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「何とかなったな。ハミングバードの機動性が上がってるからミサイル程度、当たらんのだよ。しかし、BJは甘いな。俺ならこの気の抜けた瞬間を……」
ジャーン、ジャーン、ジャーン。
「何、ドラ!?」
「外部からスピーカーに干渉しています。それと、正面の小惑星のハッチが開きました。敵機、来ます」
「伏兵だと!?」
小惑星のハッチが開き、ハミングバードの部隊が飛び出してきた。4機による編隊が俺を取り囲む様に展開。死角を狙って攻撃してくる。
「厄介なっ、この」
粒子砲で反撃するが、相手もハミングバード。すすっとスライドして攻撃が避けられてしまう。そして死角、死角に回られて攻撃してくるのだ。機動力のある相手というのはやりにくい。
「しかし、動き的にはノーマルか。しかも制御ユニットによる動き、単調になりがちだな」
死角を狙う事を徹底している分、動きのポイントが分かりやすくなっている。あえて死角に誘い込み、急旋回から正対して攻撃を返すと直撃を奪えた。
攻撃力アップが施された粒子砲の一撃は、紙装甲のハミングバードにとっては大打撃を与える。直撃を受けた1機は、そのままフラフラと戦線を離脱した。
「シーナの操るファルコンに比べるとかなり脆いな。経験が足りてないのか?」
「それは私が優秀なのもありますが、相手が単純な自動操縦だというのがありますね」
遠隔制御ユニットでシーナが操作する場合は、AIであるシーナの経験値が反映されるが、ハミングバード達は予め組まれたプログラムで動いているということ。
それは相手の腕や動きを考慮できない分、自動操縦の方が判断が鈍いという事らしい。
しかし、1機が戦線離脱したところで、思考ルーチンは切り替わった様だ。遠距離から小惑星に隠れて死角を狙ってきた攻撃から、接近して周囲を飛び回り、撹乱する動きに変わっていた。
動きの制限される小惑星帯の中、機動性に優れたハミングバード3機に包囲された状況。並みの戦闘機ではその包囲網から逃れる事は難しく、中口径一門という貧弱な武装でちまちまと削られながらも、反撃もできずに撃破される……という可能もあっただろう。
「いかんせん、最大の強みである機動力で上回る相手に仕掛けるには愚策」
ハミングバードをカニ装甲にする事で軽量化を図り、レア鉱石で機動力がアップするメインノズルに改装を済ませているこの機の前では、ノーマルのハミングバードでは優位を作れない。
包囲するために接近してくれた事が、かえってこちらの有利に働いてしまっている。
手近な1機に狙いを絞ると、タイミングを見て接近。高速振動剣で突いてやれば、装甲の薄いハミングバードは容易く斬れてしまう。
2機に減った事で更に行動パターンが変わった可能性もあるが、包囲のために近づいてくれた機を逃すこともない。
続けざまにもう1機を体当たりするように撃破すると、こちらから離れようとする1機を追いかけ、粒子砲で仕留めた。
「なるほど、相手には合わせずパターンでの対処となると、自分が不利な状況にしちゃうって事だな」
今後、自分用の基地を作った際の参考にさせてもらおう。
「さてさて、防衛機構は沈黙させたかな。後は情報収集をさせてもらうか」
ハミングバードを吐き出した後、閉じられたハッチを剣で切り裂き、探査ポッドを撃ち込む。外からは小惑星としてカモフラージュしていた秘密基地も、内部からの精査までは対応していないだろう。
取得した情報は、そのままハンマーヘッドへと送り、詳細を分析すれば得られるものは多いはず。
『いやはや、留守を狙ってこそ泥が入り込んでいるかと思ったら、海賊じゃないじゃないですか』
そんな声が聞こえてレーダーを見ると、さっきまで映っていなかった海賊機の反応がすぐ近くにあった。
「すいません、行きは見えていたのですが」
「前半分はステルス装甲だったみたいだな」
レッドネームプレイヤーは、レーダーで捉えると自動的に名前が表示される。そこにはブラッディ・ジョーカーと記されていた。
『折角のレイド戦。強者と戦えると思っていたんですが、種を撒くだけで引き返す事になるとは。しかも私の可愛いハチドリちゃんまで傷つけて……覚悟はできてますよね』
やはりレイド戦の妨害に向かっていたようだ。それを引き戻せたならキーマさん達の役に立てただろうか。
しかし、俺の方がピンチだが。
『さてさて、存分に楽しませてくださいよ。籠の鳥展開』
BJの声と共に、周囲の小惑星の間に、何らかのエネルギーラインが形成される。
「ある種の兵器かと思われます。接触するとダメージを受ける事になるかと。下手をするとメインノズルやコアにダメージを受けて、動けなくなる危険があります」
「この宙域から逃さないって意図だろうな」
『ふむ、慌てて逃げようとはしないのですね。海賊達より肝が座っている。それでこそやりがいがありますよ。マルチドローン、パワーチャージ……イッツァ、ショータイム!』
BJ機からミサイルらしき飛翔体が発射された。ハミングバードの機動力なら、多少のミサイルは避けられる。ギリギリまで引きつけて、最小限で避けるつもりで備える。
しかし、BJが撃った弾はこちらには向かって来ずに、籠の中に均等に広がっていく。直接攻撃するつもりではなく、何かの補助兵器か?
次の瞬間、スピーカーから激しい音が鳴り始めた。ヘビメタ系の騒音で頭に響く。
「シーナ、ボリューム下げて」
「無理です、外部から強制的に鳴らされてます」
「マジか」
しかし、音がうるさいからとヘッドホンを外せば、シーナとのやり取りもできなくなる。何とも面倒な嫌がらせを……。
「マスター、レーダーもやられてます」
「何っ」
激しいビートに合わせて、レーダーにはノイズが走り、BJや妨害装置などの場所が見えなくなっていった。元々視界の効かないダクロンで、レーダーまで潰されたら怖くて移動すらままならない。
「ひとまず籠の大きさと位置は表示し続けてくれ」
「了解しました」
「このジャミング、移動したら避けられるのか?」
「いえ、敵基地内に撃ち込んだ探査ポッドも同様の障害が出ていますので、全方位にジャミングしているかと」
指向性でこっちだけ妨害してるなら、場所を変えれば逃れられるかもしれないが、宙域まるごと妨害してるとなると、逃げ場はなくなってしまう。
しかし、それはBJにとっても同じこと。こちらを狙う事はできないはずだが、どうするつもりだ。
「特定の周波数のみブロックしていないとか、ジャミングしていない瞬間がないかを精査」
「了解しました」
『安心したまえ、こっちも見えていないから。一方的になったらつまらないでしょう? それでも攻撃はさせてもらうがね』
そんな声に慌てて回避行動を取ろうとして、踏みとどまる。わざわざ言葉で伝えてくるというのは、何らかの意図があるはず。
逆にこちらから粒子砲を撃ってみた。
「爆発を検知しました。機雷があるようです」
「なるほどな、慌てて動いたら危なかったか」
『慎重な性格の様だね。ただそれだけじゃ、逃げ切れないよ。さぁ、足掻いて見せてくれ』
ノイズ混じりのレーダーだが、近くで起こった爆発などは検知できるようだ。しかし、機雷自体は見えていない。さっきまで無かった場所に機雷があった以上、機雷自体は動いているはず。となると、止まっているのが安全な訳じゃない。
「機雷一発のダメージはどんなものかわかるか?」
「エネルギーシールドでは防げない物理攻撃に属するので、一発でも致命傷になる可能性があります」
「ですよねー。しかし、機雷は重量があるから戦闘機には載せにくい。ましてや合体機の半分となれば、さっき撃ちだした奴で打ち止めもありうる」
となるとこの宙域に撒かれた機雷は、小惑星内の基地からと考えた方がいいか。探査ポッドからの情報もノイズまじりであてにはできないが……。
粒子砲で進路上の機雷を探りながら、小刻みに移動して、多少なりと被弾率を下げつつ、相手から狙われにくい位置を探る。
「この機雷だけじゃ終わらないよな。となると、次の一手は何でくる?」
「どうでしょう……」
禁則事項に触れるわけではなく、本気の困惑が見て取れるシーナ。時間が経つほど機雷の散布は進むはずなので、打開するには早い方がいいわけだが……。