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 新たに浮かんできたゲートを作れる可能性。これについて開発用工作機械の前であれでもない、これでもないと試すうちに、2時間は過ぎていった。

 移動中でも考察はできるからな。

 まずは移動だ。


 土曜日の午前5時、週末で夜ふかししていたプレイヤーもさすがに寝静まる時間。早朝からゲームを始める様な人間も少ないだろう。最もログイン人数が少ないであろう時間だ。

 それを待ってからゲートへと空母を進発させる。


「一応、ハイドロジェンで先行偵察をするから、合図を待ってデフシンへ侵入してくれ」

「はい、マスター」


 といって、ステーションからゲートへ進むのにも時間はかかるんだけどな。STGというゲームは、個別のミッションをプレイするのが一般的。

 そのまま宇宙へと飛び出す自由出撃を行うのは、新星系を探索するようなプレイヤーや、採掘などの副業的な作業をする者に限られる。

 ただでさえログイン人数が少ない時間帯、そうしたプレイヤーに遭遇する事なくゲートへとたどり着いた。




「じゃあ行ってくる」


 格納庫から甲板へと機体がせり上がり、リニアカタパルトの起動に合わせて、ランプが点灯していく。機体を固定したロックが、前へ進もうとする力にあらがってミシミシと軋む。


「進路クリア、カタパルトシステムオールグリーン、健闘を祈ります」

「ラジャー、霧島遊矢。ハイドロジェン、出るっ!」


 サブディスプレイに浮かんだロック解除のボタンをタップすると、一気に加速が開始された。軌道上に並んだランプが高速で後方に飛んでいき、それが途切れた時には宇宙へと投げ出される。

 発進シーケンスというのは、何度やっても胸踊る瞬間だ。

 そのままFoxtrotのゲートへと突入、デフシンへと抜ける。

 ハンマーヘッドの広域レーダーを作動させ、周辺の宙域を走査。近隣にプレイヤーはいないことを確認した。


「よし、シーナ。空母を持ってきてくれ」

「はい、マスター」


 やがてシーナの操艦でゲートをくぐって巨体が現れる。改めて外から動く姿を見ると、圧倒されるな。星系ステーションもくぐれる大きさのゲートなので、それから比べるとかなり小さくは見えるが、一般の戦闘機に比べたら遥かに大きい。

 こいつで戦場に乗込めば、周囲を威圧するに十分なインパクトを期待できるだろう。


「ただ実際に戦うと張り子の虎だってすぐにバレちまうけどな。シーナ、そのまま加速して、予定ポイントへ」

「はい、マスター」


 予め伝えておいた場所へと移動していく。俺は空母に帰還はせず、ハイドロジェンで周囲を警戒しておく。空母に内蔵された巨大コアは他次元生物を招き寄せる。発見してから飛び立っても良いが、やはり予め哨戒しておく方が対応は早い。


 程なく予定のポイントへと到着。

 特に他次元生物に襲われることも、他のプレイヤーが接近することもなかった。

 俺たちが目指したポイントは、ゲートの裏側。恒星とは逆方向の星系の外縁部だ。普通のプレイヤーは、恒星方面、惑星などのある方へと向かい、外宇宙へと向かう人はいない。

 ゲーム開始当初は、外宇宙へ向かってひたすら飛び続ける猛者もいたが、丸1週間飛び続けて他の恒星はもとより、他次元生物すら出現しないので一定空間をループで飛ばされているだけじゃないかという結論が出ていた。

 そのため、新星系でも外宇宙を目指す者はほとんどおらず、僅かにチェックの為に目指した者も成果がなかったので新たに外へと向かう人はいなくなっていた。


 となれば、そこはプレイヤーからすると盲点の位置。もし海賊がプレイヤーの目を盗み、集まる必要があればこうしたポイントを狙うのだろうが、どうやら別ゲートを使ってそうだとなると、その危険も下がっていた。

 まあ、逆を言うと何もない空間なので採掘もできず、そこにいるメリットもないわけだが。今回に関してはレイドに参加するためなのでよしだ。


「一応、他次元生物用のジャマーを起動して、俺は寝るわ」

「はい、マスター。おやすみなさい」




 金曜日の晩から明け方までログインしていたので、そこからぐっすりと寝てしまい、起きたのは夕方だった。


「シャワーを浴びるか……」


 寝汗を流し、意識を覚醒させる。日曜日に再びレイド戦が計画されているので、それに合わせた作戦会議が、今日の20時から開催予定。

 前回失敗しているだけに、入念に打ち合わせが行われるだろう。ひとまず俺もそこに参加して、主要メンバーとして参加するキーマさんにエールを送るつもりだ。

 ネットでは前回の失敗した責任を計画を主導したメンバーに求め、賠償請求するとか尖った意見も出ているが、そんなものは応じる必要もない。

 文句を言っている奴らが作戦会議を主導して、きっちりと計画を立てられるというなら、それに乗るのもありかもしれないが、そういう奴らは表にすら出てこないからな。


 それに前回の失敗は、BJのバラまいたレーダージャマーのせいだ。それを考えれば、予め予測して行動できた人間は限られるだろう。BJ本人か、レイド前の時点でBJにやられた人間か。

 やられた人間がいたとしたら、情報を秘匿してたって話になるだろうしな。


 ちなみに成金王がジャマーを使って海賊を狙った説も根強く残っている。証拠もない話でも盛り上がれてしまうのがネット民だな。


 朝昼兼用の夕食を食べながら掲示板をチェックし終えた俺は、再びログインした。




「おかえりなさいませ、マスター」

「ただいま。変わったことは?」

「探査ポッドから情報が届いてます」

「探査ポッド?」


 特に探査ポッドを打ち出した記憶はないので、何の事かわからない。そういえば、ゲートの前にでも置いておく方が色々わかっていいかもなと思ったくらいだ。


「BJの基地に置いてきた物から送信されています」

「あれか。確かに破壊されてはなかったが、燃料が切れてるだろ?」

「はい、なので何者か、BJの可能性が高いですが、チャージして使用していると思われます」

「うう〜ん、電波を介してウイルスを仕組んだりとかありそうだな」

「一応、セキュリティ対策は行っていますが……」

「ベーシックなセキュリティは破られててもおかしくはないしな……万一を考えて、ここじゃなく星系ステーションに戻って受信しよう」

「はい、マスター」


 デフシンに停泊している空母を飛び出し、ゲートを通ってFoxtrotへ戻り、ステーションから情報を取得することにした。

 個人ステーションよりは、セキュリティは高いだろうし、何らかの侵入を受けたとしてもバレて困る情報もない。

 高速振動剣や蜃気楼システムなどの開発データは、工作機械と共に空母側に移してあった。


 オークションのアカウントを乗っ取られるとかを心配しだしたら、継続プレイすら危うくなるのでその辺まではクラックされないと思う。

 海賊側に許されているハッキングもあくまでゲームのシステム上で構築されたものだけで、その他の他人のアカウントを奪ったり、無敵になるチートのようなものに関しては厳しくチェックされているはずだ。


「じゃあ、受信した情報を開いてくれ」

「はい。基本的には、映像データの様です」


 シーナの声と共にパーソナルルームのディスプレイで動画が再生されはじめた。

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