で移動方向を変えるような器用な事はできなかった。
一方のハミングバードは、全方位にスラスターを持ち、姿勢を維持しながら前後左右、自在に移動する事ができた。そのため、俺が見る視界はぐるぐる回ることなく、ガンシューティングの様に狙いを付けていく事ができた。
「ほいっと、命中」
ゴブリンの着地点を予測して、そこに向かって粒子砲を打ち込んでいく。ただゴブリンは1匹見たら10匹はいるというGの系譜。どこからともなく増員されて、次々に攻撃してきた。
「ちょっとずつ後退しながら、囲まれないように移動」
「了解です、マスター」
シーナに指示を出しつつ、増えるゴブリンを駆除していく。粒子砲の弾は、多次元化合物から放出される電子を加速して射出しているので、弾切れになる心配はほとんどない。
ただ電子を加速させる際に熱が篭もるので、あまり連射しすぎるとオーバーヒートを起こすらしい。
なので粒子砲をクールダウンさせる間は、相手との距離を保ちつつ、飛んでくる石を対空レーザーで迎撃。クールダウンが終われば、攻勢に転じる。
フレイアちゃんの戦いを見て、自動操縦による戦闘というのがあるという事を知り、考えてみたパターンの1つだったが、思ったよりも戦える。
まあハミングバードのホバリング機動があってこそだが。
「しかし、このままだと埒が明かないな」
「いえ、そろそろ出てきたようです」
「ん?」
粒子砲のクールダウン時間を迎えたタイミングで、サブディスプレイに新たなゴブリンの情報が表示された。
「ゴブリーダーね」
「ゴブリンリーダーです。アレを倒せば、周辺宙域からゴブリンは撤退します」
「ボス戦って訳か」
そのゴブリンは、両手で大きな石を抱えてやってきた。その姿には見覚えがある。ソードフィッシュのレーダーを壊した奴だ。
「奴か、ソードフィッシュの仇を取ってやる」
一際大きな石がぶん投げられて、開戦となった。
「アイ・ハブ・コントロール」
「ユー・ハブ・コントロール」
俺は自動操縦から手動操作に切り替え、ボスに挑む事にした。ランダム回避は、あくまでランダム。敵の攻撃が増してくると、被弾率があがってしまう。
最初の大きい投石を回避しつつ、距離を詰める。
するとリーダーの傍らにいた数匹のゴブリンが一斉に向かってきて、リーダーは新たな石を抱え始めた。
「多重攻撃……ねっ」
肉薄するゴブリンをハミングバードの機動力で回避しつつ、リーダーが抱えた石へと粒子砲を撃ち込む。手にした石が爆発して、リーダーへと降り注ぎ、生まれた隙に更に懐へと飛び込む。
正面から粒子砲を撃ち込みクリーンヒット。しかし、流石はリーダーか。一撃では倒せず、逆にこちらに飛びかかってきた。
「こなくそっ」
ハミングバードのスライド移動で相手を躱し、対空レーザーで少し削る。更に機体を反転させて、背中を見せるリーダーへと、粒子砲で追撃を加えた。
背後からの一撃に、バランスを崩したリーダーは、小惑星へと不時着。立ち上がる暇を与えず、ニ発、三発と粒子砲を撃ち込むと、リーダーを撃破する事ができた。
「マスター、上から来てます」
「ととっ」
ストップアンドゴーが得意なハミングバード。ピタリと静止させて後退。目の前を空振りながら通り過ぎるゴブリンを粒子砲で撃ち抜いた。
「マスター、普通に上手いですよ」
「褒めてる割に顔が悔しそうなんだが」
チュートリアルの時もそうだったが、シーナは俺がやられるのに期待してないか?
「リーダーの撃破を確認、周囲のゴブリン達も逃げていく様です」
「採掘したいところだが、ブラスターもないし積載物も一杯だな。一旦帰るしかないか」