104
ハイドロジェンに乗り込んだ俺は、デフシンのゲートで突入チームの到着を待つ。個々でタイムアタックをしてきた面々、その行動は素早く待つほどの時間もなく、10機ほどの戦闘機が揃う。
『真っ赤なハミングバード、成金王だな』
「メンバーは揃ってそうだな。じゃあ少し移動するから、ついてきてくれ」
『説明は後ってか』
俺がフルスロットルで加速すると、それを追いかけ加速してくる。その反応の早さはレーサー並だろう。
しかし、機体性能ではハイドロジェンの右に出る機体はない……はず。加速を続けながら後方のメンバーを確認していく。
多くの機体はホーク型のようだ。中型の汎用戦闘機で、機動性が高めの機体。ファルコンの正統進化といった機体だ。
中型の分、機体は大きく重いが、その分の推力もあるため、ガス惑星でも気流の影響は受けにくく、攻撃力もそれなりにあるので、氷塊を壊しながらタイムを縮める事ができるだろう。
『おい、何かあるぞ』
『ゲートの裏に』
『成金王の秘密兵器……』
「まあ、正確には兵器じゃないけどな」
そう言いながら、俺は空母の甲板へと着艦。惰性で滑りながら、格納庫の入り口へと吸い込まれていく。
「それぞれレーンに降りてくれ。着地すればリニアで格納庫に運ぶ」
『こ、こりゃ空母か』
『何これ、かっけーっ』
『これを秘密にとか……うぉーしゃべりてー』
「レイド後までは我慢してくれ」
できればレイド中も隠しておいて、知り合いだけの補給拠点として使うつもりだったが、フウカが敵に回った以上、全力で相手をしないといけないだろう。
俺は甲板に着艦していく様子を確認しつつ、操作の個性にも目を付けていく。きっちりコースに入るのを重視する者、極力スピードを殺さない事に重点を置く者、あえて無理な角度で侵入してこちらのリニア性能を確認しようとする者、それぞれに一癖ありそうだが、共通するのは機体の性能を把握していて、狙ってコントロールする技術を持っていることだった。
「結構、広いな」
「100mほどあって、格納庫はほぼぶち抜きだからな」
陸上競技トラックの内側ほどのサイズがある空母。その一つのフロア丸々が格納庫として作ってある。貯蔵庫などはもう一つ下のフロアになっている。
「じゃあ、まずはそれぞれの要望を聞いていこうか……」
空母の存在に圧倒されていた面々も、俺の呼びかけに目的を思い出し、目を輝かせながら思いの丈をぶつけてきた。
タイムアタックをやる上で、操作性に直結するのは、エンジン出力と向きを調整するスラスターの推力が大きい。しかし、実際に操作をしていて感じるのは、重心の位置だったりする。
無重力空間でも影響はあるのだが、ガス惑星や要塞衛星では重力が掛かる分、より顕著に影響が出てくる。機体のねじれや出力の伝達ロスが生じて、思った様な加速が得られなかったりするのだ。
速度の限界を突き詰めていく上では、ちょっとしたレスポンスの違いが、結果へとフィードバックされる。
タイムアタックをする連中の上位となれば、操船に関して突き詰めてきた面々。単純に機動力アップのレア鉱石を付けたメインノズルに交換しただけじゃ、満足のいく機体にはならなかった。
機体の捻れを抑えるために、上位素材を使用して剛性を高めると、重量が変わって取り回しの感触が変わる。軽量化を図れる部分を模索したり、逆にオモリを付けてバランスを取ったり。パイロットごとに操作しやすさも変わってくるので、トライ&エラーを重ねていく事になった。
「もうこんな時間が、レイドの会議時間だ」
突入チームのリーダーが時間を確認して、こちらに伝えてきた。しかし、リーダーの機体はバラしている真っ最中で乗って移動はできない。
空母から直接ステーションへと転送できないのは、こういう時不便だな。
「良かったらハイドロジェンに乗っていってください」
「ハイドロジェン?」
「ハミングバードとハンマーヘッドの頭文字を取って、H2だから水素、ハイドロジェンと付けたみたいです。安直でしょう」
シーナが細かく説明する。いいんだよ、名前はひねりすぎるより分かりやすい方が。
「これを借りていいのか……というか、参加しなくていいのかね?」
「ええ、元々主要メンバーでもないですし、色々とやっかまれてる立場なんで、参加しない方が無難です」
「そうか……じゃあ、ありがたく乗らせてもらう」
「多少ぶん回す程度はいいですけど、遊びすぎて会議に遅れたとかは、なしにしてくださいよ」
「お、おう、分かってる」
何やら楽しそうにコックピットに乗り込んだリーダーに釘を刺しておいた。
ハイドロジェンの格納庫がせり上がっていき、甲板へと機体が現れる。その様子は格納庫内からも確認できる。他人が操縦する愛機の様子を見るというのは少し不思議な感覚だ。
「しかし、この空母はいいな。浪漫が溢れる」
「実際に運用しようとすると、まだまだ課題は多いんだけどね」
移動速度やステーションへ接続できない利便性、戦闘性能や防衛システムなどなど。本当の空母として運用するには、心もとない部分が多数残っている。
「というか、あいつ無駄に分離・合体してやがる。あれも浪漫だよな」
「BJのパクリですけどね」
「だとしても、それを作るって発想はなかった」
「ああいう機体があるって思ったもんなぁ」
STGは基本的な部分を遊ぶだけなら、機体を買って飛び回るだけで十分に楽しい。新星系が発見、開発されていく中で、小型機から中型、大型に乗り換える事で、攻撃力や防御力があがり、機体のラインナップが増える事で、自分に合った機体を選べるようになっている。
デフシンとか粒子砲が使えない星系が出たことで、武装を換装する必要はあったがそれも改造というレベルではなく、システム上で操作可能な範囲だ。
自分で開発していくという発想は基本的に必要はなかった。
ただ海賊であるBJが色々とやらかしてくれたおかげで、それに備える必要があり、開発にもスポットが当たり始めた所だ。
特にレーダーを妨害するジャマーで、ミサイルすら使えなくなったのは大きな変化を生むだろう。
「マスター、キーマ様より通信が入っています」
「ああ、繋いでくれ……お疲れ様です」
『お疲れ。もうすぐ会議だが、参加しないのか?』
「はい、レイドに向けてやる事があって」
『デフシンに居るって事は今回はレイドには参加でいいんだな』
「はい、そのつもりです……あと聞いてるかもしれませんが……」
『フウカ嬢の事だな。頭の痛い問題だが、来ると分かっていれば対応もできるだろ。うちの連中はやる気出してるしな』
「すいません」
『いや、俺も様子がおかしいとは思って何もできてなかったからな……とりあえず、会議中は通信をつないでおくから、気づいたことがあれば言ってくれ』
「助かります」
俺はリモートで会議に参加しながら、突入部隊の機体調整も進めていく形だ。以前の会議では、ガヤメンバーだったので、参加というよりは傍聴といった感じだったが、今回は主要メンバーであるキーマさんの近くに居るような感覚だ。
『えー、主なメンバーは揃った様なのでミーティングを開始します』
ちなみに突入部隊のリーダーは、会議の開始には間に合っていなかった……。