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「レイド開始まで、5、4、3、2、1……次元震を検知!」
日曜の午後3時、予定通りにレイド戦がスタートする。
「やっぱりポイントはずらしてきたな」
前回のレイドではゲートの正面に出現したコーラルボールだったが、今回は距離はそのままで2時から3時の方向に出現していた。
同じポイントに出現すると、待ち伏せが可能になってしまうからな。開始早々、集中砲火で半壊しましたじゃあ、盛り上がらない。
『ポイント確認。突入チーム、行くぞ!』
レイド用の全体チャットで、突入リーダーの声が響く。それと共に部隊全体が動き始めた。
俺達の役目はゲートに向かう小魚の数を減らす事。囮として引きつけるためにも、ゲートとは違った角度から攻める必要がある。
「コーラルボールに対して、この角度から接近していきます。ゲートに近づくに連れて、こちらも接近していく形になりますので、攻撃よろしくお願いします」
『おう、たっぷり稼がせて貰うぜ』
「機関全速、空母発進!」
「アイアイ……空母の名前がないと締まりませんね」
「考える暇がなかったんだよぉ」
機関の出力を上げても直ぐには加速できないのが空母の弱み。進路変更も容易には行えないので、前もって行動方針を決めていく必要がある。
コーラルボールの速度と進路は分かっているので、基本的には変える必要はないはずだが……やはり、海賊の動向次第にはなる。
「というか、フウカだよなぁ。BJとセットで来ると絶望なんだが」
「ギッタギタのメッタメタのすればいいだけですよ」
「簡単に言うなよなぁ」
ファルコンという制約も今はこだわってないだろうし、そこにBJのカスタマイズが加わるとなれば俺の持っていたアドバンテージはほぼなくなったと見るべきだろう。
こちらの強みは、仲間の多さ。Foods連合のエースチームとの連携が鍵になるはず。
「繋がる心が俺のちか……」
「マスター、マスター。不用意な発言には注意して下さい、あそこの法務部は怖いですから」
「四角い所はそんなに厳しくないと思ったが」
あの会社のゲームで同人誌とかが摘発されたりってのはなかった様に思う。
「あの作品にはねずみの王国が絡んでいるので」
「む、むぅ」
それは世界最強の法務部。権利関係に厳しい会社だな。それを言い出すと星の戦争とかもねずみに取り込まれてたり、色々と生きにくい世の中になってるなぁ。
などと無駄口を叩ける程度には平和だった。
『突入チーム、現着。風穴開けるぜ!』
リーダーの勇ましい声と共に、コーラルボールの一部が光る。
『うおっ、何じゃこりゃ』
『どうした突入チーム!?』
『敵が、多いっ。このままじゃ突入は無理だ!』
突入チームからの緊迫した声が響いた。コーラルボールの中が、敵で一杯で突入できないということらしい。
「あ……開始から間もないから、小魚がまだ中に留まっているって事か」
前回はタイムアタックチームの到着が遅れ、突入までに時間が掛かったので、小魚達もかなり外へと出てきていた。
今回は準備万端で短時間攻略を目指したが故に、コーラルボール内に出撃前の小魚が大量に残っていたようだ。
「こりゃ小魚を早めに引っ張り出すしかないか……予定より接近コースを早めよう。会敵までの予定時間を早めます」
『おう、こっちはいつでもやれるぜ』
コーラルボールへの接近角度は、併走しながら寄せていくつもりだったが、突っ込むような急角度での接近に切り替える。
減速して衝突を回避したら、再加速に時間のかかる空母。追いかけるのは遅くなり、コーラルボールがゲート到着するまでに間に合わなくなるだろうが、まずは小魚を吐き出させる事を優先する。
『左舷、弾幕薄いぞ、何やってんの』
『リロード、リロード』
『バレルがオーバーヒートしちまうっ』
ほどなく他次元生物型に発見されたのか、小魚の一群が向かってきた。ターゲットを奪えたので、減速を掛けながら応戦を開始。
「カクタス部隊、いっきまーすっ」
『シーナちゃんが出撃!?』
『左がだらしないから、そこを頼む』
「アイアイ」
『いや、俺達だってまだまだ戦えるっ』
甲板のカタパルトは使えないので、船内カタパルトから一機ずつの出撃になるが、ミサイル機の参戦は押され気味の左翼をフォロー、五分へと持ち込む事に成功した。
ハミングバードは多数を相手にするのは苦手なので、カクタス部隊を編成しておいたのは正解だったな。
「弾薬の補給や、兵装の交換など、必要な作業はすぐに言ってください」
補給や修理が必要な機体は、格納庫に下げてメンテを行い、再び戦場へと送り出す。修理用工作機械もフル稼働となっている。
『どやさーっ』
ポチョムキムキンも弾ではなく、小魚自体を押し込む事で、戦線に貢献。ダメージが蓄積すれば、船内に戻って修理を行う。
『成金王、加勢に来た。どこをやればいい!?』
「今は劣勢の所はないので、順次小魚をやってもらえれば」
『了解した』
対海賊用の遊撃部隊も参戦してくれて、一気に小魚の数を減らしていく。
そうして派手な戦闘を繰り広げていると、否が応でも目立ってしまう。
「海賊の接近を確認」
「やっぱり来たか。フウカとBJは?」
「見当たりません」
「とりま、対海賊部隊に連絡だな」
援軍に来ていた対海賊部隊に、海賊の襲来を共有。レーダー性能のおかげで詳細データがあるので、それをリンク。空母に近づけない形での戦闘をお願いする。
『霧島さん、フウカ嬢は?』
「まだ見当たりません」
『そうか……いや、ここは海賊に向かうぞ』
『了解!』
エースチームとしては、フウカが現れやすい俺の側を離れたくないだろうが、レイド全体の為に海賊の迎撃へと向かってくれた。
そして援軍がいなくなった事で、空母チームは激戦状態に戻った。小魚の群れは一定間隔でコーラルボールから吐き出され、体当たりにより攻撃してくる。
近づかれる前に撃破できるかが勝負だ。
「ヒートブラスター、照射します」
採掘用の電磁波照射装置だが、対象を十分に熱すれば撃破も可能。ただ動きが速い小魚を捉え続ける事はできず、撃破にはいたらない。
『成金王、群れをまとめる様に誘導してくれ』
「了解したっ」
ブラスターでは直接撃破する事はできないが、熱されるのが嫌で逃げるように移動はする。ならば逃げる方向を誘導して、群れをまとめられれば、レールガンで狙いやすくなる。
俺は円を描くように小魚の行動範囲を制限し、内側へ誘導する形でブラスターを狙っていく。
撃破効率が上がったからか、何とか防衛戦が破綻することはなく耐える事ができていた。
『よし、そろそろ行けそうだ。突入する!』
突入チームからの連絡でほっと一安心。
「コーラルボールから少し距離をとります。まだ継続的に来るとは思うので、引き続き迎撃お願いします」
『お〜う、さすがに疲れたわ〜』
狙撃隊からの声にも疲労感は伺えた。それだけに上げた戦果は大きいはずだ。
逆噴射して減速しながら、周囲の様子をレーダーで監視する。対海賊部隊は、海賊との戦闘に突入していて両軍入り乱れている状態だ。
こうなると広域レーダーでの補助はできそうにない。
ただダメージを受けた機体は、空母で修理できる。2段階にアップグレードしてある修理用工作機械は、作業時間も短く戦線復帰しやすい。もちろん、弾薬の補給もセットだ。
主戦場であるゲート前はフレイアちゃんを中心に、確実に殲滅しているようだ。キーマさんによるフジツボ破壊も並行して進んでいて、大きな混乱は見られない。
こちらが一歩引いたことで、小魚が向かう量は増えるかもしれないが、まだ許容範囲のはず。
まずは第一波を乗り切った手応えはあった。