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「いらっしゃいませ、霧島様」

「またお邪魔するよ……って誰もいないのか」


 ベティに案内されてロビーに入ってみたが、閑散としていた。休日の昼間なのに誰もいないというのは寂しい雰囲気を醸し出している。

 するとキーマさんがやってきた。


「足労いただいて悪いな」

「いえ、ここの雰囲気は好きですよ。今日は誰もいないみたいですが……」

「みんな、ガス惑星に行ってるよ」

「タイムアタックですか?」

「ああ、フウカ嬢に負担をかけすぎたからな」


 レイド戦で現れた要塞衛星。その内部への突入は、ガス惑星でタイムアタックを繰り返していた連中が主軸となって行われた。

 しかし、コアの前で火力不足に陥り失敗。

 それを補うにはより多く、奥深くまで侵入できる腕を持つパイロットを育成する必要がある。そのためにはタイムアタックが一番良いだろうという判断だ。


「みんな、動き出しているんですね」

「レイド失敗で、かなり落ち込んでいたからな」

「フウカがですか?」

「ああ。あれからここにも来ていない」


 レイドの失敗を自分のせいだと思い込んでいるようだ。レイドなんて一人の活躍に左右されるようなものじゃないのにな。自分を英雄と勘違いするような奴でもないと思ったが……。


「ま、時間が解決してくれるのを待つしかないですかね」


 俺はフレンドすら解消されたので、メールを送るくらいしかできない。


「次のレイドは成功させるのが一番の薬になると信じるしかないな。ゲート修復のコア集めも進んでいるし、来週には再び開催されるだろう」

「そうですね。とりあえず、レールガンをどうぞ」

「ああ、悪いな。一度使うと普通のじゃ物足りなくなってしまった。商売が上手いな」

「そんなつもりはなかったんですが、気に入って貰えて何よりです」


 レールガンをやり取りして、その代金を受け取る。素材から作っているので、原価がかかってない分、丸々収入になるのは大きい。


「あ、そうだ。BJのジャミングへの対抗手段はどうですか?」

「ひとまず光学観測をリンクして狙うシステムを拡張している」


 キーマさんは元々光学観測を用いて、レーダーの有効範囲外から狙撃していた。もちろん、簡単な事じゃない。銃口が1mmズレれば、着弾点では何m、何十mの差になってくるので、直撃させるのは至難の技だ。


「ただ動けなくなるのが問題なんだがな」

「動けない?」

「ジャミングされると電波通信もできなくなるので、レーザー通信に頼らざるを得ない。そうなるとどうしても移動に制限がでるんだ」


 光による通信は相手が見えていないと情報を受け取れなくなるらしい。さらには距離まで測ろうとすると、3点測量が必要で、そうなると2機からの通信を受信しないといけないので、動きながらとなるとどうしてもズレて精度が落ち、射撃に適さなくなるらしい。


「でもBJはジャミング中も通信してきましたけど」

「もしかすると、ジャミング中も特定周波数に穴を開けてるのかもしれんが、それを走査して使用というのは難しいだろうな」


 ジャミングをかけた本人が使用する周波数には妨害しないというのは考えられる。それを探し出すこともできなくはないが、その周波数がずっと使えるとも限らない。一定時間で切り替えたり、自分が使う時以外はそこもジャミングしたりと、相手には使わせない方法は思いつく。


「それにミサイルが使えないというのは、大幅な戦力ダウンが避けられないしな」

「それについては、対策があります」


 俺はミサイルの熱源探知モードについて説明した。


「またそういう爆弾を俺に渡す……君自身が発表すれば今の批難も収まるだろう」

「逆ですよ。今、僕が発表したら懐疑的になって普及に時間がかかります。ジャミングしたのもミサイルを売るためだったとか言われそうです」

「そういうものか……そうかもしれないな」

「個人的な繋がりも少ないんで、Foods連合を通じて広めてもらった方が展開も早いかと」

「わかった、こちらで広報してみる」

「あと熱源探知式は弱点も多いんで」

「ああ、その辺は今の兵器と変わらんだろうな」


 熱源探知は対象が発生する赤外線を検知して追尾を行う。しかし、複数の熱源があると誤認したり、強すぎる光は太陽を直視するようなもので、センサーを壊す可能性もある。

 至近で爆発が起きたりすれば、センサーが潰れる可能性があるのだ。

 またエンジンを切って発熱するデコイを撃ち出せば、ミサイルはそちらを追尾する事になる。他次元生物がどれだけの熱量を出しているかもわからないし、障害は様々に考えられた。


「BJは熱源探知のミサイルも準備してたんだろうな」

「ドローンを大量に積んでたと思うんで、数はそれほどなかったとは思いますが……」

「奴の事だ。主要なプレイヤーを潰して回った可能性は高いな。そういう意味では君に助けられた様なものだな」

「行きに見つけた時に止めておけば良かったんですが」

「そりゃ無理だろ。周囲は海賊だらけで、フル装備のBJ相手に探査型の船だと」

「……ですね」


 無双できる腕でもあれば可能かもしれないが、俺は一般的な腕しかない。操船はともかく射撃が下手ではどうしようもなかった。


「今のペースでいけば、来週末にはレイドが行われるだろうし、それまでにこのミサイルは普及させないとな」

「作製自体は簡単で、パーツ作製用工作機械があれば作れます」

「了解した。負けた状況での出費は痛いが、コア集めに撃破任務もこなしているし、海賊もおとなしくなってるから何とかなるだろう」

「はい、お願いします」

「で、君はどうするのかね?」

「次回は参加しますよ。色々と用意しておきます」

「期待しているよ」


 そんなキーマさんに俺は苦笑いを返しつつ、格納庫へと戻った。




 格納庫に戻ると、工作機械のアップグレードが完了していた。BJの基地を構成していたパーツで、不明だった部分も作製可能となっている。


「基礎となるのは外装で、動力源や制御は内装だな」


 スカラベの運んでいた塊から、かさばる上位汎用素材はあまり集めてなかったので、初期星系の素材で作製を進めていく。

 そこまで大きなステーションを作る必要はないので、今の格納庫と同じくらいになるように外装を作る。


 そして動力源になるのは、BJの鳥籠に使われていた小惑星から持ってきた大型コアだ。その時はあまり考えてなかったが、こうなると思わぬ拾い物だった。更に言うならこういうコアを大量に持ってそうなBJは、かなりの資産家だろうと言うことだな。


「制御装置を設置して、そこに様々なパーツをリンクさせて……」


 格納庫の表示パネルに見取り図を表示しながら、足りないパーツを生産しながら組み立てを行っていく。


「このままだと格納庫から出れなくなりますよ?」

「そこは墨俣城方式だな」


 正確には小説にあった方法だが。木下藤吉郎が墨俣に築いた一夜城というのは、実在の証拠はないそうな。色々とエピソードを盛って記録させた秀吉らしい一件だ。

 閑話休題。

 予めパーツを作っておいて、現場で組み上げる2×4工法になるか。ユニット単位で作って、それをマンタで宙域に運んで組み立てていく感じだ。

 組み立て中に目立つのも海賊を招くかもしれないので、Foxtrotのステーション側で組み立てを行う事にする。


 格納庫から発進する際には死角になるステーションの直上方向にスペースを確保して、吸光塗料を塗った布を用意して張り巡らし、光学観測できないようにする。

 その中にパーツを運び込んで作業をする予定だ。


「とりあえず、ステーションに場所の使用許可を申請してくれ」

「うーん、こういう事は例がないのでどうなるかわかりませんよ?」

「申請したという事実があれば、文句を言われるにしても心象が違うかもしれないからな」

「了解です」


 この辺の判断はAIなのか開発なのか分からないけど、こちらからアクションをかければリアクションしなければならないだろうから、反応は早いだろう。


「準備を進めておいて、反応があればそれに従おう。明日になっても反応なければ作業開始かな」


 個人ステーションの建築に向けて、生産計画を立てながらリアクションを待つことにした。

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