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正直、一週間のハードワークで睡魔も襲いかかって来てはいるのだが、楽しみにしていたのも事実。
早速、BJの小惑星基地に撃ち込んだ探査ポッドから送られてきた情報を確認していく。
「やっぱり基地の中は真っ暗って訳じゃないんだな」
ダクロンの特性は、密閉空間では発揮されないようで、探査ポッドからは格納庫の様子が映像として送られてきていた。
まあ遮断された領域にまで浸潤してくるようだと、宇宙船のコックピットも真っ黒になって何もできなくなるしな。
あの宙域にある粒子か何かが光を吸収しているという認識で問題ないだろう。
「で、これが内部構造か」
3Dスキャンされた見取り図がディスプレイされる。格納庫の広さは俺がステーションで拡張したものに比べると狭いか。それでも初期の格納庫よりは広い。
ただ階層もあり他にも小部屋があるようなので、実際の格納スペースは分からなかった。
「工作機械もないから、純粋に格納庫って事なんだろう」
そうした基地を分析していくと、やはりステーション外装用の工作機械で作れるパーツで構成されているのが分かる。
しかし、一部分析できないパーツがあるので、今の俺では作れない部品が使われているようだ。
「やはり新星系にもアップグレード用の鉱石があるんだな」
いち早く新星系に拠点を構えたBJは俺よりもかなり先を行っている気がする。基地を作るには、もう1段階工作機械のアップグレードを進めないと駄目なのだろう。新星系の探索を進めていかねばなるまい。
「となると新星系の状況だが……デフシンはどうなってる?」
「現在、ゲートを修復中。渡航不能となっています」
「ですよね〜」
先のレイドで失敗したペナルティとして、現在デフシンは封鎖されている。ゲートの修復のために改めてコアが集められているところだ。
となると、アップグレード用の鉱石を探すとなると、グラガンでスカラベの運ぶ小惑星を狙うか、ダクロンで鉱石を採取していくかになってくる。
「今、海賊の宙域に行くのは無謀だろうな。かなり恨みを買ってそうだし」
「バーゲンセール中ですね」
「安売りはしてないつもりなんだが……とりま、次はグラガンでスカラベを狙う。高速回転弾をカクタス型のために用意して搭載できるようにしておいてくれ」
「了解しました」
「という事で、今日は寝る」
「出撃しないんですか?」
「今週は疲れたんだよ……」
「キツネ憑きですか」
「もうそれでいいよ」
シーナのボケもスルーして、俺はそのまま寝ることにした。
翌朝、早めに目覚めた俺はシャワーを浴びて朝食を食べてからログインする。
「おふぁようごふぁいます、ふぁふふぁー」
歯ブラシを咥えたまま挨拶してくるシーナ。バリエーションが増えていくな。まあ、不要な処理ではあるし、従者としてあるまじき対応だが、人間味は増していく。
「カクタスの準備はどうだ?」
「ガラガラガラ……ごくん。できてます」
「飲むのかよ!?」
「ナイスツッコミ、ありがとうございます。今日も頑張れます」
「……まあ、いいや」
人間味が増してるのかどうか疑問になってくるが、本人がやる気があるなら皆まで言うまい。
「じゃあ、早速グラガンへ出発だな」
「あらほらさっさー」
「……それは失敗フラグになりそうな掛け声だな」
格納庫に降り立つと、見慣れないサボテンの鉢植えが3つ並んでいる。カクタス型ミサイル機だ。球体に円柱を組み合わせた機体は、転がしたサボテンの鉢植えそっくりだ。細く伸びた発射管が針を思わせる。
「流石に大きいな」
「中型機の中でもミサイル機は大きいですから」
それだけミサイルを搭載しているという事だから頼もしい限りだ。
俺は合体機に乗り込み、先陣を切って発進する。
「合体機の名前、ハイドロジェンにしようかと思うんだが、どうだろう?」
「軽い名前ですね」
「ハミングバードもハンマーヘッドも軽い部類だからな」
「引火すると爆発しそうです」
「紙装甲だからな」
「いいんじゃないですか。頭文字を取ったということでしょう?」
「あまりひねり過ぎてもなと」
「では、ハイドロジェン発進!」
「それ、俺のセリフっ」
シーナの声とともにカタパルトが起動、宇宙へと撃ち出される。と、何か煌めくものを感じて、慌てて操縦桿を引き倒す。
すると進路の先を粒子砲の光が通り過ぎていった。
「海賊の待ち伏せ!?」
「待っていた、なんでやねん!」
「フウカ!? 冗談にしても悪質じゃないか、直撃コースだったぞ」
「皆の無念を晴らす!」
いつになく殺る気の声で告げると、2発、3発と粒子砲が飛んでくる。
「おい、どうした。何で俺を……」
「レイドを失敗させた。許されない」
「まさか、あんなデマを信じてるのか!?」
「言い訳はいらない。あんな姑息な真似をするのは、なんでやねんくらい」
「ちょっ、俺を攻撃したら海賊堕ちするぞ」
「皆のため、我慢する」
フウカの本気の攻撃が、シールドをかすめていく。何やら思いつめた様子で聞く耳を持たないようだ。
「くそっ、やるしかないのか。シーナ、ハンマーヘッドはカクタス3機で守っててくれ」
「了解です、マスター。ギタギタのメタメタにしてやってください」
「今回に関しては、俺もやる気でいくよ」
ハンマーヘッドから分離して、ハミングバードでフウカの乗るファルコンへと加速した。
フウカの射撃は正確だ。しかも行動を予測して、先置きして命中コースに撃ってくる。フウカの予測を上回る機動を行わないと簡単に当てられ、紙装甲のハミングバードは撃沈されてしまうだろう。
前回使った蜃気楼システムは通用しないかもしれないが、それでも軸をずらすために輪郭をぼやけさせるために使用。自分の残像として出したり、逆に先行させたり。さらには関係ない所に出現させたりして、相手を撹乱する。
「そんなの、通用、しないっ」
確かにフウカの射撃は本体を狙って撃ってきているが、気にしないというのも無理だろう。集中力を奪うのが目的なので、即効性がなくても継続する。
そして戦ってみて感じるのは、自分の進歩だ。ガス惑星でのタイムアタックで、氷塊をかいくぐりながら速度を目指した分の技量が上乗せされている。
フウカも回避行動を取りながら攻撃してきているが、視線を切ることなく視界に捉えたまま行動できていた。
「時が……見える」
「余裕ですね、マスター」
「そんなわきゃあ、ないっ」
と言いながらも前回よりは状況に合わせて行動できている。前回はあくまでこちらの用意した罠に誘い込む様に相手を制御する方向での対処だったが、今回は相手に合わせてついていけている実感があった。
レア鉱石を使用して機動力を拡張した成果が、より反応をクイックにしているのも大きい。回避が間に合うタイミングが増えている事で、より状況判断に余裕を持つことができている。
紙一重なのは間違いないが、それでも一歩深く入れている感覚。朝一で意識が冴えているのかもしれない。
逆にフウカの方はやや鈍い感触がある。結構、一緒に戦ったり、Foodsでやってるのを見てきた感覚からすると、反応に遅れを感じた。
「もしかして、完徹で待ち伏せしていたのか?」
こちらを油断させるためにわざと鈍さを見せているという可能性もゼロではないが、限りなく少なそうな印象を受けた。
「なら付け入る隙はあるなっ」
蜃気楼システムで視野内を白くフラッシュさせる。フラッシュといっても、てんかん防止の観点から強烈な明滅はできないので、一瞬視界を遮る程度だ。それでも見失わないようにするには集中力が必要、疲労している状況では面倒なはず。
「このっ、このっ」
フウカにしては珍しく感情が伝わってくる声。スピーカーがオンになっているのも忘れているようだ。
「これはマジでいけそうだな」
俺は距離を詰めにかかった。