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俺がコアへと向かっていくと、小魚の一部が俺に向かって殺到する。それを2本の高速振動剣で切り裂きながら押し進んでいく。
『おいおい、ここはフウカくんを賭けて戦うシーンじゃないのか!?』
BJを無視して群れに突入する俺に対して、レールガンを放ちながら言ってくる。ただBJの放った弾は周囲の小魚が盾となり受け止めてくれたので、実害はなかった。
「本人がいないところで賭けの賞品にするのは趣味じゃないからな」
『分かった、本人を呼ぼうじゃないか』
まあフウカが来たとしても相手する訳じゃないけどな。こっちの勝利条件は、レイドのクリアでヤツの狙いは妨害。そこに個人の勝負は含まれておらず、それで得をするのはBJだけだ。
俺は目の前の小魚を切りながら、前を目指すだけだ。それにしても、数が多いな。基本的にはクマノミとか縞模様の入った南国の魚といった感じでカラフルで目を楽しませてくれる印象だ。
しかし、その姿をよく見ると鋭い歯が並んでいて、噛みつかれたらタダでは済まない感がすごい。
体当たりしか攻撃方法がないのが救いだが、それにしたって一歩間違えば、高速振動剣の当て方を間違えれば、食いつかれてあっという間に墜ちてしまうだろう。
ただ目の前の敵を排除し続ける。その作業感は楽しい。対人戦の頭を使う戦闘は向いてないんだよな。
まあVer2のスペック的に遠距離攻撃手段がないんで、対人が圧倒的に不利ってのもあるが。
ちなみに二刀の操作は、人差し指に連動させて振るうマニュアルモードと、ワイパーの様に自動で決められた範囲を動き続けるオートモードがある。
オートモードには幾つかのパターンを仕込んで、音声切り替えできるようにしていた。
『詳しい話は聞いてなかったが、フウカを拐かしたのは貴様の様だな』
突入部隊のリーダーがそんな事を言い始めた。
『拐かすとは人聞きの悪い。傷心の少女を慰めてあげただけだ』
『いかがわしい!』
『そう思うのは、下心があるからじゃないのかね?』
『あっちゃ悪いかよ』
『ふむ、その開き直りは嫌いじゃないぞ』
俺は目の前の小魚の相手で背後を振り返る余裕もない。ただ耳だけで様子を探るしかなかった。というか、フウカ、割と人気だぞ。
『アレだけの技量を競える相手はそういないからな。貴様がフウカを賭けると言うなら、受けて立つ』
『いいね、精々私を楽しませてくれ』
『行け、リーダー、そこだ。捉えられるぞ』
『何だかんだでタイムアタックで結果を残してるんだ、回避はめちゃくちゃ上手い』
『でもBJもさすがだな。紙一重で避けてる』
周りの声を拾うしかできないのでちょっともどかしい。中々の激戦を繰り広げているようだ。
『BJ、アンタは確かにいい腕だが、ゲーマーの反射神経頼りのようだな』
『ふむ、当たらなければどうということもない』
『だが反射を封じる手は、ずっと積み上げられた歴史があるんだぜっ』
『む、どこに……』
『上手い、視界から消える動きだ』
『死角をとった……よしっ』
どうやら大きく戦局が動いたようだ。突入チームから喜びの声が出たところを見ると、直撃弾があったか。普通の星系の粒子砲による戦闘と違い、デフシンでは一撃必殺のレールガンによる勝負。一発当たるとほぼ雌雄を決する事になる。
『残念、それは私の残像だ』
『なっ』
『リーダー!』
『恨むなら蜃気楼システムとやらを開発した誰かさんを恨めよ』
そうか、BJと直接やりあったのはダクロンで、あそこでは使えなかった蜃気楼システム。まだネタバレしてないと思っていたが、フウカがいれば詳細が分かるか。
そしてBJにはヒントがあればそれを形にするだけの開発力はあるだろう。
秘密基地をベースに移動ステーション空母を作ったように、BJも俺の技術を奪っていたようだ。
フレンドリストからリーダーの名前が消える。撃破されてデフシンから強制排除された形だ。機体を修復すれば戻ってこれるだろうが、昨日行ったチューニングはデフォルトに戻る。戻ってきたとしても、今までの活躍は難しいだろう。
『さて、君に求愛する男を排除してしまったが、良かったかね?』
『ん、問題ない。私より強くなければ興味はない』
そのタイミングでフウカがやってきたらしい。それにしてもバッサリである。
フレンドリストを確認すると、エースチームはやられていない様なので、追って到着するだろう。
『それにしても早くないか?』
『大きな穴があって、直通ルートもあった』
ああ、俺が開けた穴を通ってきたのね。そりゃ早い。
『フウカ嬢、君を倒せば付き合ってくれたりするのか?』
『考えなくはない。ただ私より弱い人に興味はない。今の所、なんでやねんとお姉さまだけ』
『タイムアタックじゃ、もう君の記録は越えている。実戦でも勝ってみせよう』
などと突入チームからフウカに挑む奴が現れた。フウカ、モテモテだな。まあ、ゲームにうつつを抜かしている連中だって、女の子に興味がないわけじゃない。趣味は合うわけだし、ゲーム内でも付き合えるとなれば、挑みたくなるのは分からなくもない。
「レイドが終わってから、ゆっくりやればいいんじゃ……」
『フウカ嬢に興味がない成金王には、彼女についてとやかく言われる筋合いはない』
興味がない訳じゃないが、恋愛対象としては幼すぎてレンジ外ってだけで……となると、止める権利はないのか?
いやでもここで突入チームがフウカに足止めされると、攻略がままならないぞ。BJの思う壺じゃないか。
『さあ、やろうか』
『ん』
説得の言葉が思いつかないままに、戦闘が開始された。しかし、突入チームの知るフウカは、デフォルトのファルコンに乗った状態。真紅のファルコンに、サイコニュを操るフウカは、別次元の戦闘力になっている。
もちろん、突入チームもコーラルボール攻略の為にチューニングを施してはいるが、一夜漬け。一人に絞って時間をかけたフウカモデルとは、根本的に次元が違うはずだ。
『まずは一人』
『や、奴は、四天王の中でも最弱。俺が相手となろう』
『ん』
そんな様子で突入チームのコア攻略はきっちりと止められてしまった。ハニートラップとは高度な罠を。
こうなると俺がコアをやるしかない。
「ヒートウィング、パワーチャージ」
予備バッテリーに貯めていたエネルギーを、高速振動剣へと回し、リミッターを解除。その刀身が3倍ほどに伸びて、周囲を一気に切り裂く。
『ほう、光る翼か』
上下に広く奮った剣の軌跡は、翼をはためかせるように見えたかもしれない。
高速振動剣は、ヒートブラスターを刀身から照射して対象を溶断する。その長さを3倍に伸ばすには、出力するエネルギーはもちろん、放射する熱量が上がるため、刀身自体が保たなくなるので、長くは使えない。
一気に距離を稼ぐための非常手段だった。
ただ広い範囲を切払ってスペースを作ったが故に、追いかけてくる奴がいた。
『私達も交際を賭けて勝負しようではないか』
「別に俺は強い奴は求めていない」
そもそもお前は男なんだろう。
『なるほど、つれない態度がよりフウカくんを引きつける効果を生み出している訳だな』
「バトルジャンキー達とはSTGに求めるモノが違うからなっ」
くそっ、オーバーヒートしてしまう。高速振動剣がなくなったら、戦う術がなくなるので、通常状態に戻す。コアには一歩届かなかった。
『マルチドローン』
BJは新たにドローンを撃ちだした。それと共に周囲に小魚が寄ってこなくなる。他次元生物用のジャマーか。
『知っての通り、こいつはエネルギー消費が半端ないから、保って一分。さあ楽しもう』
わずか30mほどの空間。宇宙船にとっては殴り合うような距離だ。しかし、レールガンから守ってくれていた小魚は周囲から追い出され、BJを無視して進むには距離がなさすぎる。
一撃必殺の間合い、仕掛けるしか残されていなかった。
そろそろ書くエネルギーとネタが尽きる……