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キーマさんに紹介してもらった狙撃手達は8人、Foods連合以外にもキーマさん個人のツテで声を掛けた人もいるらしい。
そのおかげもあってかなりの腕前な人が揃っている。
その8人を甲板上にV字型、鶴翼の陣で並べ、互いに射線が重ならない様に、正面中央に火力が集まるように並んでもらう。
更にはフレンドの一人であるポチョムキムキンに声を掛けていた。普段は高出力のエネルギーシールドで味方を守る彼だが、デフシンでは実体弾での戦闘がメイン。
物理的な盾を持ち、遠距離からの攻撃に備えてもらうことにした。物理盾は受け止められる攻撃数に限りがあるが、空母が健在なら交換できる。狙撃手を守る盾として、心強い味方となってくれるだろう。
「じゃあ、後はレイド開始一時間前に集合ということで。まあ、多少ログインが遅れても、格納庫の中にいれば一緒に移動できますけど」
「分かった。また後で」
「霧島さんとのレイド、楽しみにしてるっす」
「さて、俺も飯にしよう」
昼過ぎになって、しっかり目の昼食を摂る。眠くならないように、濃い目のコーヒーを締めに飲み、再ログイン。
すると格納庫では再びシーナによる落語会が行われていた。お世辞ではなく、本当に面白かったんだな……。
それを尻目に俺は自分の用事を済ませる。キーマさんと連携して、開始からの流れをおさらいし、機体の整備状況の確認。弾や装甲の予備部品の在庫管理。残存する資源からどれだけ生産できるかの予測リストの作成。
補給部隊として戦うのも初めてなので、準備はできるだけ行っていた。
「ん、探査ポッドが壊されたか」
デフシンに広く配置しておいた探査ポッドの幾つかが連続して破壊された。直前に時空震を検知していたが、他次元生物というよりも海賊か。
こちらのゲートに対して、恒星を挟んだ向こう側というゲームシステム的に、分かりやすい位置に現れたようだ。
「今回はレイド開始から攻めてくる危険があるな」
未知のレイドでは海賊側も動向が分かるまで襲撃を控えている雰囲気だったが、今回は既にネタの割れた状態。コーラルボールをどうするかは分からないが、海賊達がポイントを稼ぐのはこっちのプレイヤーをいかに撃破するかになってくる。
他次元生物よりもこちらのゲートに向かって来る可能性は高かった。
ひとまずキーマさんにメールを送っておく。
「ま、そっちはフレイアちゃんやキーマさんが居るから簡単には落ちないだろう」
他にも有力連合がゲートを守る配置になっている。後は突入チームと遊撃部隊に分けられていた。基本的には他次元生物を攻撃しつつ、コーラルボールを攻略するのが、レイドの肝になる。
コーラルボールに穴を開ける方法として、前回はキーマさんが撃ち抜いていたが、今回は突入部隊に高速回転弾を渡してあるので、自分達で活路を作れるはずだ。
「どっちかというと、こっちがレイド前に発見されると嫌だなぁ」
空母にはハンマーヘッドと同じ広域探査レーダーをレア鉱石で強化したバージョンが搭載されている。なので先に見つけられるという事はないと思いたいが、ステルス機能が高い船だと気づけない可能性はあるな。
こちらはステルス塗装してあるとはいえ、この巨体だ。最初は違和感程度であっても、精査されればすぐにバレるだろう。
周辺を警戒しつつ発見次第、レールガンで狙撃してもらうかな。俺の腕なら当たらない距離でも、キーマさん推薦の狙撃手なら当ててくれるだろう。
「外縁をたどって回り込むとして……会敵しそうなのはレイド前30分ってところかなぁ」
メモに書いておき、俺は残った作業をこなしていった。
「レーダーに感、海賊船とおもわれます」
レイドまで25分。思ったより遅かったのは、レイドが始まって、こちらが他次元生物とぶつかってから仕掛けるつもりだったからだろうか。
ゲート裏まで回り込み、主力へと襲いかかれば、他次元生物との挟撃の形になるし、唯一の退路であるゲートを抜けるには、海賊達を突破するしかなくなる。
そうなればかなりの被害を受けただろう。
「では、みなさん。やっちゃって下さい」
『こんだけ精度の良い情報があれば、当てないとな』
『タイミング合わせろ……3、2、1、ファイア!』
号令に合わせてレールガンが発射された。着弾までは少し時間が掛かる。
「海賊、攻撃に気づきました。回避行動に入ります」
レールガンの弾は粒子砲より遅いので、レーダーで検知してから回避に移る事ができる。しかし、そこは狙撃に特化した部隊。回避する事を見越して、時差で着弾するように軌道を変えて攻撃を加えていく。
一方の海賊達もPK慣れしたプレイヤーで、その偏差射撃も見越して最小限の動きでやり過ごそうとする。レールガンの射撃戦は、相手の思考の読み合いでもあった。
「小破3、中破1……いえ、小破4ですかね。散開しながら転進、離れていきます」
30ほどの集団にかなり撃ち込んだはずだが、被害としては軽微だったようだ。即応力は高いと見るべきだろう。それに早々に転進を図っている点を見ても、発見されたらどうするというのが、予め決められていたかもしれない。
「敵からの攻撃を確認。レールガンの弾が来ます!」
「ポチョムキムキン!」
「はい、任せてくださいっす」
敵の検知からすぐさま甲板へと向かっていたポチョムキムキンは、攻撃の報と共に飛び立つ。普段とは違う大型盾を持ったアクティブシールド機だが、攻撃に身を晒すという行為にためらいは見られない。
ポチョムキムキンの乗る機体がレールガンの弾に当たる。流線型のシールドは、弾の軌道を変えて空母への直撃弾を反らしてくれた。
「ってか、あの瞬間できっちり反撃、命中弾を撃ち込んでくるとはな……」
『ま、それくらいできなきゃ、PKはやっとれんでしょう』
「では、先程の続きを……」
狙撃チームはそれぞれコックピットに座りながら、シーナの落語を聞いている様である。そろそろ止めた方がいいのだろうか。
こちらが敵を捉えてから5分ほど、逆回りで近づいて来ていた海賊も、発見、撤退させる事に成功していた。
ひとまずレイド開始と同時に挟み撃ちされる状況は回避できただろう。
一応、ゲートの向こうに戦力を確保して、ゲートを背にした海賊達をさらに背後から襲うという案もあったが、それだと主力は小魚と海賊に挟まれた時間ができてしまい、少なくない損傷があると予測された。
なので事前に察知、撃退できた事は大きい。
後はレイド中にどう出るかだが……海賊に気をとられて、レイド攻略が滞っては意味がない。こちら側には、対海賊用遊撃隊も編成されている。Foods連合のエースチームなど、海賊とも戦えるのを期待されたメンバーだ。
彼らを信じるべきだろう。
「えー、おあとがよろしいようで……」
レイド開始まであと5分。シーナの落語も終わったようだ。狙撃チームからは拍手が起こっているから、単純に待ってるよりは時間を潰せたのだろう。
いよいよレイド戦が開始されようとしていた。