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第3惑星の輪を形成する小惑星帯で、ゴブリンと遭遇しないように逃げて、一旦開拓ステーションへと戻る事にした。
覚悟はしていたが、やはり偵察艇では積載量が少ない。中途半端な採取になるくらいなら、快速を活かしてこまめに戻る方が効率が上がりそうだ。
その後は特に問題なくステーションへと帰還。
採掘任務の報告を行う。希少金属であるレーザーの発振用水晶や、高感度アンテナに使用する高伝達物質など、量は取れなくても価値のある鉱石を納品していく。
「む、何とか届くか?」
そうやって任務を達成して報酬を得ると、先の星系探査で得た報酬と合わせて、工作機械を1つは買えそうなほどにコストが溜まっていた。
「しかし、βと違って細分化されてるからな、買うものを考えないと、その後の収入に繋がらないぞ」
製品版では作製するものによって別の機械が必要になっている。
ステーションの外装用だと、ステーションの外壁や船外活動機器など、ステーションが活動する上で必要な品々を作ることができる。使う素材は汎用素材と呼ばれるもので、近くの小惑星でも簡単に採取でき、作ったものはステーションが買い取ってくれる。安定した収入を得られるだろう。
宇宙船用は、俺達の使う宇宙船に関するパーツを作製したり、組み立てたりできる工作機械だ。自身の機体をパワーアップしたり、ジャンクパーツを買い集めて新たな宇宙船を作ったりできる。
ただこの機械は更に細分化されていて、修理や組み立てを行う機器と、パーツを作製する機器、新たなパーツを開発する機器が分かれていた。
いくらパーツを作れても、機体に組み込めないと、別途費用が掛かってしまう仕組みにされていた。
これは俺がβ最終日に、ジャンクパーツを買いあさり、宇宙船を幾つも組み上げ、売りさばいた事でコストを稼いでしまったので、運営側が対応した結果らしい……。
「まあ、その事実を知るのは運営と俺だけ。面倒な手間が増えたと、他のプレイヤーに恨まれる事はない……はず」
本来なら自分なりのカスタマイズで愛機をパワーアップさせていけるシステムだったのだろうか。ま、まあ、機能が細分化された事でより楽しめる範囲が増えたとも言える。
「後は生産コロニー用とステーション内設備用か」
生産コロニー用は、生命居住可能領域に設置されている生産コロニーで使用される機器の作製ができるようだ。これには耕運機や脱穀機などの農業や畜産などで使う機器が作れる。
これらを多数納品する事で、生産コロニーが活性化して開拓度に貢献できるらしい。
ステーション内設備用は、パーソナルルームをカスタマイズできる家具や、交流ロビーのベンチやショップなど、ステーション内での活動をサポートする物を作る事ができた。
「この中から作れる物を選ぶとすると……」
「やはり宇宙船に関わるものが今後の活動を有利にするかと思いますが」
船体の性能を上げて、戦闘力を上げるのが稼ぐための最短ルート。STGがシューティングゲームである以上、運営としてもそこに焦点を当てている。
しかし、他人の敷いたレールを走るのは性に合わない。独自のルートを開拓してこそのゲーマーだ。
工作機械で作製できる例のリストを眺めていた俺は、1つの機械を選んだ。
「せっかくだから俺はこの赤の扉を選ぶぜ」
「マスター、これは赤色でも扉でもありませんが、何を言っているんでしょうか?」
「ちょっ、おまっ、チュートリアルの時は……いや、あれは乗ったんじゃなくて本当の事を言ってただけだっけか」
「?」
真顔で首を傾げられる。くそ、美人は何しても可愛いな……AI偏愛者を受け入れていれば……いや、よそう、過ぎた事だ。
「適当にぐぐったら出てくるだろ。とりあえず、俺が選ぶのはこのステーション内設備の工作機械だ」
そう言いながら購入を確定。程なく格納庫へと納品されるはずだ。その間に俺は、任務で採掘した残りの希少金属を売却して、工作機械で使うための汎用素材を購入していく。
汎用素材は鉄っぽい何かで、それなりの強度はあるがそこそこ重く、宇宙船には向かない素材ということになっている。家具を作るくらいはできるだろう。
それとクッション部分になる化学繊維も一緒に購入。やはり希少金属に比べるとこれらの素材は安く手に入る。作る物はそんなに大きくないので、数もそれなりに作れるはずだ。
「機械と荷物が届いたら、椅子や机なんかを作っていくぞ」
「はぁ、でもそれらはそんなに高くは売れませんよ」
「それは分かってる。数売ったところで、宇宙船とは比べるべくもないだろうな」
俺の考えを理解できていないシーナは、首をひねるばかりだ。
「とりあえず、工作機械の操作は任せた。俺はもうひとっ飛びして稼いでくるから」
「はい、マスター」
幾つかの任務を受け直し、再び宇宙へと飛び出した俺は、偵察艇の足を活かして星系内を飛び回る。採掘任務で得られる採掘場所の情報と、実際に飛んで調べる情報とで、どこで何が採れるのかというリストを作成していく。
そうしながら、任務用の鉱石と、サンプル用の石を集めていった。
「ただいまー」
「おかえりなさいませ、マスター」
格納庫に戻ると、工作機械の側にシーナが立っていた。丁度作業をしていたようだ。出来上がっているのも何点かある。
「順調?」
「機械を操作するだけなので、問題ありません」
味気ない返答をするシーナは置いておいて、出来上がっている家具を見ていく。パーソナルルームの家具は、飾り気のないSFらしいものなので、せっかく作るのだからと、木目をデザインしたシックな家具を指示していた。汎用素材は鉄の様で鉄ではない素材なので、金属の冷たい感じよりは、プラスチックに近い手触りとなっている。
「悪くないね。SFっぽい家具の方が世界観には合ってるだろうけど、プレイヤーの中にはこっちの方がいいって人はいるだろう」
続けて俺は工作機械のメニューを開き、作製可能リストを表示。その中から屋台を選んだ。
交流ロビーの公園内でバザーを開くことができるようになるアイテムだ。パイプを組み合わせてビニールっぽい屋根を付けた運動会などで見かけるテントと、横長の平机のセット。
簡素なモノなので、さほど時間が掛からず出来上がった。
「それじゃ行きますか」
成金王騒動から行くのを避けていたステーションの中央にある交流ロビー。木々が生い茂り、芝生が生えた公園のようになっている。
その真ん中にはライブステージが設置されていて、今はフレイアちゃんのPVが流されている状態だ。プレイヤーが借りる事もできるらしい。
その周囲は簡易店舗を開いてバザーができるスペースとなっているが、まだサービス開始から1日でバザーを開いているプレイヤーはいなかった。
「ま、テントを買ってまで売りたいものもないだろうしね」
「ここで家具を売るんですか?」
「中古流通に乗せる事もできるけど、やっぱり現物を並べての販売には意味があるものだよ」
そう言いながらバザースペースの一角に、先程作ったテントを開き、木目調の椅子を5脚並べた。
「実際に座ってもらって、備え付けのスツールとの違いを感じてもらえるからね」
「はぁ」
AIであるシーナにはこの辺のキビはわからないか。
「それじゃ、販売は任せるからね」
「私が店番するんですか?」
「もちろん。しっかり売ってね」
「自動販売の設定でよろしいのでは?」
「せっかくの美人を接客に使わないともったいないじゃないか。ほら、お客がこっちを見てるよ」
むむむと眉を寄せるシーナに店番を任せて、俺は格納庫に戻る事にした。しかし、笑顔は苦手なくせに、負の感情を出すのは上手いんだな……。
格納庫に戻って工作機械へと向き合う。工作機械で作れる物は、素材の情報を入れる事で広がっていくはずだ。βの時も、採取した鉱石やジャンクパーツをスキャニングさせる事で、レパートリーが増えていった。その辺の仕様は変わっていない。
俺はさっき採取してきたサンプルの鉱石を次々に機械へとスキャニングさせていく。
そして一気に増えたリストに目当ての物を見つけた。
「狙い通り!」