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「マスター、ゲート周辺に機影確認。どんどん増えています」
徐々にBJを引き離し安全距離を確保できていたが、ゲートに接近したところでシーナから報告が入る。
レーダーを確認すると確かに多くの機影が映っていて、更に数を増やしていた。
「海賊連中が、レイドを終えて帰ってきたのか!?」
「そのようですね」
「なんてタイミングの悪い……」
レイドの途中で抜け出したらしいBJと悶着しているうちに、他の海賊達もレイドの妨害を終えてホームであるダクロンに戻ってきてしまったらしい。
軽く30を越える機影は、まだまだ増えていっている。まだしばらくは帰還でごった返しているのだろう。
しかし、星系の出口はゲートのみ。まごついているとBJもやってくるはずだ。
「虎の子の一撃でも混乱を起こせるかどうか」
ハンマーヘッドの武装は粒子砲2門で、中型ミサイルは探査ポッドの数に換装していたが、大型ミサイル1発は積んでいた。低威力ながら広い範囲に効果を現す爆散型で、敵地で包囲された際に退路を作れるように持ってきた物だ。
しかし、相手はプレイヤーの中でも百戦錬磨の海賊衆。不測の事態には強い連中。すぐに立て直す可能性も高い。
「となると、最高速を維持したまま突っ込むしかないわけだが」
ステーションがくぐれるほどのゲートは、戦闘機に比べるとかなり大きいが、広大な宇宙の中では点でしかない。
最高速で突っ込む目標としては、決して大きいとは言えない大きさだ。
更には次々に海賊船を吐き出している最中。それらに接触してもアウト。強風の中でホールインワンを狙うようなものだろう。
「いやぁ、昨日のタイムアタックは、この時のためにあったのかもしれないな。シーナ、ルートを選定してくれ」
「了解です、マスター。ただ海賊船の動きは不定なので、予測値とずれる可能性が高いですよ」
「その辺はしゃーない。臨機応変に対応だ」
『成金王、無謀な特攻をするぐらいなら、私と語り合おうじゃないか』
減速しない俺の動きにBJから通信が入るが、俺としてはやる気になっている。戦闘は苦手だが、レースゲーには燃える質でな。昔は首都高を逆走して一般車両の隙間を縫っていくレースゲーやら、車体をぶつけ合うレースゲーもやってきた。
止まってる船くらい避けて見せようじゃないか。
最高速から撃ち出された大型のミサイルは、更に加速して海賊船の群れへと突き進んでいく。
「マスター、このまま進むとダメージを受けます」
「それは覚悟の上だ。海賊船は爆発を避けるために爆心地から離れようとするはずだから、一番安全なのは爆発の中心って話」
「合体機なら撃沈する事はないでしょうけど……かなり危険です」
「海賊を多数相手にするよりはマシだ」
途中で迎撃される可能性もあったが、ホームに帰ってきた緩みなのか、海賊達の反応は鈍い。指定したポイントに到達したミサイルは、その場所で自爆。周囲に破片をばらまいていった。
レールガンの散弾に比べるとスピードも威力もないが、同心円に広がるそれは宇宙に咲く花火の様に見えた。
その広がりに反応した海賊達は中心点から離れるように動いていく。弾速が遅い分、しっかりと加速すれば逃れることは容易なはずだった。
「思ったより鈍いっ、何やってんの!?」
しかし逃げるのに手間取っているのかかなりの海賊船がモロにダメージを受けていた。この時は忘れていたが、海賊達はレイド戦で一戦交えた後の状態で、元々ダメージを受けていて、船の動きが鈍っている者も少なくなかったのだ。
そしてそうした者達は船体の耐久度も減っていて、低威力の散弾でも致命傷になっていく。耐えきれなくなったものから爆沈し、更には搭載したままのミサイルにも誘爆。新たに起こった爆発で、周囲へのダメージを増やしていく。
爆散して飛んできた破片を処理しようと粒子砲を使った者の流れ弾が、他の船のシールドに当たり、攻撃されたと反応してのカウンター攻撃が始まる。
そうなると冷静だった者達も即座に反応していく。元々は利害の一致があったから共闘しただけの連合。いつ寝首をかかれるかも分からないレッドネームの集団は、疑心暗鬼に陥って同士討ちを始める事になっていった。
「おいおい、爆心地が安全って誰が言ったんだよ、激戦区の真っ只中じゃねぇかっ」
しかし今更減速してもいい的になるだけ、急旋回も最高速では船体への負担が大きい。混乱の中心へと突き進むしかなかった。
大型ミサイルが撒き散らした散弾。爆発した宇宙船の残骸。誘爆するミサイルに、海賊達の撃つ粒子砲。
正面からくる物は高速振動剣で切り捨てながら、大きな破片や船体は避ける。大きく舵を切れば船体にダメージを受けるし、ゲートからも逸れるので、最小限でルートを戻しながら進む。
まさにガス惑星へのタイムアタックの再現というような状況の中を一気に突っ切っていった。
時間にすれば30秒あるかないかだが、接触即大破という緊張感の中でのアタックは、昨日よりも集中力を増していく。
『はははっ、噂以上の鬼畜ぶりだね、成金王! それでこそ我が心のと……』
BJの哄笑と共に俺はダクロンを脱出した。
「ふい〜さすがに寿命が縮んだな」
「船体ダメージ79%、あと一発直撃があれば墜ちてましたね」
ピコンピコンと赤く点滅するサブディスプレイには残り耐久度が表示されていて、危うかった状況を示していた。
ハミングバードはまだ高速振動剣で守られている部分も多かったが、ハンマーヘッド部分はかなりボロボロの状態だ。
「マスター、マスター。獲得賞金がすごい事になってますよ!」
「賞金?」
「賞金首の撃破ボーナスです」
サブディスプレイが切り替わり、レッドネームの名前が並んでいく。その数は26にも上り、週間獲得賞金ランキングで桁違いのトップに踊り出ていた。
「いや、さすがにこんなに倒してないだろ?」
「最初の爆発の後の混乱で、同士討ちを始めた分までマスターの功績に載ったみたいですね。これでファルコン達を強化できますよ」
「おおお、そんなにか」
「明日の朝に週間ランキングの順位が確定すれば、更にボーナスが付くので中型戦闘機くらい買えちゃいます」
「いいねぇ、BJの真似は嫌だしイーグル型を揃えようか」
などと獲らぬ狸の皮算用を始める俺であった。
「そんな事になってたんですか」
『BJ自体はすぐにいなくなったみたいなんだが、他次元生物にやられてしまったよ。せっかく貸してもらった武器もおしゃかだ。弁償させてもらうよ』
「いえいえ、貴重な戦闘データを貰えたらこちらとしては十分プラスなんで……あ、もう一門作るんでそっちを買ってください」
『ああ、わかった。それでお願いする』
ステーションに戻ると、キーマさんから通信がはいって、レイド失敗の報告を受けた。
戦場に現れたBJは、例のマルチドローンを大量に展開。大規模なジャミングを行ったらしい。
それでレーダーをやられたプレイヤーサイドは、ミサイルも使えなくなって、目視での射撃のみの状況に陥ってしまった。
そのためにジャミングの影響を受けていない小魚型他次元生物を止められなくなり、ゲートが破壊されてしまったらしい。
その影響はBJと共にやってきた海賊連中も巻き込み、そちらにも大ダメージを与えたために他次元生物の一人勝ちみたいな戦況だったようだ。
ダクロンに戻ってきた海賊船が満身創痍の艦が多かったから、ミサイル一発があれだけの戦果に繋がった訳だ。
「ほぼ1人でレイドを失敗させるとか、BJ怖いな……」
「フレンド申請来てますけどね」
「友達といいながら、平気で背中から刺しそうで怖い」
一緒に向かった海賊達も巻き込んで、大損害を与えた様だからな。
「とりま放置が正解だろ」
「了解しました」
「何にせよ、今日は疲れた。明日、賞金が貰えたら部隊を整えようか」
「はい、マスター。お疲れ様でした」
「おやすみ〜」