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スカラベを相手にカクタスが3機並んで狙いを定める。高速回転弾自体にも誘導性能はあり、スカラベ自体も回避するわけじゃないので、当たりはするのだろうが、狙いを集中させたい。
「シーナのタイミングで撃ち込め」
「はい、マスター。いきます!」
シーナの声と共に撃ち出された高速回転弾は、スカラベの羽の隙間を目指して飛んでいく。高速回転弾は弾頭部分にブラスターが仕込まれていて、それで対象の表面を加熱、溶融させる事で中へと進んでいく。
一応、螺旋状にはなっているがあまり意味はない。
対象を掘り進み、貫通したら爆発する仕組みなのだが、スカラベの筋肉層は厚く、貫通する前にコアのエネルギーを使い果たしてしまう。
「仕方ない、そこで自爆させて次弾発射」
「アイアイ」
高速回転弾の起爆はリモートで行える様にしている。相手を加熱して穴を開けるので、自動起爆にすると誤爆する可能性もあるかなと思ったからだ。
今回は、貫通できなかったので、表層で自爆させる。少しでも穴を広げられればと思ったが、あまり変化があったようには見えない。
「まあ、一発、二発で効果ある程度なら、他の誰かが倒せているか」
一発あたり数%の掘削作業を繰り返すしかなかった。
「これで駄目なら今回は失敗だなっ」
カクタス型に搭載した高速回転弾を撃ち尽くし、ハンマーヘッドに搭載しておいた予備の最後の弾を発射。度重なる攻撃で虫歯の様に掘られた穴はかなりの大きさになっている。そこへと命中し、爆発した時、スカラベに変化があった。
「うぉぉっ」
スカラベが羽を広げて飛び立ったのだ。まあ、宇宙空間なので飛ぶと言うのは違うのかもしれないが……。
何にせよ300mの巨体が羽を広げればさらなる大きさになって、それが一気に動く。
「退避、退避ーっ」
「りょりょりょ、了解ーっ」
慌ててスカラベから距離を取り、襲いかかってきた時の対処を考える。といってまともに攻撃の効かない巨体。倒すなんてのは不可能で、いかに被害を抑えるかって事なんだが。
「カクタスは距離を取れ、俺がハイドロジェンで囮になるっ」
「はい、マスターっ」
カクタスはミサイル機で積載量は多いが、その分機動性に劣る。相手の気を引くのは合体機の役目だ。
いつでも反撃というか、気を引く攻撃をできるように狙いを定めつつ、様子を伺う。
するとスカラベは羽を震わせながら飛び立ち、俺達とは逆の方へと移動していく。助走を付けて向かってくるのかと、警戒しながらその時を待ったが、そのままレーダーの範囲外まで飛び去ってしまった。
ハンマーヘッドの索敵範囲から逃れる距離となれば、再び戻ってくるとは思えない。
「……大丈夫……なのか?」
「みたいですね」
「じゃあ、カクタス呼び戻して」
「了解です、マスター」
俺はスカラベの帰還を警戒しながらも、残された小惑星の塊へと接近する。ハンマーヘッドの探査能力をフルに活用すれば、そこに含まれる鉱石の種類なども確認できた。
「あるある、お宝の山だな」
星系内を巡回しながら丸め込まれた小惑星の塊は、様々なレア鉱石を含んでいる。圧着されたそれらの小惑星に最後の高速回転弾を撃ち込み、内部から分割。破片となった小惑星を高速振動剣で切り裂きながら、レア鉱石を回収していく。
スカラベを撃退した報酬なので、いつものガーディアン的な他次元生物が現れる事はなく、回収は進んでいく。
とはいえ星系の広い範囲の小惑星をまとめた塊。レア鉱石に絞って回収にまわったが、かなりの時間を要してしまった。それらをミサイルを撃ち尽くして空っぽになったカクタスへと積み込んで、ステーションへと帰る頃には正午を過ぎていた。4時間くらい回収にかけてたのか……本来ならかなりのチームで撃退するはずだったのだろう。
とりあえず朝の遅いゲーマー達が集まって来る前にとんずらしないとな。
俺は急いでステーションへと戻った。
「さてお待ちかねの鑑定タイムだ」
ステーションへと戻ってきた俺は、早速開発用工作機械で取ってきた石を鑑定していく。すると聞き慣れた音楽が流れてきた。
「って、そのBGMだと偽物がありそうじゃないか!?」
「注目の鑑定結果はCMの後。驚きの鑑定結果にスタジオ騒然!」
「そんなドキドキいらないから。とりま、メシ食ってくるから、鑑定進めておいてくれ」
「はい、マスター」
どこからともなく虫眼鏡を取り出し、コンコンと石を叩いては「いい仕事してますね〜」とか呟くシーナを残し、俺は一旦ログアウトすることにした。
朝早めに起きてプレイを優先していたので、昼食はまったりしながら食べる。掲示板では俺を犯人にする陰謀論も盛んだが、ミサイルが使えなくなって何もできなかったフレイヤちゃんや、小魚の侵攻を止められなかったキーマさんもこき降ろされている。
いやはや、他人のせいにして自分は何をしていたのかねぇ。
政治家に文句を言って無能と罵りながら、政府の補償にすがろうとしているかのようだ。
気に入らないことがあれば、自分で覆す心意気を見せて欲しいところだ。
レイド反省会みたいな掲示板では攻略の様子が細かく記載されていた。フウカは敵要塞侵入の先陣を切って突入し、コア攻略まであと一歩という所までいったらしい。
最後はコアに突撃して相打ちまで狙ったようだ。
「凄い活躍だな。こりゃあ俺が失敗の原因と聞かされたらキレるかもしれないな」
フウカにはちゃんと説明しないとな。そもそも気乗りしないからとレイドに参加しなかったのが原因なのかもしれん。
その辺をちゃんと説明してれば良かったかな。
俺なりに反省をしながらログインしなおした。
「オープンザプライス……1、10、100……」
「まだやってたんかーい」
「ナイスツッコミです、マスター」
サムズアップしてくるシーナ。まったりして油断してしまった。俺の本性はツッコミ気質なのだろうか……。サポートシステムはプレイヤーを分析して、より楽しんで貰えるように工夫する。その結果が今のシーナとなると……いや、深く考えたら負けな気がする。
「売るつもりはないんだが……思ったより伸びてるな」
「レア鉱石の取引額が上がってますから」
レア鉱石によって攻撃力が上がることが広まったおかげで、その他の鉱石の価値も引き上げられている。工作機械のアップグレード方法も確立されているので、俺と同じ生産力を持つプレイヤーも多くなっているかもしれない。
「一歩先にいかないとな……まずはBJに追いつくところからだ」
スカラベの小惑星から手に入れたアップグレード用鉱石を使い、開発用、ステーション用の工作機械をアップグレードしていく。
それにも少し時間がかかるので、先にキーマさんに納入するレールガンを作製した。一度開発したものはパーツ作製用の工作機械で作れる。赤色のレア鉱石と上位汎用素材で、連射性能も引き上げたレールガンは作製された。
「キーマ様より通信が入っております」
「グッドタイミングだな、もしもし」
『霧島くん、無事なようで何より』
「無事も何も危険はありませんからね」
『まぁ、プレイヤーが攻撃できるのは口先だけだからな。とはいえ、海賊には狙われるぞ』
「そっちも元々の仕様ですしね。自由出撃で他のプレイヤーと遭遇するなんてマレですし」
『そういえば、撃破任務はやらないんだったか。とりあえず、前回のレイドについて少し話せるかな?』
「ええ、こちらもレールガンができたので、納品に行きます」
『助かる。ではまた後で』
通信を終えた俺は、Foods連合のロビーへと向かった。