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海賊船の巡回部隊に攻撃した後、俺達はステーションへと戻っていた。予想通りではあるが、シーナの率いるファルコン部隊では、海賊船を相手にするには力不足だった。
「もっといい船があれば戦えます!」
「そのためには稼がないといけないんだがね」
初期型ファルコンは小型機で、海賊船は中型から大型機。シールドも厚ければ、火力も違う。ファルコンから上位の機種に変えられれば戦える可能性は出てくるだろうが、先立つものがない。
稼ぐために新星系の探索を進めているが、そのためにも投資が必要でカツカツの状況は変わってはいなかった。
「ということで、単機潜入に切り替える」
「普通に撃破任務をこなすとかないんですか?」
「それで稼げる額だと、中型機を揃えるだけで膨大な時間がかかるだろ」
そこでふと思いついた事を口にする。
「俺がいない間に勝手に稼いで、強くなってくれてもいいんだぞ」
「さすがにそれは禁則事項ですよぉ」
ある種のゲームは放置してても勝手に成長してくれてたりするんだがな。まあ、制御ユニットを運用している俺しか恩恵がない状態なら無理か。
かといって制御ユニットを普及させて皆が使えるようにすると、結果相場が上がるだけで稼げる分、欲しいものの値段が上がる事になる。
「資本主義の基本は、他人よりもどれだけ頑張れるかだからなぁ。皆と同じことをしてたんじゃ稼げない」
「世知辛いですね」
などと世の無情をぼやきつつダクロンの巡回機が偵察しているエリアへと到着。巡回ルートは前回の時にマッピングしてあるので、後は探査ポッドで巡回している部隊を見つけたら、奥へと進めるタイミングが掴める。
「ここからが本番……だな」
スニーキングミッション。
探査ポッドから送られてくる海賊船の位置を頼りに、相手のレーダー範囲に入らないように注意しながら宙域の奥へと侵入していく。
こちらのレーダー範囲は敵より広いもののアクティブにレーダー波を出してしまうと、距離は分からなくても方向はわかってしまう。となれば調査にやってくるだろう。
なので基本的には相手が発するレーダー波を受けて方向を認識する。元々暗闇の中、相手の音を聞きながら進むのは、潜水艦の様な感覚だろうか。
「レーダーに感、右前方一時半です」
「面舵、取舵どっちだっけ?」
「左に切ればいいじゃないですか」
「ヨーソロー」
うろ覚えな航行知識で軽口を叩きながらも、進行自体はスムーズだった。
先に調べていた編隊の巡回路を避けながら、探査ポッドでも偵察しているので抜かりはない。
もう少しで未到達ラインへと差し掛かろうかという時、それは起こった。
「前方に感、多数です!」
「なんだと、どこかで見つかったか!?」
巡回ルートから言えば、会敵するようなエリアではない所で、前方から多数の海賊船がレーダーに映っていた。
俺は慌てて航路を修正、一気に下方へと離れる事にする。追いかけられたとしても、合体機の速度についてこられる機は少ないはず。
そう思って、一定の距離を取りながら、後方に残してきた探査ポッドからの情報を拾う。
「ん……これは、レッドネーム?」
「ですね。海賊プレイヤー達の集団の様です」
プレイヤーを襲ったり、ステーションに対して敵対行為を取ると、海賊と認定されて表示される名前が赤色に染まる。
ネットゲーム黎明期にウルティマオンラインなどで採用されたPKは名前が変わるシステムは、STGにおいても継承されていた。
「ああ、レイドに向かうのか……ということは、この先の宙域は海賊プレイヤー達は出入り自由なステーション?」
「どうでしょう」
ひとまずキーマさんに海賊達の出発をメールしておく。時間的にはもうレイド戦は始まっているはすだが、メール確認している暇があるかな。
「レイドで海賊の襲撃は慣習化してるみたいだから対策はしてるはずだから、俺の連絡は不要かもしれないけどな」
海賊(PK)達を見送った後、改めて未到達宙域の中心を目指そうとした時、もう1機やってくるのに気づいた。
「早いっ、3倍速……奴か!」
「さすがに3倍は出てないと思いますけど……」
さっきの海賊達とは違う角度で迫ってくる1機は、先の集団より明らかに速かった。それこそ合体機でも危うい速度。
つまりは合体機の元祖であるBJだろう。
「こっちよりは戦闘寄りの機体のはずだから、レーダーレンジは狭いと思うが……」
探査ポッドからの位置情報をもとにギリギリまで近づき、光学望遠でその姿を見ようとする。
「って、ここダクロンじゃん!」
光を通さない宙域ではその姿を確認できなかった。ただその移動速度はかなりのもので、最高速ではうちのハミングヘッドより早そうだ。
「しかし、1機だけ別方向から来たのが気になるな……探ってみるか」
BJがやってきた方向を記録して、その延長線の宙域を探索してみることにした。それは本来目指していた未到達宙域のかなり外れの方に位置している。
その分、COM海賊の巡回ルートからも外れているので、比較的簡単に近づく事ができた。
さて、あるのは小惑星帯か。鉱石の種類も特に目立った物はない。しかし、周辺が鉱山と思えば採掘は楽そうだな。
そして小惑星の1つが他とは違う反応を見せた。
「ロックオンを確認、レールガン発射されました」
「いきなりだな、防衛機構かっ」
「後方からも来ますっ」
「何っ」
正面の少し大きめの小惑星が発砲するのとほぼ同じくして、周囲の小惑星にもアラームが鳴る。どうやら本星と連携して射撃する防衛機構を備えていたようだ。
弾がレールガンで少し弾速が遅い分、回避する余地が残されていたが、一発でも喰らえば大ダメージ。慎重に回避しながら小惑星から離れる。
1つ探査ポッドを置いて、小惑星帯からも脱出したが、その頃には探査ポッド自体が破壊されていた。
「秘密基地みたいで格好いいな」
BJという海賊プレイヤーは中々に面白いプレイヤーらしい。他と群れる事なく独自に拠点を構えて、自機をカスタマイズ、エース級の腕まで持っている。
「天才という奴か」
「マスターも負けてませんよ」
「いやぁ、腕はもちろん、カスタマイズにしても俺の方が2歩、3歩後塵を拝しているな……」
合体機をトレースしてわかったが、安価で一気に性能を引き上げるアイデアは大きい。
「しかも拠点を自作するなんて考えてなかった」
ここはあくまでも小惑星帯でステーションからは離れた宙域だ。そこに防衛機構を備えた個人ステーションを建築しているとは。
ガス惑星の側に臨時ステーションが建築できたが、あれもミッションがあればこそだと思いこんでいた。
しかし、ステーション外装用のパーツを作成できるのだから、自分用にステーションを自作する事もできた訳だ。
「小惑星帯に拠点を構えれば、採掘し放題だしタイムロスもなくなる」
ぐぬぬ……と悔しくなってしまう。生産職を自認して、オークションで新たな流れを作ったりして満足していたが、もっと先を独走しているプレイヤーがいたとは。
胃の中のおかず、大腸を知らずって奴か。
「とりあえずもうちょっと突いてみるか」
相手の武器がレールガンであるならシールドが厚い合体機よりも、回避優先のハミングバードの方が相性がいい。分離した状態で再接近する。
ハンマーヘッドは外からレーダーを効かせて、情報をリンク。BJの秘密基地の情報を極力集めて帰ることにする。
接近して小惑星のロックオン範囲に入ると、再び攻撃が開始された。
「って、ミサイルかよっ」
「マスター、ダクロンだとレーザーは使えないので、回避してください」
「ぬぉ〜っ」
先程レールガンを撃ってきたのとは別の小惑星達が、ミサイルを発射してきた。相手を見て武装を選んでいるのか。
「だが、ハミングバードの機動性を舐めてるなっ」
スラスターでの水平移動を混ぜながら、ミサイルの誘導をかいくぐり、小惑星の影に入るなどして避けていく。
結構、誘導性能が高いミサイルだったが、それでもハミングバードの比ではない。直角の機動で回避すれば、追随できるものはなかった。
「数が多いっ」
四方八方から追い込まれると分が悪くなるので、直線に加速して後方にミサイルをまとめ、小惑星の寸前で回避。小惑星へと撃ち込ませて爆発させていく。
その要領でミサイルやレールガンの発射台になっている小惑星へと誘い込み、次々に沈黙させていき、何とか攻撃を止めることに成功した。