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ログイン……できませんでした。
やりたいことがいっぱいあるのに、こういう時に限って仕事も忙しくなるものだ。家に帰ってもログインする気力は出ずにそのままバタンキューとなる(死語)
昼休みに公式サイトで賞金王ランキングを確認して、週間トップを守れた事は確認した。というか、このままいけば月間トップさえ視野に入ってきそうだ。
ただ週間トップや月間トップで得られる賞金はさほど多くはない。それよりも海賊を撃破した事による賞金が大きかった。
俺が撃ち込んだ大型ミサイルに端を発した海賊達の混乱は、ここぞとばかりに大物討ちを狙う野心家を産み出したらしく、撃破履歴のない大物も何隻か沈められたらしい。
そのために一気に賞金が貰えたようだ。
これなら中型戦闘機を3機購入するくらいはできるだろう。ファルコン型の正統進化型のイーグル型にするか、ハミングバードの機動性についてこれるホーク型にするか。
ハミングバードの火力不足を補うミサイル型がやはり有力になるか……何にせよ、中古市場やオークションを見ないと決定はできないかと保留になっている。
そしてログインできずにネットで情報を集めていると、どうしても掲示板で起こっている流れも目に入る。
どうやらBJが行ったジャミングが俺のせいになっているらしい。運営へのクレームも掲示板だけの盛り上がりじゃなくて実際に行われてそうだな。
とはいえ、俺としては以前に比べるとかなり落ち着いている。冤罪であるのは明白だし、今なら立場を分かってくれる知り合いも増えたからだろう。
気がかりなのは、海賊の報復だろうか。
狙われる可能性は十二分にある。ただ海賊行為は撃破任務への乱入がほとんどで、広い宙域に飛び出す自由出撃で、特定の相手を見つけるなんてのは至難の技なので、ほぼ不可能に近い。
「まあ謎のセンサーを持っていたら別だけど」
フウカはかつて俺の出現場所に的確に現れた事が何度かあったが、どうして分かったと聞くと「なんとなく」で済まされてしまった。
野生の勘、恐るべし。
「まさかBJも同じ能力を持ってたりしないよな……」
海賊の中でもより注意したいのは、BJだろう。なぜかいきなりフレンド申請をしてきたり行動が読みづらい。奇抜な発想も秀逸なので、1人で多数の宙域を監視するくらいやれてしまいそうだ。
「まあ、そこまで執着されるほどの接触では無かったと思うけど……」
早くログインして色々と進めたい一方で、不安も募っていく今日この頃である。
「結局、週末だよ……」
平日にログインする事はできず、金曜日である今日も結構、遅くまでかかってしまった。途中で晩ごはんを食べて帰ってきた。
そしてすぐさまVRゴーグルを付けてのログインだ。
「お久しぶりですマスター」
「ほんと、久々な気分だよ」
「悪評にめげて逃げ出したのかと思いましたよ」
「欠片も思ってない言いぶりだな」
「まあ、マスターはイジメるほど喜んじゃう性癖なので、その点は危惧していませんでした」
「それは何か語弊があるよね!?」
そんなやり取りさえ嬉しく感じてしまうと末期なのかとも思わなくもない。
「他の方は心配された様でメッセージが届いてますよ」
「そっか、心配させちゃったか〜」
キーマさんやポチョムキムキンなど、レイドに参加していない事をフレンドリストで確認できた面々は、俺の無実を知っているので親身になって心配して励ましのメールを送ってくれている。
リアルで忙しかったからだと返信していく。Foods連合の面々も次の攻略には来てくれと、催促するような者もいた。頼りにされているというのは嬉しいものだ。
しかし、『カタギにも海賊にも嫌われて、私達は同類だなっ』などと送ってきているBJは無視する事にした。そもそも今回のヘイトはBJのせいだしな。
「着信拒否にもできますが、どうしますか?」
「うう〜ん……」
今のところ慣れ合うつもりはないが、俺にはないアイデアを持っているのも事実で、完全に切るのはもったいないとか思ってしまう。まあ、言葉を交わさなくても互いの行動にインスパイアされる事はあるんだけどな。
「どうしようもなく行き詰まった時にツテは置いておくのもいいかなぁ」
「数少ない友達ですものね」
「か、数も少なくないし、とと友達でもないっ」
「はいはい」
「それよりも、ファルコン部隊の更新にかかるぞ!」
「はい、マスター。こちらにラインナップを用意しています」
俺が話題を転換すると、待ってましたとばかりに中型戦闘機のリストを表示する。3機1部隊として運用する事を前提に、リストアップしているあたりシーナの乗り気が伺える。
「ん……ミサイル機が値下がりしてるな」
「前回のレイドでジャミングされて、ほぼ無力化されてしまったのが原因かと」
「なるほど……」
粒子砲が使えないデフシンにおいてミサイル機は有用なはずだったが、BJのジャミングでミサイルが使えなくなった事で、乗り換える者が増えたようだ。
今はレールガンを主武装にした狙撃型や、散弾を発射する近接型が人気になって相場が上がっている。
「俺としては合体機の火力不足を補うのには、やっぱりミサイル型かと思ったんだが、ジャミングかぁ……」
ジャミング機器には指向性はなく、発動させれば自分も使えなくなるはずだが、BJはどうするつもりだったんだろうか。
レーダーが使えないとロックオンができなくて、追尾もなくなりミサイルは単に遅い弾でしかなくなる。
「ロックオンできなくても使えるような、座標指定型での運用……は、運要素が強すぎるな」
となると目視でのレールガン運用か。フウカに匹敵する回避を見せたBJなら、射撃も当然上手いだろう。レーダーが使えなくなれば、レールガンの弾も映らなくなるので命中率は上がるかもしれない。
いやまて、目視か。光は届いているって事だ。
「シーナ、ミサイルのレーダーは電波式だよな」
「はい、一般的なレーダーと同じく電波を利用したものです」
「赤外線での追尾はできないのか?」
「その機能はありませんね」
普通はゲームのレーダーに複数の探査方法なんて組み込む必要はないものな。ただプレイヤーが新規開発を判断するAI、デウスエクスマキナへと開発要望を出して可能と判断されれば開発できる。
宇宙船自体のレーダーには、赤外線での探査モードもあるので、機能自体は実装されていたのかもしれない。
「なるほど、あの時BJは攻撃方法を持っていないのではなく、使えない状態だっただけかもしれないな」
あらゆる光を遮断するダクロンでは赤外線も通らない。もし普通の宙域でジャミングの中、赤外線探査のミサイルで攻撃されていたら、ミサイルの接近も検出できないままに、直撃を受けていた可能性は高かった。
「そうなるとワンサイドになってただろうな。取り敢えず、方針は決まった。カクタスを3機購入、赤外線探査型のミサイルを開発だ」
「了解です、マスター」
中型のミサイルメイン機体カクタスを3機揃えて、シーナに運用させる事にした。
誘導性能のあるミサイルなら、射撃を当てるのにペナルティが掛かる遠隔制御ユニットでも、命中率を期待できる。また実体弾はシールドでダメージを軽減できないので、威力も十分。難点は攻撃で破壊される点だが、そこは迎撃が間に合わないほどの飽和攻撃にしたり、俺がハミングバードで注意を引いたりしながら補う事になるだろう。
カクタス型はその名の通り多肉植物を模した形をしている。球体が鉢植えに植わっている様な姿で、何本もの細長い筒が伸びている。
この筒をリニアカタパルトの様に使って、初速を稼いだ上で撃ち出す事で、ミサイル自体の推進剤を節約する仕組みらしい。
ミサイル艦は積載重量が重たくなるため、機動力は乏しく、シールドが強め。ただコアパワーはあるので、まっすぐ飛ぶのであれば、それなりの速度は出せる。
「これ、ミサイル撃った後の隙間、格納庫として使えないかね?」
「折りたたみ式のコンテナを用意して、中で展開できる様にしてみましょうか」
「できそうなら頼む」
行きは戦闘機、帰りは輸送船として使えそうならそれに越したことはない。中でスペースが足りないようならコンテナを引っ張ってもらうのもありかな。更に機動性が削られる事になりそうだが、ミサイルがなくなっている状況は戦闘を避けるだろうし大丈夫だろう。
「戦力増強はそれで進めるとして、次はBJの基地を解析していくぞ」