表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
115/200

100

 レア鉱石の埋まった小惑星以外を片付け、周辺がクリアになったところで、空母のヒートブラスターで採掘を行う。輸送機に付いているものよりはるかに強力なそれは、広範囲にわたって小惑星の岩盤を溶融し、成分をキャプチャーレーザーで吸い上げていく。


「このキャプチャーレーザーも不思議な機能だな」

「秘密技術です」

「転送装置もだけど」

「秘密技術です」


 実際、周辺に漂う物体を集めて確保するのは面倒だし、ステーション内を移動したり、納品するのに持ち歩かないといけないとなると大変なのでありがたい。

 アイテムボックスの容量が無制限にあったり、違う場所でも取り出せるというのはゲーム内では必須技術。そこにリアリティがないとツッコむのは野暮というものだろう。


「時空震を検知、カニサンがでます」

「カニサンってえらく可愛い言い方だな……って、3匹出たのかよ!?」

「カニ3っていいましたよ?」


 掘り起こしたレア鉱石が大きかったのか、複数あったのか。時空震を起こしながら次元をこじ開け這い出してきたカニは、こちらの巨体を見て驚いたのか、ブクブクと泡を吹き出した。


「いや、粒子砲を軽減するんだったか」


 カニの泡は粒子砲に対して電子の収束を分散させて威力を弱める。このカニが泡を吹くのは酸欠のせいなどではなく、防御のためなのだ。


「ブラスターを当てたらどうなるんかね?」


 ヒートブラスターは、言わばむき出しの電子レンジ。対象を熱して溶融させる。


「まあ、当て続けないと駄目だから戦闘には向かないんだけど」


 カニはそんなに激しく動かない。

 3匹のうちの1匹に焦点を絞り、電磁波を照射していく。泡を吹きながらカサカサと横向きに逃げようとするカニにブラスターを当てていく。粒子砲と違って、絶えず照射するので多少外れてもすぐに向きを合わせれば、続けて熱することになった。

 やがて照射していた部分が赤く色づいていく。


「茹でカニになったみたいだな……」


 そのまま耐久力を削りきり、カニは爆発して果てる。しかし、残りの2匹は好戦的な態度を崩さず、カサカサと横移動しながら近づいてきて、ハサミを振るった。

 次元震を伴う斬撃がステーションを襲う。

 空間の切れ目というか、他次元からの干渉というか攻撃された箇所が歪に歪み、亀裂を生じる。刃物の切り口とは違って、ネジ切られた様な断面を晒している。

 しかし、それは表層だけに留まっていた。


「ステーションの外装部は、多次元構造物の層があるので、次元震などの衝撃もある程度緩和できます」

「見た目以上に質量があるのはそのせいもあるのか」


 頑丈な外装は宇宙船に使うには向いていない。粒子砲でもレールガンでも容易には貫けない装甲を、宇宙船に使えればシールド艦などの運用も変わってくるのだろうが、何分にも重さの為に実現できないのだ。

 宇宙空間で重さというのは、全ての足かせになる。動き出すにも、止まるにもエネルギー量は多くなり、そちらにエネルギーを奪われれば武装も積めなくなるし、エネルギーシールドなども展開できなくなる。

 堅牢でも鈍重では前線での運用はできない。


 この空母型ステーションにしたって戦場に出すつもりは全くない。堅牢であっても動けないとなれば、一点集中で攻撃され続ければいずれ破られる。

 その上、本来のステーションから見れば装甲は薄いし、エネルギーも乏しい。ろくな反撃もできないまま、宇宙うみの藻屑と消えてしまうだろう。

 多少の対空兵装を付けたとしても、狙いをつける前に死角に入られ、向きを変える間もなく砲台を壊されるのが目に見えている。


「あくまで補給基地として使うしかないよな」


 などと考えている間もカニによる攻撃は続いており、表装の亀裂は数を増していく。いくら汎用素材で作れるとはいえ、一方的にやられ続けるのはいただけない。

 ヒートブラスターを当て続けて、撃破を狙う。

 カニ達も学習したのか、左右に動いてブラスターを外そうとするが、横移動しかできないので予測は簡単な部類。程なく2匹とも仕留める事ができた。


「損傷の確認、外装を取り替えるぞ」

「はい、マスター」


 安全を確保できれば修理も可能だ。どこぞの宇宙戦艦並にきれいに直せてしまうだろう。




 第3惑星の輪から積めるだけの汎用素材を確保し、星系ステーションの上方へと帰還する。やはり移動時間はネックだな。

 出力を上げるにはより強力なコアが必要だろう。BJはどこであのコアを手に入れたのやら。


 ステルス塗料と塗布した船体は、改めて暗幕で隠すことはないか。ただプレイヤーが多い所にいけば、当然に見つかるだろう。ログアウトしている間の安全をどう確保するかだな。

 もちろん、星系ステーションの格納庫には入らないので宇宙空間に漂わせるしかないのだが……。


「BJは上手いこと考えてるよなぁ」


 視界のない星系で、小惑星帯の中だ。レーダーでも小惑星が邪魔で判別できない。しかも星系の中心からは垂直方向に離れているので、滅多な事では人は来ない。その上で罠を張りまくって侵入を拒んでいる。

 俺もBJがくるのを偶々見かけたから位置を特定できたが、普通に探索していたら見つけられなかっただろう。


「人が来ない、見つからない場所か……」


 俺にも一つは心当たりがあるものの、移動中に見つかったら意味はない。移動をするなら人のいない時間。


「明日の早朝だな」

「もう、半ば早朝ですけどね」

「ええ〜、もうこんな時間かよ」

「社壊人、まっしぐらですね」


 午前3時、深夜というには明け方が近いが、早朝と言うにはまだ早い。ゲーマーがうろついている可能性はそれなりにあるな。


「あと2時間くらいは欲しい……けど、寝たら昼まで爆睡しそう」


 という事で、2時間ほど作業してから移動することにした。やることはまだまだあるのだ。


「まずは赤外線探知のミサイル作製だな」


 大質量の空母を移動させるには、全エネルギーを推進に回さないといけないので、生産区画が利用できるのは停泊中のみである。

 なので道中はゆっくりとした進みで時間があっても生産はできないもどかしさはあった。


「もっとコアを積めればいいんだろうけど」

「コアを大きくすると、他次元生物が集まってきますよ」

「そうなんだよなぁ」


 他次元生物が宇宙船を襲うのはコアに惹かれるから。高エネルギーを内包するコアは、他次元生物にとっては極上の餌であり、周囲に甘い匂いを漂わせる蜜らしい。

 ステーションにも巨大なコアが使われているが、そこには蜜の匂いを撹拌するジャマーがあるから。空母にもその機能はあるが、こちらもやはり移動中は使えない。第3惑星からの帰路でも蜘蛛型などが寄ってきていた。


 コアが大きくなれば誘引の匂いも広範囲になり、より多くの他次元生物を引き寄せてしまう。そうなると、俺やシーナだけで対処するのは不可能になってくる。まだ初期星系なら多少増えても大丈夫だが、新星系では危うくなっていくだろう。


「BJが拠点を構える形なのもその辺が理由だろうな」


 移動中は無防備になるリスクはそれだけ大きい。もちろん加減速を行わず、メインノズルの出力を、カットする方法もあるにはあるが、そうなると移動時間は長くなり、目的地に到着するのに何日もかかるというのもあるかもしれない。


「ひとまずは、レイドのあるデフシンに気づかれずに移動する事だな」


 そのためにも早朝のタイミングを外すわけにはいかない。

 そういえば海賊はゲートを通って出現しているわけじゃなさそうだな。いや、ゲートは使っているはずだが、こちらが使用しているゲートとは別の位置にゲートを隠しているのか?

 何らかの移動手段があるのは確かだが、それが海賊の特権的なものなのか、開発できるようなものなのかによって、今後の方針も変わりそうだな。


 今は隠されている情報に、新たに開発できるシステム。突き詰めていくと奥が深い。そこがまたSTGの魅力なんだが、社会人になってハマるには危険が大きい……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ