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「思ったよりは残ったかな……」
Foxtrotのステーション直上の空間に届けられた空母のパーツ類。早めにパージした生産区画や貯蔵庫、倉庫類はほぼ無傷。
銛の射出に使用したカタパルトは無理な力が掛かったのか、レールが曲がってしまった様だ。
全損を覚悟した大型コアも、ポチョムキムキンや狙撃隊、エースチームやその他の対海賊部隊によって守り通されていた。
コアの予備電源兼運搬役として随伴していたマンタや、カクタス、ファルコンの部隊も健在。
コーラルボールに突っ込んだ空母の船体は衝突した船首部分はもちろんのこと、後方部分も力が掛かってねじ曲がり、骨格自体が用をなさない状況。
フウカにやられたハミングバード、BJにやられたV2に、格納庫に固定していたが衝突の衝撃で格納庫内を跳ね回ったハンマーヘッドは、修復するより作り直した方が早い状態だ。
「こうしてみると、マスターが乗ってた船だけがボロボロですね」
「それだと俺が駄目だったみたいじゃないか」
「そして戦績も0勝2敗と……」
「ぐふっ」
だってしょうがないじゃないか。相手はBJにフウカ、戦闘に特化した2人だったんだから……。
コーラルボール内で行われていたフウカへの求愛バトルは、コア破壊に至るまでにフウカの4勝無敗だったらしい。
本来であればレッドネームになるのに十分な戦績だが、やられた側のプレイヤーが正当なバトルだったからと嘆願書を出すらしい。もちろん、俺もフウカには正規プレイヤー側に戻って欲しいので、名を連ねている。
BJは元々真っ赤だけどな。もちろん、嘆願書も出さない。
「まあ、眺めていても仕方ないから修理していきますか」
「ですね」
生産区画に大型コアを接続し、生産ラインを復活。ステーションの外装パーツを作っていく。貯蔵庫に残していた予備装甲も、ほとんどがコーラルボールへの試射で使われてしまっていた。
これを機に改装も考えたが、新たに設計図を起こす気力がなかったのと、ポチョムキムキンを含め搭乗したみんなから、再建を託されたのでそのままの姿に戻すことになっている。
何百回と繰り返してきた装甲板を並べて溶接していく作業。もはや体が覚えたレベルで繰り返していける。
ポチョムキムキン達も手伝うという話もあったが、テンポが乱れそうなのと、何よりこの手の作業が楽しいという事で断っていた。
「どのみち他にもステーションを作ろうって動きはあるだろうしなぁ」
「ですね。そしてステーションを作るとなると、各種工作機械を揃えることになるので、内装用工作機械で他の工作機械が作れるという話も広まりますね」
「そうなるなぁ」
俺が唯一秘匿したいと思っていた情報だが、これからは広まっていくだろう。まあ荒稼ぎできる期間は過ぎているので、これからそれぞれの連合がどんなステーションを作ってくるかの方が楽しみだ。
「あと良かったんですか、私が戦っている所を口止めしなくて」
「遠隔制御ユニットも人によって使い方に幅があるだろうから、俺一人で利用するよりもっといい使い道が開発されるだろ。そうなればシーナももっと戦えるようになるかもしれない」
「ぶー、今回はかなり防衛で戦って戦果も上げてますよ。レベルアップ、アップです」
確かに空母の攻防戦で、シーナの上げた戦果もなかなかのものがあった様だ。密度の濃い戦闘で、AIの経験値が上がったようである。
「マルチドローンも回収、解析されているし遠隔制御系全般が広まっていくだろう」
サイコニュと言う名の音声認識も、普段からサポートシステムに指示を出している人ならすぐに馴染みそうだ。
反面、集団戦をする時に小型機が飛び回ると、邪魔になる事も考えられるので、使える場面は限定されるかもしれない。
となるとぼっち推奨アイテムかもしれないな。
「これでデフシンにもステーションが設置されて、ダクロンには海賊用ステーションがある状態。新たな星系が追加されるのも近いかな」
「どうでしょう?」
しばらくは星系の探索が進み、様々な素材の吟味、加工が進んでいくだろう。
それと同時に連合単位で移動式ステーションの建造が進めば、今までの様な新星系にステーションができる前から、拠点を構えて攻略を進められる様になっていく。
となるとレイドのあり方なども変化していく可能性は高い。
「宇宙大航海時代の幕開けって感じになるか」
「STGは宇宙開拓がテーマのゲームですから」
ゲートを設置して星系を探索する時代から、星系自体を見つけていく時代に変わるのか。そのためにはゲートを利用しないワープ航法みたいなのが必要か。
戦闘機サイズじゃ到底無理な規模の施設も、ステーション機能を持った宇宙船なら可能になってくるかもしれない。
「まさか地球以外の知的生命体と遭遇、宇宙大戦争なんて展開も!?」
「さすがに広げ過ぎじゃないでしょうか」
むむ、現状のシステムじゃそこまでの拡張はできないのかな。日進月歩のコンピュータ業界、技術革新に期待しよう。
「地に足をつけて考えて、俺がやるのは空母の修理とデフシンの開拓、あとはスカラベの撃破かな」
今回コーラルボールを貫いた銛なら、スカラベを相手にしてもかなりのダメージを期待できる。そうなれば、大型コアも確保しやすくなるのではないかと淡い期待を抱いている。
甲板のカタパルトを2基使用して、多少威力は抑えめでも、何発か撃てるように計画を立てていた。
そして愛機ハイドロジェンの修復とV2の合体システムも考えたい。探索メインのハイドロジェンだけだと、大規模戦闘となると火力が足りない。突撃か破壊を加えていく必要があるだろう。
「いっそ、両方を備えたV2アサルトバス……」
「マスター、そのシリーズ好きなんですね。全話視聴したらトラウマになりそうでしたよ」
「AIでもトラウマになるのか……」
いつものように一人で作業をしていても、会話に困ることはない。
「側には優秀な相棒がいるのだから……」
「はいはい」
という事で第3部完結となります。
またしばらく充電期間になるかと思います。掲示板回くらいは追加したいところですが、さてさて。主戦場であるはずの対海賊戦線やらゲート防衛部隊がそっちのけでしたしね……。
フウカの海賊堕ちだけ確定して始めた3章「海賊達の挽歌」は思ったよりはまとまったのかしら。